SICE 社団法人 計測自動制御学会
Top
新着情報
学会案内
入会案内
部門
支部
学会活動
学科行事
お知らせ
会誌・論文誌・出版物
学会誌
論文集・バックナンバー
英語論文集
産業論文集
学術図書のご案内
残部資料頒布のご案内
リンク
その他
サイトマップ お問い合わせ
 会誌・論文誌・出版物
 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.35 No.3 (1999年3月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


一覧

[論  文]


[論  文]

■ 超音波ドップラー法による軟部組織加振時における弾性特性の評価

慶大・木野 透,本多 敏,富田 豊

 臓器・組織の弾性の変化は,組織病理や病気の兆候として関係づけられ,癌,心疾患,肝硬変などの病気の早期の発見に対する有用な情報となる.しかし現在医用で多く用いられている超音波診断では,組織の硬さの差異は現れない.ゆえに今日でも組織弾性に関する情報については医師の触診により主観的に判断される事が多い.これに対して近年,外部から加えた低周波振動の組織内部での振動の様子を超音波ドップラー法で検出する方法が提案され,検討されてきている.
 本研究では,上記方法により組織内部を伝播する振動振幅の一次元分布を測定し,組織弾性の違いについて解析した.
 まず,均一の硬さをもつファントム中を伝播する低周波振動振幅は,ほぼ一様の大きさであることが確認された.つぎに,周囲より「硬い」含有物をもったファントムにおいては,低周波振動が「硬い」部分で遮断される様子が確認された.そして周囲より「軟らかい」含有物をもったファントムでは,低周波振動は「軟らかい」部分までは大きく振動するものの,その背後の領域にはあまり伝播しないことがわかった.以上の結果から,本手法により組織弾性の違いが検出可能であると思われる.


■ 離散時間最適レギュレータの極限形とブロック非干渉制御

金沢工大・小林伸明,岐阜職業開発短大・櫻井光弘,金沢工大・岡田義明,足利工大・中溝高好

 本論文は先に報告した離散時間システムの,標準的2次評価関数を最小とする最適レギュレータ問題の1対1非干渉特性の一般化を扱ったものであり以下の点を主張する.
 ・2次評価関数の入力に関する重み行列を零に極限したときのフィードバックゲインは,ブロック非干渉問題と関連している点を明らかにした.
 イ弔い脳綉C龍妨妥セ[舛鰺ヒ僂靴真靴靴ぅ屮蹈奪g鶸馨腸修里燭瓩寮W翅Г瞭浬仄蟒腓鮗┐靴拭テ浬仄蟒腓魯螢D奪訴cコ阿硫鬚搬綽ッ藥擦農W翅Гト浬个気譴襪里如そ祥茲寮W翅Г里茲Δ淵ぅ鵐織薀D燭瞭浬个箒貿枌屬里燭瓩良現猗鶸馨跳呂瞭各「鯢ヒ廚箸靴覆づ世僕l兩C「△襦・
 イ気蕕貌フ録瑤タ燭ぅ轡好謄爐紡个垢襯屮蹈奪g鶸馨腸修里燭瓩寮W翅e浬佶,悗粒板イ鮖遒澆討い襦・


■ スプライン型のパラメータ依存二次形式を用いたゲインスケジューリング制御系の設計

神戸大・増淵 泉,北陸先端大・久米彩登,示村悦二郎

 Linear Parameter-Varying(LPV)システム表現に基づくゲインスケジューリング制御系の設計法として,従来cより多項式などに固定したパラメータ依存二次形式に対するLMI条件を,十分条件となる有限個のLMIに帰着して解く方法が提案されている.しかし,構成された有限個のLMI条件がパラメータ依存二次形式の存在に対する必要条件となるかどうかについては考察されていない.解析・設計における保守性を減少し,また計算量との関係を明らかにしていくためにも,パラメータ依存のLMI条件に対して必要十分となる有限個のLMI条件を構成することは重要である.
 本論文では,パラメータ依存二次形式に対するLMI条件と等価な有限個のLMI条件の構成法を提案する.この有限個のLMI条件が成り立てば,パラメータのスプライン関数となる正定対称行列による二次形式(これをスプライン型二次形式と呼ぶ)が構成される.逆に,元のパラメータ依存LMIがスプライン型に限らず解をもてば,上述の有限個のLMI条件が成り立つことが証明される.この方法をLPVシステムのL2ゲイン性能の判別および状態フィードバックによるゲインスケジューリング制御系の設計のためのパラメータ依存LMI条件に適用し,数値例を示して有効性を検証する.


■ ロボットシステムのロバスト軌道追従制御

上智大・申 鉄龍,田村捷利

 ロボットの動特性は非線形モデルによって記述されるが,そのパラメータにはロボット固有の物理特性をもっている.リヤプノフ理論に基づいてロボットの制御系を構成する際に,この特性を活用すればリヤプノフ関数の構築が容易になり,補償器の設計が簡単になることはすでに報告されている.
 この論文は,非線形系の消散性理論に基づいて,ロボットシステムのロバスト軌道追従制御問題を解く.不確かさとしてはパラメータ誤差やモデル化誤差および外乱トルクが同時に存在する場合を考え,この不確かさの存在と関係なく未知外乱から追従誤差の評価信号までのL2ゲインを一様に指定レベル以下に抑制する状態フィードバック補償器を構成する.その際,重要なのは消散不等式を満たす蓄積関数を構築することであるが,ロボットの固有特性を活用することによって,この蓄積関数が容易に構築できることを示す.本論文では,まず受動性理論によるロボット追従制御手法をまとめ,つぎに消散性概念を用いた非線形系の設計理論に基づいてこの考え方をロボットのロバスト軌道追従問題に拡張する.おもにロバスト外乱抑制追従制御や適応型ロバスト外乱抑制追従制御を提案する.


■ 非線形H∞状態フィードバックをもちいた線形システムに対する非線形制御則の一設計法

東工大・清水悦郎,久保田健太,三平満司,古賀雅伸

 本論文では,線形システムに対して制御則のゲインが,状態が原点近傍である場合ではローゲイン(ハイゲイン)であり,変動が大きくなることに応じて,ハイゲイン(ローゲイン)となるような,非線形な特性をもつ状態フィードバック制御則を設計することを考える.このような特性をもつ非線形制御則を設計するために,本論文では評価出力に非線形な重みをかけた一般化プラントを構成し,この一般化プラントに対してH∞制御問題を考えることによって非線形な特性をもつH∞制御則を設計する.非線形重みをもちいたことによって一般化プラントは非線形なプラントとなり,一般には非線形H∞制御問題を解かなければならないが,本論文では非線形重みに対して制約条件を与えることによって,代数リカッチ不等式を解くことによって非線形な特性をもつH∞制御則が設計できることを示す.さらに制約条件をみたし,かつ設計された非線形制御則が望ましい特性をもつような非線形重みを示す.


■ 円弧接続コース上のロバスト自動操舵―非線形低次元化スライディングモード制御器―

京大・熊本博光,西原 修,住友電工・天目健二,下浦 弘

 自動操舵の研究は,運転の自動化のみならず,マイクロ交通流アニメーションや,運転時の人間行動の究明にも,基礎的知見を提供するものと思われる.本研究では,円弧で滑らかに接続されたコースを考え,自動車の自動操舵のための新たな制御則を提案する.車両重心前方の特定位置をコースに追従させる.この位置は,車両重量,慣性モーメント,重心・後輪間距離から求まり,車速には依存しない.系の次数は4次となるので,横すべり角とヨーレートを測定可能とし,制御対象の低次元化と制御則の簡単化を図り,その正当性を明らかにする.半径誤差を横軸としその微分を縦軸とする位相面に,原点を通る切換線を導入し,低次元化されたスライディングモード制御器を構成する.既知パラメータと未知パラメータの双方の場合につき,制御則の安定性と低次元化の正当性を保証する.等価操舵量により,ステア角,ヨーレート,横すべり角の定常値算出公式を導出する.直線走行時に横風外乱を受けたとき,車体角は直線に対して有限の傾きをもち,車速方向だけが直線に沿うことを示す.乾いたアスファルト路のパラメータで圧雪路の操舵を行い,非線形タイヤ特性を考慮した数値例により,提案した制御則の有効性を明らかにする.円弧や直線の接続にクロソイド曲線を導入すれば,曲率変化が連続となるが,クロソイドを微小円弧の繰返しと見なして制御則を適用し,圧雪路の悪環境下でのオーバーシュートが抑制され,操舵量などの時間変化が滑らかになることをも示す.


■ 物理的情報にもとづく不確かさのモデリング―柔軟振動系に対する制御器の一設計法―

九大・今井 純,和田 清

 柔軟構造物などを記述する標準的な偏微分方程式で表わされるシステムに対し,未知の高次振動モードによる不確かさのクラスを可能性集合にもとづいて周波数領域上で明らかにする.すなわち,有限個の低次の振動モードに関するパラメータと作用素ノルムの上界,および未知の固有値の下界という既知情報のもとで,不確かさを包含する加法的摂動の最小上界およびそれを達成するノミナルモデルの周波数領域における陽表現が簡潔な形で得られることを示す.得られた不確かさのクラスの表現は数値計算上扱いやすく,制御器の設計に有効に寄与しうることが,柔軟ビームに対する例題において示される.


■ 相関データのウェーブレット解析に基づくむだ時間測定

東大・田原鉄也,新 誠一

 本論文では線型システムのむだ時間を測定する方法を提案する.提案する手法はシステムの次数や相対次数の事前情報が不要であり,入力も比較的自由に選べるので,さまざまなプラントに対して適用が可能である.本手法では,線型システムのインパルス応答はむだ時間のまわりで自己相似性と呼ばれる性質を満たすことを利用している.この自己相似性はウェーブレット解析により検出できることがわかっている.提案する手法では,システムの入力信号と出力信号の相互相関関数のウェーブレット変換から間接的にインパルス応答の自己相似性を検出することでむだ時間を測定する.相互相関を使うことで,入力信号と相関のない外乱の影響が小さくなるという長所もある.本手法を適用するためには入力信号とアナライジングウェーブレットが一定の条件を満たす必要がある.本論文ではこの条件についても明らかにする.また,数値シミュレーションにより提案した手法の有効性を示す.


■ 非線形スタティクス補償型PID制御:化学重合反応プロセスの制御

佐賀大・中村政俊,白砂健太,杉 剛直,三菱化学・大山 敏,小河守正

 化学重合反応プラントは非線形性の強いプロセスであるが,現場ではPID制御の占める割合が大きく,従来のPID制御を適用した場合は運転条件の変化に対して細かなパラメータの調節が必要となってくる.著者らは非線形性のある系に対して,これを非線形のスタティクスと線形のダイナミクスとに分離したモデルによって表現し,非線形スタティクスをその逆関数で補償し,残りのダイナミクス部分に対して既存の線形制御理論を用いる非線形分離制御法を提案してきた.線形制御理論を理想的に用いることができるので,他の線形制御理論に入れ替えても理想的に発揮させられることが期待でき,この概念の応用範囲は広くかつ有効である.本研究では,非線形分離制御法の考えに基づいた制御器を構成し,線形制御理論にPID制御器を用いる非線形スタティクス補償型PID制御法を提案した.本PID制御のパラメータは1/4減衰法を用いて決め,系の動作条件が変化したときにおいても常にPID動作は理想的に働くことを示した.さらに本PID制御法の特性は,従来型PIDゲインを動作条件に応じて常に最適チューニングをしたことと等価になっていることを示した.本方法は実系との一致性のある制御対象に対して制御を行い,非線形スタティクス補償型PID制御法の性能を確認しているので,実用可能性は大である.


■ Tele-Bilateral Impedance Control for Master-Slave Systems

"Tokyo Inst. of. Tech・Masaki YAMAKITA

Masaru NEGI and Koji ITO"


■ 熱間タンデム圧延における鋼板張力の動特性方程式解析―鋼板曲げ剛性,自重,速度による鋼板たわみの影響の検討―

帝京大・芳谷直治

 薄鋼板の熱間仕上圧延において,鋼板はスタンド間でルーパーに支持されながら,数台の圧延スタンドで連続的に圧延され,鋼板圧延方向には張力が働く.鋼板の厚み,幅の変動抑制と操業安定化のためには,この張力を所定の目標値に制御することが必要であり,高精度制御のためには,張力動特性モデルに基づいた制御が不可欠である.一方鋼板には,曲げ剛性,鋼板自重,速度に起因してたわみが発生し,たわみ量は張力,ルーパーによる鋼板押し上げ量などにも依存する.たわみは張力動特性へ影響を与え,低張力ほど影響は大きいが,従来の張力モデル式では考慮されていなかった.本論文では材料力学理論に基づいて,鋼板たわみの張力への影響を解析し,スタンド間鋼板長さ算出用簡易式を含めた,新しい張力動特性モデル式を導出した.モデル式は今後,張力挙動の解析・シミュレーションや張力制御における精度向上に役立つと思われる.


■ 船舶の定点保持制御での可変ゲインによる安定性改善

三菱重工・赤坂則之

 複数のサーボアクチュエータを有する船舶の定点保持制御系を具体例にして,サーボ駆動系の飽和特性による制御系の不安定現象を改善するために,
(1) 船舶が360°全周より受ける外乱に対して安定性の検討を一般化するために,外乱に対抗して定点保持する可変翼ピッチ首振式スラスタのサーボアクチュエータの操作信号の正規化手法を明らかにし,
(2) 外乱量の大きさをサーボ駆動系の増幅器への誤差信号の大きさeで監視し,eの大きさに応じて制御ゲインを切換える手法として,基準量e0を導入し,●e●>e0のときは制御ゲインをより小さな値に換え,e●e0のときは制御ゲインをより大きな値にすることにより制御系の安定性が改善されることを明らかにした.
(3) 上記基準量e0の決定法として,定点保持制御では記述関数法が近似的に適用できることに着目し,シミュレーション計算と併せて基準量e0の決め方を明らかにした.
(4) 増幅器への誤差入力eと基準量e0を用いた上記制御ゲイン切換ロジックを,マイコンによる離散時間制御にそのまま使える形で明らかにし,シミュレーション計算でそのロジックを検証した.


■ ゲインスケジュールドH∞制御による車両運動のロバスト安定化

豊田中研・小野英一,名大・細江繁幸,豊田中研・浅野勝宏,菅井 賢,土居俊一

 自動車のスピンを防止し,車両運動の安定性を向上させることは自動車制御における重要な課題となっている.スピン現象は後輪コーナリングフォースの飽和特性に起因しており,原因となる後輪コーナリングフォースの飽和特性をプラント変動とみなすことにより,スピン防止はロバスト安定化問題として定式化できる.本稿では,制動力配分制御によるスピン防止を目的として,ロバスト安定化問題をLMI表現し,任意の車速変化時にもロバスト安定性を補償する制御系設計を行った.ここで導出された制御則は,限界を超える操舵入力に対してもロバスト安定性を補償するものであり,その効果は,走行実験によって確認される.走行実験では,ヨー角速度の目標追従を目的として設計された最適レギュレータとの比較を行っており,導出された制御則では限界旋回領域において安定した旋回特性が確保されるのに対し,ロバスト安定化条件を満足していない最適レギュレータではスピンが発生するという結果を得る.


■ 非線形オブザーバを用いたフレキシブルアームの制振制御

九工大・ウメルジャン サウット,梅田信弘,花本剛士,辻 輝生

 近年フレキシブルアームのモデル化や制御に関する多くの研究結果が報告されている.というのは,産業用ロボットや宇宙空間で作業するマニピュレータや宇宙構造物などにおいて,作業の高速化や省エネルギー化および低コストの要求から,軽量化が望まれ,その結果アームまたはビームがフレキシブルとなり,弾性振動が発生するという問題が生じるからである.これは,位置制御と同時に振動抑制制御問題と考えられる.
 本研究では柔軟構造物のシステムとして,長さLのフレキシブルアームを考える.このアームの一端はモータの軸に垂直固定され,アームの他端は固体荷重を付加されている.制御目的はモータによりこのアームの角位置を制御することとおよびその際生じる振動の抑制を同時に達成させることである.通常モータの角位置のフィードバック制御だけではアームの振動を抑制できないため,本稿では非線形オブザーバを用いたスライディングモード制御系を設計する.また,シミュレーションおよび実験によりその有効性を確認する.


■ 定性的属性を含むデータからのファジィルールの抽出―忘却型ファジィ・ニューラルネットワークを用いて―

阪大・今村佳世,篠原清敏,阪府大・馬野元秀,阪大・田村坦之

 データの属性には「大きさ」,「重さ」などのように,1つの量的尺度の上に表現されている定量的属性と呼ばれるものと,「性別」,「国籍」などのように,それぞれが違ったものに属することを区別し分類するために設けられた定性的属性と呼ばれるものがある.与えられたデータから,その入出力関係をルールとして抽出する方法は,多く研究されているが,これらはいずれも,定性的属性または定量的属性の一方のみを対象としたものであった.そこで定量的属性と定性的属性の両属性を含むデータからのファジィルールの抽出について提案する.抽出には,忘却型のファジィ・ニューラルネットワークを利用する.論文では,まず定性的属性の取り扱いについて提案する.定性的属性のメンバーシップ関数の表現には列挙型のファジィ集合を用い,ネットワーク内ではスイッチングユニットとして表わす.そして,忘却型BP法とシグモイド関数の逆関数を用いて,チューニングとプルーニングを行う.提案法を定性的属性と定量的属性からなる実験データとキッチンの感性評価アンケートデータに適用する.


■ 遺伝アルゴリズムを用いた特徴抽出

神戸大・中井誠樹,小谷 学,赤澤堅造

 本論文ではパターン認識における分類正解率を向上させるために,新たな特徴を抽出する方法を提案する.抽出される特徴は入力情報の多項式から構成されると仮定して,この関数を遺伝アルゴリズムにより探索することを試みる.提案する方法の有効性を評価するために,識別方法としてK Nearest Neighbor法を用いて,抽出された特徴による分類正解率を算出した.人工データや音響診断データなどに適用したところ,以下のような結果を得た.人工データに対しては,分類正解率が向上し,分類に不必要な特徴を除去すると共にノイズを含んだデータに対しても効果があった.また,大規模で複雑な問題であるコンプレッサの音響診断に適用したところ,入力情報を用いて学習を行った階層型ネットワークと同等以上の分類正解率が得られた.


■ ファジィ状態観測器を用いた制御系設計

電通大・田中一男,谷口唯成

 最近,ファジィモデルに基づく制御系の設計に関する研究が盛んに行われている.ファジィモデルに基づくアプローチで設計されたファジィ制御系の安定条件についてはすでに導出されているが,この安定条件は複数のリアプノフ不等式を同時に満足するリアプノフ関数を見つける問題に帰着することから,規則数が多い場合には得られる結果は保守的なものになるおそれがある.本論文では,緩い安定条件を利用したDecay rate,入出力制限に関するLMI条件と設計法を導出する.しかし,これらの基本は状態フィードバックであり,すべての状態が観測可能という制約がある.さらに,本論文ではファジィ状態観測器を提案し,ファジィ状態観測器を含むファジィ制御系の安定条件を導出するとともに,これに対するLMIに基づく設計法も提案する.とくに,前件部変数が状態変数に依存しない場合には,ファジィ制御器とファジィ状態観測器を分離して設計できることを明らかにする.最後に,本設計法の有効性を示すためにシミュレーション結果を示す.


■ スケジューリング・ルール選択における状態フィードバックの試み

神戸大・玉置 久,京大・越智通有,荒木光彦

 生産システム等におけるスケジューリングの問題に対して,最適なスケジュールそのものを求めることを目的とするのではなく,最適(に近い)スケジュールを生成できるルールを発見・構成する方法を考える.具体的には,優先度に基づくルールに注目し,(1)仕事に関する複数の属性を考慮した優先度を用いること,(2)スケジュール生成過程でのシステムの状態に応じて優先度を求める重み係数を切り替えること(状態フィードバック),(3)優先度を求める重み係数の値を遺伝的機械学習(Genetics-Based Machine Learning)を用いて自動的に適切な値に調整すること,に留意したルール構成法を提案する.この枠組みでは,問題を規定するパラメータ等が多少変動したとしても,常に有効なスケジュールを生成できることが期待される.論文では,入木型の先行関係制約をもつ例題を対象とした場合の計算例を通して,提案手法の有効性を示している.


■ 最適化問題に対する拡散結合型多体勾配系とそのニューラルネットワーク実現

慶大・堀江亮太,相●英太郎

 最適化問題に対する探索モデルとして,複数の勾配系が拡散結合し相互干渉しながら状態遷移する“拡散結合型多体勾配系”と称する多点軌道法の降下法モデルを提案する.特に,閉区間[0,1]上の上下限制約付2次関数最小化問題を解く場合には,探索点の状態遷移を制約領域内に限定するためにブレーキ作用を加えた拡散結合型多体勾配系が,複数のニューラルネットワークが拡散結合した構造で演算回路実現されることを示す.この場合,出力量が拡散結合する外部結合型と内部状態量が拡散結合する内部結合型の2通りのニューラルネットワークを示し,簡単な例題に対する数値シミュレーションにより提案するモデルの探索性能を確認する.また,提案する内部結合型と非線形緩和現象を記述する現象論的方程式である時間依存ギンヅブルグ―ランダウ方程式との関連についても言及する.


[ショート・ペーパー]

■ GM型冷凍機を用いたアルゴンの三重点の実現

計量研・櫻井弘久

 アルゴンの三重点は1990年国際温度目盛の定義定点の1つであり,低温域の温度標準の設定には不可欠な温度定点である.アルゴンの三重点は,従来,液体窒素温槽と断熱カロリメトリーで融解曲線を測定することにより実現されていた.しかし,この温度領域では残留ガスや放射の影響が大きく,また,液体温槽の液面低下に伴う温槽内の温度分布の時間変化があり,特殊な制御技術が必要であった.
 ここでは低温定点実現の簡略化と実用性を目的に,7KのGM型冷凍機を用いて,アルゴンの三重点(約84K)を簡便に実現することを試みたので,その結果を報告する.冷凍機では残留ガスの影響がなく,低温槽内の温度分布の時間変化も少なく,高精度の断熱制御が可能であった.ほとんどすべての操作を自動化できるなどの簡便さがあるほか,同位体組成の不確かさを含めても,実現の不確かさが0.06mKという従来より高精度での実現が可能であった.冷凍機は,実用性と精度の両面で,温度計の校正などに最適な冷凍手段であることがわかった.実現法の概要とその不確かさについて報告する.


■ 仮想目標値を用いる1入出力1型デッドビートサーボ系

九大・清田高徳,近藤英二,岡田伸廣

 サーボ系において,過渡応答の区間では出力は目標値に一致しないので,この区間で目標値を実際の目標値に固定する必要はない.そこで,可変の仮想的な目標値を用いることにより設計の自由度を導入することができる.仮想目標値は定常状態で実目標値に一致しなければならないが,離散時間系のデッドビート制御では,仮想目標値を用いる過渡応答区間が明確に表わされる.
 本論文では,1入出力線形定常離散時間系に対し,仮想目標値を用いる1型デッドビートサーボ系の設計法を提案した.積分特性を付加した拡大系の偏差系は,仮想目標値が新しい入力として機能するため,2入力系となる.このため,通常,実目標値のみを用いる場合は積分特性の導入により最短整定時間が1増加するが,仮想目標値を用いる場合は最短整定時間が延びないことを明らかにした.


■ 次数と相対次数に依存しない適応サーボ系の一構成法

統数研・宮里義彦

 直接法に基づいて適応制御系を構成するためには,制御対象の相対次数が既知でなければならない.これは適応系の安定性を保証する強正実な誤差システムを構成するのに対象の相対次数の情報が必要とされるためである.しかし制御対象によっては相対次数を事前に規定できない場合も多く考えられ,そのような系に適応制御を拡張することが重要な課題とされている.強正実関数の相対次数を一意に固定して誤差システムを構成すると,正実化に基づく従来の適応制御の安定論では,適用できる対象の相対次数も一意に限定される.ところが連続時間系においては強正実関数の相対次数に一定の自由度があり,この自由度を利用すると,相対次数に同様の幅の不確定性が存在する制御対象について,単一の適応制御装置で適応制御系を構成することが可能になる.本稿では強正実関数の相対次数に−1〜1次の自由度があることを利用して,相対次数がr〜r+2次の範囲で不確定の対象について,単一の適応制御装置で適応サーボ系を構成する手法を述べる.サーボ問題の特徴として,目標信号や外乱が有限次元線形系の出力として表わされる場合を考えるが,特にその目標信号や外乱を発生するモデルが未知の場合でも,生成モデルを適応的に推定することにより,目標信号追従性と外乱除去特性を有する適応サーボ系の構成法を提案する.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会