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 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.39 No.1(2003年1月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文] [ショート・ペーパー]

[論  文]

■ ETS -Z自動ランデブ・ドッキング用近傍センサの軌道上性能評価

NASDA・河野 功,杢野正明,葛西 徹,小山 浩, 鈴木 孝,阿閉 裕,山羽勝志,三石格禎,寺島樹雄, 久保田伸幸,坂田隆司

 1998年7月,宇宙開発事業団(NASDA)は,技術試験衛星Z型(ETS -Z)により,自動ドッキングに成功した.ETS -Zのドッキングは,世界初の相対6自由度制御による自動ドッキングであり,また世界に先駆けて低衝撃型ドッキングを実現したものである.相対6自由度制御による低衝撃ドッキングを行うために,相対位置と相対姿勢を高精度で計測可能な画像センサである近傍センサ(PXS)を開発し,これによる自動ドッキングに世界で初めて成功したものである.
 ETS -Zは1997年11月に打上げられ,1998年7月から1999年10月にかけて3回のRVD実験を行った.これら3回のRVD実験を通じ,PXSは2m点までの分離と2m点からドッキングまでの主航法手段として良好に動作し,画像センサが至近距離域での航法センサとしてきわめて有効であることを実証した.PXSの軌道上性能の評価は,レーザ・レーダであるランデブ・レーダとの比較や,PXS同士の比較等により行った.PXSの計測性能は,近距離域では数mm〜数cmと評価され,目標以上の性能を発揮したことが実証された.本論文ではPXSの軌道上性能の詳細な評価結果を示す.


■ 高速結晶分光PIXEに用いる積層検出器システム

法政大・長谷川賢一,理化学研・前田邦子,法政大・浜中廣見

 結晶分光方式によるPIXE(粒子線励起X線)微量分析法の計数効率向上を目的として,2次元X線検出器とその信号処理回路システムを試作した.検出器はカーボンファイバーアノードを使用した5個のPSPC(位置敏感比例計数管)を積層したもので,シングルPSPCの5倍の計数効率をもつ.2次元データは相関法により1次元データに変換され,X線スペクトルが得られる.粒子線として陽子線を用い,大気中に試料を置き,ヘリウムパスを用いる方式で,特性X線の高分解エネルギー測定が可能である.測定の安定性が高く,感度の一様性もよい.
 このシステムにより,化学状態分析や高感度微量元素分析の測定時間の短縮や検出感度の向上が可能になった.硫黄やりんの化合物の場合,主成分では数秒で,1%程度の成分では数分の測定時間で,その化学状態が決定できる.化学状態の時間変化の測定例として,海底堆積中の硫黄(2%)の酸化状態の時間変化をデータ集積時間100sごとで測定した結果を示す.


■ 純虚数零点をもつ多入出力連続時間系に対する離散化モデルの零点―相対次数1の場合の多入力系への拡張―

熊本大・石飛光章,柏本耕太

 本論文は,純虚数零点をもつ多入出力連続時間系を零次ホールドとサンプラによって離散化したモデルを対象にして,純虚数零点に対応する零点の安定性を考察している.ここでは,無限単因子の次数がすべて2の正方システムで,純虚数零点が1位の場合を扱っている.そして,微小サンプリング周期において,その零点が安定となる条件を導いている.その条件は連続時間系の係数行列を用いて表現されている.またそれは,これまでに明らかにされている1入出力系で相対次数1の場合の結果の多入出力系への拡張になっている.


■ Generalized (Cγ(・), Aα(・), Bβ(・)) -pairs for Linear ω-Periodic Discrete-Time Systems

Tokyo Denki Univ.・Naohisa OTSUKA

 いわゆる幾何学的アプローチの枠組みの中で,線形時間不変システムに対する(A,B)不変部分空間と(C,A)不変部分空間の対である(C,A,B) -pairの概念は,J.M. Schumacherにおいて始めて導入された.その後この概念は,周期係数線形離散時間システム,各係数行列が凸結合型の意味で不確かな線形時間不変システム,さらにはノミナルな行列と不確かなパラメータを含む行列の和の形で表わされるという意味での不確かな線形時間不変システムに対して,それぞれ拡張されてきた.またこの概念は,動的補償器を用いた外乱除去問題にそれぞれ応用され,その可解条件が与えられている.本論文では,周期係数線形離散時間システムの各係数行列が,ノミナルな行列と不確かなパラメータを含む行列の和の形で表わされるという意味での不確かな場合に対して,(C,A,B) -pairに相当する概念(一般化 -pairの概念)を導入し,その性質を調べる.また,動的補償器を用いた外乱除去問題を定式化し,その可解条件を与える.さらに,得られた結果は従来の結果の拡張になっていることを示す.


■ 1リンクフレキシブルアームに対する共役型反復学習制御

愛媛大・木下浩二,中部大・十河拓也,京大・足立紀彦

 有限次元の非最小位相系に対して勾配法に基づいた反復学習制御(共役型反復学習制御)を適用すると,有界かつ厳密に目標出力を実現する入力が得られることを筆者らは示した.この性質は無限次元の非最小位相系であるフレキシブルアームの,高精度の追従制御の可能性を示唆する.しかし,フレキシブルアームが無限個の不安定零点をもつことから有限次元システムで入力更新則を構成する限り,学習の安定性を保証できないことが判明した.
 そこで,本研究では学習の安定性を確保するために共役型反復学習制御の入力更新則にフィルタを導入する.また,制御対象の正確なモデルを必要としない反復学習制御の特徴を考慮して簡単なモデルに基づいた入力更新則の設計を行う.提案手法の有効性を検証するために実機実験を行った.結果,精度の良い追従制御が実現できた上,(1)入力更新則実装の簡略化,(2)共役システムがローパスフィルタの役割をもつためノイズの影響を受けにくい特徴をもつことが示された.


■ 人工衛星のジャイロレス姿勢推定フィルタ―フライホイール角速度出力の利用―

NASDA・谷脇滋宗,慶応大・狼 嘉彰

 本論文では,宇宙機のジャイロレス姿勢決定法として,スタートラッカなどの姿勢センサ出力と姿勢制御用アクチュエータであるフライホイールのタコパルスセンサ出力から拡張カルマンフィルタにより姿勢推定する手法を提案する.姿勢の時間伝播に衛星角速度が必要であるが,宇宙機全体の角運動量推定値とホイール角速度から代数関係式を用いて姿勢角速度を計算することで,誤差源となりやすい短周期での数値微分操作を避ける.また,重力傾度トルクの不確定成分は宇宙機動力学モデルへの大きな外乱要素であり,この非ガウス性によって宇宙機全体の角運動量推定値に長周期でバイアス誤差が生じる.これを補正するために,姿勢推定値を粗いサンプリング周期で差分して得られる擬似的な角運動量を用いる.このように,ホイール角速度観測値をもとにした短周期での状態変数の伝搬と,擬似角運動量による長周期での補正を組み合わせることにより,高精度な姿勢推定を行う.提案手法の有効性は,実機のセンサスペックやホイール特性を考慮した数値シミュレーションにより確認する.


■ グラフ上の反応拡散方程式による交通信号網の自律分散型制御

東大・杉 正夫,湯浅秀男,新井民夫

 自動車台数増加による交通事情の悪化を受けて,道路を効率的に利用するための交通信号制御が研究されている.従来法ではオフライン計画によって得た解を集中管理によって実現するが,拡張性や交通流の動的変化への対応等に問題がある.一方で自律分散的手法による信号網制御が試みられているが,信号網の制御において重要なオフセット(隣接信号との青信号開始時刻の差)の扱いが不十分である.本研究は信号網を自律分散システムとして扱い,各要素が局所情報をもとに行動することで全体として適切な信号パターンを形成することを目指している.具体的には信号網を非線形結合振動子系でモデル化し,グラフ上の反応拡散方程式でダイナミクスを規定することにより,オフセットおよびスプリット(信号が各方向に割り当てる青時間の比)を交通状況に応じて動的に制御する.これにより定常的な交通状況に対して高い安定性を実現するとともに,動的な交通状況に対して柔軟に対応することを目指す.シミュレーションを行い,提案手法の有効性を確認した.


■ 人の感覚運動システムにおける先行位相の定量的研究

電通大・石田文彦,東北工大・沢田康次

 感覚―運動系の予測制御システムにおける予測量を定量評価するため,心理物理実験およびモデルの解析を行った.本稿は,それらの実験結果ならびにモデルの数値実験の結果について報告する.手の運動に関する視覚目標追従実験によって,「手の運動はターゲット運動に対し統計的に先行し,その平均先行量はターゲット運動が予期せず変化する際に生じる過渡誤差を最小にする最適値にほぼ一致する」ことを明らかにした.また,追従運動に必要最小限の構成要素をもち,筋システムをモデル化した時間遅れを含むフィードフォワード制御モデルで実験結果の再現を試みた.その結果,フィードフォワードループの結合強度を最適に選択することにより,定常運動時の先行位相を過渡誤差を最小にする動作点とほぼ一致させることが可能であることがわかった.ここで用いたモデルは少数自由度の解析的モデルではあるが,低周波域での実験結果との不一致を除き,人の感覚―運動制御システムにおける先行制御の特徴をおおまかに表わしており,その制御メカニズムの理解に示唆を与えると考えられる.


■ グラフオートマタ―システム生成過程の記述法―

東工大・村田 智,産総研・富田康治,黒河治久

 生体システムのモデルとしての創発システム,あるいは人工物設計の方法論としての創発システムを考えるとき,対象とするシステムのさまざまな属性だけでなく,システムそのものの生成過程を表現できる強力な記述法が必要である.そのため,セルオートマトンを拡張し,セルの分裂やつなぎ変え,消滅といった新しい形式のルールを加えたグラフオートマトンと呼ばれる新しい枠組みを導入し,これを数学的に定式化した.これにより特定の格子空間に拘束されず,時間とともに要素の数や要素間のトポロジーが変化していくようなプロセスを直接的に表現することが可能になった.また,ルールが一定の形式に限定されるため,大規模なルール群を体系的に設計することもできる.これらの特長を具体的に表わす例題として,任意の解像度をもつ格子の生成,閉じた空間の上の状態遷移のリミットサイクル,階層的生成過程の表現,自己複製システムの最小モデルなどを示すとともに,より複雑なシステムの設計例として,過去50年にわたって研究されてきた自己増殖チューリングマシンが,グラフオートマトンにより簡潔に記述できることを示した.得られた設計解は,これまでにセルオートマトンによるどの設計解よりも小さく,かつその複製過程もDNA複製過程に似た理解しやすいものになっている.


■ 共創出型介助ロボット“Walk-Mate”の歩行障害への適用

東工大・高梨豪也,三宅美博

 高齢者の歩行介助では,介護士と被介護者の歩行運動が相互に適応する中で,安定かつ柔軟な歩行運動がリアルタイムに創出される.われわれの研究グループでは,このような人間―人間系に特徴的である共創出プロセスとしての歩行介助を,人間―機械系において実現するために共創出型介助ロボットWalk-Mateの開発を進めてきた.本研究では,それを実際の高齢歩行障害に適用し有効性評価を行うことを目標としている.特に,高齢者特有の片側性歩行障害に対する,歩行支援効果を検証する.第一段階として,健常者に身体的拘束を施した擬似歩行障害における介助効果を調べた.その結果,歩行運動における平衡性の向上(歩容の非対称性の緩和)と,円滑性の向上(歩行周期ゆらぎの減少)の両面から評価できることが明らかになった.第二段階として,実際に高齢障害者へ適用した結果,歩行運動における平衡性と円滑性が共に向上する傾向が確認された.このことはWalk-Mateと高齢障害者との協調歩行によって,不安定な歩行運動が安定化され,介助効果が得られたことを意味している.これらの結果から,われわれの提案する共創出過程としての歩行介助の有効性が示された.


[ショート・ペーパー]

■ Support Vector Machines Controlling Noise Influence Directly

Yonsei Univ.・Min YOON, Konan Univ.・Hirotaka NAKAYAMA, Kagawa Univ.・Yeboon YUN

 サポートベクターマシン(support vector machine)は,パターン分類問題に対し,学習データと分離超平面との最小距離,すなわち,マージンを最大化することによって最適分離超平面を定めるものである.とくにソフトマージンアルゴリズム(soft margin algorithm)は,超平面によって完全分離ができないとき,ある程度の誤判別を許しながら学習データと分離超平面との距離に対し目標とするマージンまでどのぐらい到達できないのかを考慮することによって最適分離超平面を求める.これによって,データにノイズがある場合にも過剰学習(overlearning)を避けることができる.しかし,従来のソフトマージンアルゴリズムによる最適分離超平面は,許容誤差(allowable error)の重みパラメータに対して非常に敏感で,適切に定めることが困難な場合がある.そこで本研究では,許容誤差を直接コントロールすることができるソフトマージンアルゴリズムを提案する.これによって,ノイズの影響を考慮する程度に応じた最適分離超平面が得られ,さらに許容誤差の重みパラメータに対する敏感性を減らせることを,例題を通じて示す.


■ 画面一体型のマルチカメラシステムによる手指の三次元位置の推定

慶應大・高橋信昌,科技団さきがけ・斎藤英雄

 本研究では,ディスプレイの四隅にカメラが埋め込まれた機器を想定し,画面一体型のマルチカメラシステムにより撮影された多視点画像から,ユーザの人差し指先端の3次元位置を推定する手法を提案する.本手法では,4つのカメラのシルエットから視体積交差法により手形状の3 -Dモデルでおおまかな姿勢推定を行った後に,指を隠れのない状態で映し出しているカメラを選択し,その後に選択された画像において3Dモデルで得られた指先端位置の近辺を処理するという二段階の手順を行う.15インチディスプレイの4隅付近に4台のカメラを配置したシステムを構築し,本手法に基づいて親指の屈伸状態の判定と,人差し指の3次元位置を推定する実験を行い,人手によって求めた結果と比較したところ,良好な精度で本手法が機能していることを確認した.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会