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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.40 No.2(2004年2月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[〈特集 ロボティックバーチャルリアリティとシステムインテグレーション〉 論  文]

[〈特集 ロボティックバーチャルリアリティとシステムインテグレーション〉 ショート・ペーパー]

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ 力覚インタラクションのための多面体の接触体積にもとづく実時間剛体運動シミュレーション

東工大・長谷川晶一,藤井伸旭,赤羽克仁,小池康晴,佐藤 誠

 本論文は,力覚インタラクションのための,接触力分布を考慮する新しい実時間剛体運動シミュレーション手法を提案する.
 接触力の計算のための解析的な手法は,計算時間が多いため,力覚制御のために必要な高速更新を実現できない上,力覚インタフェースを直接接続することができない.バネダンパモデルを用いて接触力を計算するペナルティ法は,シミュレーションの更新に必要な計算量が少ない上に,力覚インタフェースを直接接続することもでき,力覚インタラクションに向いている.しかし,従来のペナルティ法は,接触力の接触面上での分布を考慮していない.そのため,面同士が接触した際に抗力や摩擦力を正しく計算できなかった.
 本研究では,接触面上に分布バネダンパモデルを考えることで,この問題を解決する.そのために,物体の接触部分の3次元形状を解析し,分散バネダンパモデルの発生する力とトルクを積分する.
 比較実験により,提案シミュレータが抗力と摩擦力の問題を解決していることを確かめた.また,6自由度力覚提示デバイスを接続し,6自由度力覚提示と6自由度入力ができることを確かめた.


■ 物体間干渉を考慮した多点接触拘束感提示方法の提案

岐阜生産研・横山哲也,棚橋英樹,岐阜大・川崎晴久

 仮想空間での力覚提示装置による物体間の拘束感提示は,作業効率の向上に有効である.特に汎用性のあるシステムを開発するためには,非凸形状を有する一般形状からなる仮想物体同士の接触に伴う拘束感提示の検討が必要である.これを実現するためには少ない計算量で物体間での多点衝突判定と,物体同士が干渉することなく多点接触を伴う物体の拘束運動を考えなければならない.
 本論文では,幾何交差と最短距離を併用した衝突判定法と線形計画法による物体間の干渉排除を用いることで,多面体で表現された一般形状の仮想物体同士が干渉することなく多点接触の拘束感を提示するアルゴリズムを提案する.衝突判定に関しては,凸物体の集合に分解することなく,一般形状の物体同士の衝突箇所と侵入量を効率よく特定する.物体間干渉排除に関しては,衝突判定で得た多点衝突箇所とその侵入量から,線形計画法を用いて侵入解除を行う.そして実験において,提案したアルゴリズムの妥当性を確認した.


■ 3次元空間内の複数の仮想物体を提示するための遭遇型ハプティックデバイスの軌道計画

京大・横小路泰義,日立・木下順史,京大・吉川恒夫

 本論文では,3次元空間内に任意に配置された複数の仮想物体を単一の遭遇型ハプティックデバイスで提示するためのデバイスの軌道計画アルゴリズムを提案する.単一の遭遇型ハプティックデバイスで複数の仮想物体を提示するためには,(@)ユーザが仮想物体に触れようと手を伸ばしたときにデバイスに「遭遇」するように,あらかじめ仮想物体のある場所にデバイスを待機させておかなければならず,(A)デバイスがある仮想物体から別の仮想物体の位置まで移動する際には,ユーザの手との不用意な接触を回避しなければならない.このように遭遇型ハプティックデバイスとして一貫した動作を実現するために,提案するアルゴリズムではユーザの手の動きをなんらかの方法で追跡できることを前提として,3次元空間内でのある1点(ユーザの手先に相当)から複数の仮想物体のそれぞれの参照点で形成される凸多面体上の最接近点を求める問題に帰着させた.応用例として,自動車のインパネデザインの評価を想定した仮想コントロールパネルを構築し,提案する軌道計画アルゴリズムを実装した.実験により提案したアルゴリズムの有効性を検証し,さらに遭遇型ハプティックデバイスとして必要とされる移動速度や位置決め精度などの性能の見積もりを行った.


■ 仮想心臓モデルとハプティックデバイスによる心筋触診訓練システムの開発

九工大・徳安達士,喜多村 直,京大・坂口元一,末田正始

 本研究は仮想心臓モデルとハプティックデバイスを統合した心筋触診訓練システムを開発する.システムは訓練者の指と仮想心臓とが力覚・視覚的に相互作用することを基本機能とした.仮想心臓モデルは,軽度の拡張性心筋症患者のCineCT画像より外観を構築し,リアルタイム性を重視した低次元力学モデルを組み込み,また心臓血管系モデルとして体循環系と肺循環系のWindkesselモデルを導入した.心筋触診はおもに人差し指と親指によって行われるため,ハプティックデバイスは2本指による心筋触診手技を可能にするように設計構築した.本論文では,仮想心臓モデルの構築とハプティックデバイスの仕様について紹介し,本システムの妥当性を示すために心臓外科医による検証を受けたのでこれらについて述べる.


■ 仮想環境下で操作するオペレータと自律性を有するスレーブロボットとの協調作業―毛筆技能への応用―

名古屋大・嶋田宏史,鈴木達也,豊田工大・早川聡一郎,名古屋大・大熊 繁,藤原文治

 本論文では,マスタ・スレーブシステムにおいて,オペレータの負担の軽減を主目的とし,仮想空間内で作業するオペレータとスレーブロボット間でのリアルタイムでの技能伝達に基づいたマスタ・スレーブ方式を提案する.そのために,まず,作業空間をマスタ空間とスレーブ空間と名付けた2つの空間に分割する.前者は対象とする作業に対するオペレータの意図(方向づけ)をそのままマスタ側からスレーブ側へ反映させる空間として定義する.一方,後者は作業に対する技能が反映されやすい空間として定義し,オペレータの提示した技能に基づいて,スレーブ側が自律的に運動を決定する空間である.具体的には,マスタ空間においては,従来のシステムと同様にオペレータからの位置情報をそのままスレーブ側へ送信する.それに対して,スレーブ空間では,対象とする作業の遂行に必要ないくつかの技能を事前にモデル化しておき,オペレータの技能情報に基づいてスレーブロボットがリアルタイムで自律的に技能を識別し,運動を決定する.本論文では,分割した各空間において,運動と技能という異なった情報をリアルタイムで伝達する点が特長である.また,オペレータは仮想空間内で作業を行うので,技能の提示はオペレータにとってそれほど負担とはならない点も大きな特長である.


■ 触覚情報に基づく遠隔臨場感多指ハンドシステムの構築

名工大・佐野明人,デンソー・西 恒介,三菱重工業・宮西英樹,名工大・藤本英雄

 バイラテラル遠隔操作システムにおいて,スレーブから操作者へ触覚情報を伝送することは,マスタ側の臨場感を高めるのに非常に重要である.マイスナー小体のコイル状軸索構造は,さまざまな摩擦状態により生じる皮膚の横伸び・せん断変形を選択的に感知する.本研究では,この特性に基づき,非均一な弾性皮膚に内蔵したバイオミメティックなコイル状触覚センサを開発した.本論文では,この新しいセンサにより,接触直後の摩擦係数,接触中心および初期局所滑りが計測できることを確認する.さらに,ピンチ動作により滑りやすいテーパー状の物体を把持し持ち上げる操作が,正確さが要求されるタスクとして取り上げられる.ネットワークを介した遠隔操作実験において,被験者は触覚ディスプレイからの触覚情報を用いて,把持力と負荷力を適切に調整し,安定な把持・持ち上げ動作を実現した.


■ 人の知覚特性にもとづいたマスタースレーブのスケーリング則と必要条件

名工大・山川聡子,藤本英雄

 これまで多くの場合,マスタ―スレーブシステムにおけるスケーリング則は,システムの機械的・物理的特性にもとづいて決定されていた.本稿では,マスタ―スレーブシステムにおける知覚特性を考慮したスケーリングを取り扱う.人の知覚特性を考慮することは,特に微細作業などの人の感覚が重要になる作業において操作性を向上させる効果があると考えられる.
 人の知覚特性として弁別閾と感覚量に注目した.感覚量がStevensのべき法則にしたがう場合に,マスタ側で操作者が感じる感覚量の変化率を調整するスケーリング則を提案した.さらに,弁別閾がWeberの法則を満たす場合に,提案したスケーリング則を用いて,スレーブ側で発生した刺激の変化を知覚可能にするための必要条件を導いた.
 指先における力の弁別閾と感覚量の測定を行った結果,それぞれWeberの法則とStevensの法則にしたがっていることを確かめた.そこで,これらの測定結果を用いて,提案したスケーリング則と条件について考察を行った.



■ Modeling of Human Driving Behavior Based on Expression as Hybrid Dynamical System

Nagoya Univ.・Jong-Hae KIM,Totota Tech. Inst.・Soichiro HAYAKAWA,Nagoya Univ.・Tatsuya SUZUKI, Chukyo Univ.・Kazuaki HIRANA,Nagoya Univ.・Yoshimichi MATSUI, Shigeru OKUMA,Toyota Tech. Inst.・Nuio TSUCHIDA,Toyota Motor Corp.・Masayuki SHIMIZU and Shigeyuki KIDO

 本論文では,ハイブリッドダイナミカルシステム(HDS)表現に基づいて人間の運転行動をモデル化するための新たな枠組みを提案し,停止線に停止する動作を対象としてその有用性を検証した.ドライビングデータの収集に当たっては,3次元立体視情報を提示可能なドライビングシミュレータを用いた.停止行動のモデル化において,ドライバーを,停止線までの距離とその2階微分(加速度)を入力とし,ブレーキ操作量を出力とする一種のコントローラとみなし,観測される入出力データから,ドライバーが用いた制御側を,HDSの一種である区分多項式表現を使ってモデル化することを試みた.これは,人間の停止行動の同定問題をHDSの同定問題として捉えることを意味するが,区分多項式中に含まれる論理条件を等価な不等式に変換することにより,同定問題を混合整数計画問題として定式化した.得られた結果から,ドライバは停止線までの距離に応じて適切に制御則を切り替えていることが明らかとなった.本研究で提案した手法により,運転行動の運動学的な側面と論理判断的な側面を同時に抽出することが可能となった.


■ 人間共存型移動ロボットの行動を予告表示する方法と有効性のシミュレーションによる検討

静岡大・松丸隆文,工藤新之介,遠藤久嗣,伊藤友孝

 この論文は,人間共存型ロボットのつぎの行動意図の予告表示,特に,2次元平面内を移動する移動ロボットにおける,移動方向と移動速度の予告表示について議論する.これから先のある時点の状態を予告表示する方法(ランプ,吹き戻し),および,現在からある時点まで連続的に予告表示する方法(光線,プロジェクタ),の2つのタイプの方法を提案した.そして,予告表示なし,ランプの点灯(速度表示なし),ランプの点灯(速度表示あり),吹き戻し,光線の5種類の方法について,0.5秒前から3.0秒前まで0.5秒刻みに6通りのタイミングで,PC-windows上にプログラミングしたシミュレーションにより,比較検討した.
 2次元平面運動における結果は,おおむね2つの1自由度運動(並進運動と旋回運動)での結果を考え合わせたものとなった.移動ロボットのこれからの行動の予告では,移動方向だけでなく移動速度の情報も重要である.連続的な予告表示(光線)は,誰にとってもわかりやすい方法だが,直接表示した経路を認識してもらうには,適当な長さ(タイミング)が必要である.ある時点の予告表示(ランプ,吹き戻し)では,1.0〜1.5秒前のタイミングが最適だと考えられる.


■ Real-time Network System by Responsive Processor and Its Application to Bilateral Robot Control

KAJIMA Corp.・Y. Uchimura,Keio Univ.・N. Yamasaki, T. Yakoh, K. Ohnishi

 本論文では,高いリアルタイム性を実現した新しいネットワークシステムの開発と,同システムのロボット制御への適用について論じる.
 ネットワークを介したロボットを制御するようなアプリケーションにおいては,厳しい時間制約のもとでの情報伝送が必須となる.そこで,情報の優先度を考慮した通信構造を有するレスポンシブプロセッサをインタフェースとする新しいネットワークシステムを開発した.本システムによって,フィードバック系のサンプリングタイムをデッドラインとする性能を確保し,高いリアルタイム性が要求されるロボット制御への適用を実現した.開発したネットワークシステムでは,緊急度は高いがサイズの小さなデータと大きな帯域を必要とするデータのように,性質の異なる情報が混在する環境下において,優先度の高い情報を滞りなく伝送することを可能としている.
 本ネットワークシステムを介して2台のロボットマニピュレータを接続し,力フィードバックを伴うバイラテラルロボットシステムを構築した.本ロボットシステムを使用して,硬さの異なる対象物に対する遠隔操作実験を行ったので結果を報告する.



[ショート・ペーパー]

■ 手拍子を付加した場合の演奏者−聴取者間相互作用の解析

東工大・山本知仁,藤井倫雅,三宅美博

 コンサートなどの音楽の生演奏において,演奏者−聴取者間の相互作用は優れた演奏を創り出す1つの要因になっていると考えられる.本論文では,この演奏者−聴取者間の相互作用のメカニズムを明らかにするために,生演奏における演奏者の演奏リズムと聴取者の手拍子リズム,および演奏者と聴取者の呼吸リズムの時間発展を解析した.その結果,曲の音符のばらつき度が高いところでは演奏と手拍子の同調度が低くなるが,両者の呼吸の同調度が高くなること,音符のばらつき度の低いところではそれが低くなることが示唆された.また,音符のばらつき度が高いところでは,演奏者内の演奏リズムと呼吸リズム,聴取者内の手拍子リズムと呼吸リズムの同調度が高くなり,音符のばらつき度が低くなるところではそれが低くなることが示唆された.これらの結果を説明するために,曲の音符のばらつき度が高いところでは,演奏者と聴取者はお互いのリズムを合わせるために,より注意を要するという仮定を導入し,注意を要する制御ループと注意を要しない制御ループの二重ループからなる新たな演奏者−聴取者間コミュニケーションモデルを提案した.



[論  文]


■ 流れの構造の遷移によるフィードバック制御系の設計

鳥羽商船・榎本隆二,北大・都築卓有規,島 公脩

 微分可能な状態フィードバックを用いて,一般的な形の時不変な非線形制御系の大域漸近安定化の問題を扱う方法に,勾配的Morse-Smale制御系の設計法がある.勾配的Morse-Smale制御系の内部構造は,ホモロジー接続行列と呼ばれる1枚の行列Δによって表現される.勾配的Morse-Smale制御系の方法では,大域漸近安定化を可能とする接続行列の候補が一般に複数個出現する.制御系設計に際して,ある接続行列Δaで示される構造をもつ勾配的Morse-Smale制御系の制御則が知られている場合において,別の接続行列Δbに対応する制御則を算定したい,という状況にしばしば遭遇する.そのとき,Δbの制御則をはじめから設計し直すよりも,制御則のアイソトピーが変形パラメータのほとんどの値において勾配的Morse-Smale制御系であることを保つという仮定のもとでΔaに関する制御則の情報を用いて算定するほうが簡単である場合がある.本研究では,ある種の対称性をもつ勾配的なMorse-Smale制御系が設計されたとき,得られたフィードバック制御則をアイソトープに変形させ,ヘテロクリニック分岐を経由して他の位相幾何構造をもつ系に流れの構造を遷移させるためのフィードバック制御系の設計法を提案した.また,簡単な例題によってn=2の場合にその有効性を例示した.


■ 双対原理を用いたLPVシステムのL2ゲイン解析

阪大・太田快人,国武 隆

 本論文は,変動するパラメータを有する線形システム(LPVシステム)のL2ゲインについて,抽象化された線形計画問題の主双対原理を用いてゲイン解析を行っている.L2ゲインの上界を与えるゲイン解析問題は,すでに無限の自由度をもつ線形行列不等式を用いて定式化されているが,これまでの研究では,有限次元近似をしてその最適値の上界を求めていた.本論文では,抽象化された線形計画問題として主双対問題を考えることにより,最適値の上界だけではなく下界ともあわせて解くことにより,最適値の存在する範囲を明確にすることを提案している.まず,非有界作用素を含む抽象化された線形計画問題においても,適切な仮定の下で,有界作用素のみを含む場合と同様の双対原理が成り立つことを示した.つぎに,LPVシステムの係数行列がパラメータに関してリプシッツ連続であれば,双対問題の変数空間をL1空間に制限したとしても,主問題との間に双対ギャップのないことを示した.この結果により,主問題,双対問題の双方ともに有限次元空間で近似を行うことが可能になり,変数の数を増やせば近似主問題と近似双対問題の最適値は元問題の最適値に近づくことが保証される.


■ 量子力学的システムの制御ダイナミクスモデル

東大・山本直樹,津村幸治,原 辰次

 量子力学を利用した情報技術(量子コンピュータなど)の物理的実現が強く望まれているが,量子系は外乱に弱く,所望の量子状態を準備することは困難である.この問題を解決するべく「連続測定」を用いたフィードバック制御法が提案され,さまざまな量子系に適用された.しかし,この方法は一般的な量子系に対して適用可能であるにもかかわらず,制御系の系統的設計手法は明らかでない.その理由は,ダイナミクスが行列変数の非線形確率微分方程式で記述されており,さらに量子系特有の制御目標や拘束条件のためにその取り扱いが難解であることによる.そこで,制御系設計理論の前にシステム解析の枠組みを構築する必要がある.本論文ではその第1段階として,有限次元ダイナミクスを,拘束条件をもたないベクトル変数のものに変換した.これは単に行列の要素をベクトルとして並び替えればよい,という問題ではなく,変換を実行する表記法につぎのことが要求される.ダイナミクスの変換をはじめとする式変形が系統だったものであること.ベクトル表現がいくつかの重要な量子状態を陽に表現すること.拘束条件の下での変数の並び替えの自由度が容易に表現されること,など.本論文の表記法はこれらすべてを満たしている.


■ クォータニオンフィードバックによる柔軟宇宙機の姿勢制御―受動性に基づく手法の拡張―

電通大・池田裕一,木田 隆,長塩知之

 将来の宇宙開発で考えられている宇宙機の1つに,軌道上での作業のための宇宙機がある.このような宇宙機の運動は,非線形システムで表わされ,軽量化などにより柔軟構造物となるため,非線形運動と弾性振動の干渉を考慮し,かつパラメータ誤差と高次振動モードに対してロバストな制御系設計が必要となる.また,搭載される計算機能力には制限があるため,実装が容易な制御則でなければならない.この仕様を満たす設計法の1つに,受動性を利用した手法が知られている.これは簡単な静的出力フィードバック制御則であり,構造的なロバスト安定性を保証する.しかし,これまでの研究では安定性を保証するフィードバックゲインはスカラ値に制限されていた.このため制御性能の調整が難しいという欠点があった.本稿では,柔軟宇宙機の姿勢制御を考え,受動性を利用した手法において制御性能の調整を容易にするために,フィードバックゲインを行列に拡張する.さらに,得られた結果をもとに姿勢角情報のみを用いる動的な制御器による安定化手法へ拡張する.また,平衡点近傍では,これらの制御則は対称性を利用した制御則(DVDFB,DDFB)と等価になることを示す.最後に,拡張した設計法を柔軟宇宙機の数値モデルに適用し,シミュレーションにより有効性を検証する.


■ 状態アフィン関数表現によるリファレンスガバナの構成法と制御検証実験

阪大・小木曽公尚,平田研二

 現実の制御系は,アクチュエータの飽和要素など,数多くの拘束条件が存在する拘束システムである.近年,この拘束システムに対する一制御手法として,与えられた参照入力を整形することにより無限時刻先まで拘束条件の達成を保証するリファレンスガバナが注目を集めている.しかしながら,これまでに実機への実装までをおこない,リファレンスガバナの有効性だけでなく実用性までを考慮した研究はあまり報告されていない.
 そこで本稿では,モデル化誤差やノイズの存在する状況下でも実用的なリファレンスガバナを構成するために,区分的状態アフィン関数で記述される参照入力の整形則を導出する.これにより,観測された状態をもとに参照入力を整形するリファレンスガバナが実現される.また本稿では,提案手法の有効性や実用性を検証するため,シミュレーションだけでなく,実機のDCモータ位置決めサーボ機構を用いた制御実験をおこなう.この実験結果より,提案手法は,モデル化誤差やノイズの存在する状況下でも拘束条件を達成し,十分に実用的であることが示される.


■ 移動通信網を用いた重機用多気筒ディーゼルエンジンの失火気筒の予防診断

筑波大・川村洋平,北大・氏平増之,筑波大・青島伸治,NTTドコモ・伊藤史人,アクメトフ・ダウレン・F

 土木建設および資源開発作業において,重機の故障は現場管理,生産性に致命的な打撃を与える.さまざまな故障のうち,ディーゼルエンジンの失火気筒の発生は重大な問題である.重機のディーゼルエンジンに失火気筒が発生した場合,オイル循環部を開いての検査・修理中に大気中の岩粉がオイルへ混入する可能性がある.現在,簡易で確実かつ迅速に失火気筒を判定できる実用的判定法の開発が望まれている.本研究ではエンジンの決まった位置に最少必要数の加速度計を常時固定しておき波形信号データを携帯電話等で解析の専門技術者がいる事務所へ伝送し自動で判定する失火気筒判定システムの構築を目指している.このシステムにより,重機本体に処理システムを搭載することなく,事務所側に設置したPCにより重機の状態を一元管理することが可能となる.この失火気筒判定システムの構築を念頭に置き,本実験では実条件下の実験による測定,データ伝送,セミオートマティックの解析試験をおこなった.
 実験の結果,700Kbyteの振動加速度データを15分以内で伝送できることを実証している.また,実際に不調が認められている重機に対し,本失火気筒判定システムを用い,失火気筒を検出した結果を示す.


■ 自動車運転時に反復して表示情報を読みとる場合の情報獲得方法の特徴

交通安全研・森田和元,関根道昭,益子仁一,岡田竹雄

 車載の表示装置を視認する場合,運転者は,一度に長時間見続けるのではなく,視線を前方に戻して安全を確認しながら反復して表示情報を読みとっている.反復して表示情報を読みとる場合には,実際に表示を見ている時間だけではなく,その表示の間の時間も情報獲得量に関係することを室内実験により明らかにしてきた.本論文においては,実際に自動車を運転しながら表示情報を反復して読みとる場合の情報獲得方法の特徴を11名の被験者を用いて調べた.その結果,余裕のあるテストコースでの運転時には,表示を視認する間の表示を見ていない時間における情報処理活動が,運転行為による負荷によって大きく妨害されることはないことが推測された.



[ショート・ペーパー]


■ 摩擦補償を含むリニアスライダの適応型位置決め制御

佐賀大・佐藤和也,三島義雄,安川電機・鶴田和寛,村田健一

 近年,超高精度微細加工を目指した可動テーブルの位置決め制御が関心を集めている.特に,可動テーブルとガイドレールの間などで発生する摩擦現象をLuGreの摩擦モデルとして表現し,制御するさまざまな方法が提案されている.これまで,摩擦モデル内の物理パラメータが部分的に既知として議論を進める手法が多く示されているが,実際は未知であり,さらに複雑な非線形項を含んでいる.そこで未知の物理パラメータを適応的に推定し,非線形項をニューラルネットワーク(NN)により近似し,さらにNNによる近似誤差を補償するために切替関数を用いる方法が提案されている.
 本論文ではメカトロニクス系で使用が望ましくないとされる切替関数を用いずに,NNによる近似誤差をシステムに加わる一種の外乱とみなし,適応型H∞制御系を逆最適性に基づき構成する手法を提案する.提案方法によれば,切替の遅れによる制御性能の劣化など,制御則を実装する上で不都合な現象が回避可能である.提案する手法の有効性を検証するため,10[nm]の分解能をもつ位置センサを取り付けた位置決め制御装置を使って実機実験を行った.結果より,摩擦補償の必要性,ならびに提案手法の有用性が検証された.


 
copyright © 2004 (社)計測自動制御学会