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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.40 No.5(2004年5月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]


[論  文]

■ 騒音下における管内定在波を用いた管長高精度計測について

山口大・田中正吾,中山正行

 計測の分野においては,水道・ガス等の配管関係を始めとし,管の長さを間接計測することが重要な役割を果たす場合がしばしば見うけられる.このような観点から,著者らはこれまで管内に生じる定在波のいくつかのモードの音圧変動およびその時間微分を線形ダイナミックシステムの状態変数として採用し,このダイナミックシステムに,管長および観測雑音分散を未知パラメータとしたカルマンフィルタおよび最尤法を適用することにより,管長をオンライン計測する方法を開発した.さらに,上記の線形ダイナミックシステムを構成する定在波の最適モードの選択法をダイバージェンス規範により与え,さらに高精度な管長計測法を開発した.
 しかしながら,鋼管製造ヤードにおけるように大きな外乱音が絶えず管内に入る状況では,管内定在波の位相や振幅が頻繁に変わり,これまでの計測方式では必ずしも良好な計測結果が得られないことがあることがわかった.
 そこで,本論文では,新たなダイバージェンス規範を用いて使用すべき最適データウインドウと最適モードを同時に選択し,これにより管外雑音が管内定在波に外乱として大きく作用する場合にも管長の高精度計測が実現できる方式を提案した.また,実験により提案方式の有効性を示した.


■ 軸心共有型非接触インピーダンスセンサ

広島大・川原知洋,徳田寛一,金子 真

 幅広い分野において対象表層のインピーダンス特性を測定することが行われてきた.これまで,インピーダンスパラメータを測定するために用いられていたセンサはその多くが直接接触方式であったため,不衛生,対象物を破壊してしまうなどの恐れがあった.これに対し,近年,空気圧を用いて仮想的な力プローブを形成し,非接触で対象表層のインピーダンスを測定するようなセンシング方法が提案されているが,これまでのセンサは,設計上の制約から空気噴射口か応答取得経路のいずれかが斜めに設置されており,空気圧により表面が変形すると力点と変形の計測位置が一致せず,変形に対して厳密な測定ができないという問題点があった.
 本論文では,以上の点を踏まえ空気噴射口と応答取得経路を併合させ,厳密な変位測定が可能な,軸心共有型非接触インピーダンスセンサを提案する.さらに,実際にセンサを試作し,センサの動作や基本特性について示すとともに,応用例として食品のインピーダンス測定を行った結果について紹介する.


■ 特性変動をともなう1次おくれ+むだ時間系へのH∞補償器の適用

東大・山川雄司,農工大・井出 裕豊橋技科大・野田善之,小山高専・山崎敬則山武・神村一幸,クロテック・黒須 茂

 本論文では,ビルの空調システムなどのプロセス制御系に対する,H∞補償器の実用可能性を検討している.
 プロセス制御系ではプラントモデルに1次おくれ+むだ時間系が一般的に用いられるが,空調システムのように特性変動をともなうプラントに対して,外乱抑制と目標値追従といった制御性能の向上と,閉ループ系が安定を保つというロバスト安定性の保証を目的として,H∞補償器の設計法を検討している.本論文では,H∞補償器の設計法としてRicatti方程式の解が得られれば,容易にH∞補償器を設計できるDoyleらによって提案されたDGKF法を採用し,つぎのことを明らかにしている.
 1) 外乱抑制+目標値追従の2つの仕様を考慮した,一般化プラントの入出力重みを決定する手順を示している.
 2) H∞ノルムに対する重みγを小さくすることにより応答に生じる振動の原因と対策を明らかにしている.
 3) H∞補償器とロバストPIDコントローラを適用したときの応答を比較検討した結果,H∞補償器は外乱抑制には貢献しないが,目標値追従には明らかに有効である.
 4) H∞補償器は観測ノイズの抑制に優れているため,機器への影響が少ない.ゆえに,運転性能の向上が期待される.


■ n次元剛体の運動に対するオブザーバの設計と分離定理

三菱重工・鈴木秀俊,名古屋大・坂本 登

 剛体運動の制御は,衛星やロボットの姿勢制御に見られる基本的な問題である.本論文では,姿勢が計測できるとき,それを用いて角運動量を推定するオブザーバを設計する問題を扱う.剛体の姿勢は回転行列で表現されるが,回転行列を特異点をもたないで1対1にパラメトライズすることはできず,さまざまな座標系の取り方が存在する.本論文では,これらの座標系に依存せず,剛体の運動の本質的部分を解析するため,座標系を導入しないで回転行列を扱う.また,力学的な性質を見るのに都合のよいハミルトン系で表現することで,オブザーバの設計を見通しよく行うことができた.さらに,オブザーバの推定量を用いた安定化制御が行えること(分離定理)を証明した.


■ コンパス型歩行モデルの力学的対称性に基づく歩容生成

大阪大・森田 晋,大塚敏之

 本論文は,コンパス型歩行モデルに対する歩容生成手法を提案する.手法はコンパス型歩行モデルの運動方程式が有するある対称性を活用するものであり,それゆえ簡便なものになっている.生成される歩容は,地面と遊脚先端間の衝突現象と自由運動が交互に起こるもので,受動的歩行現象のそれと似ている.しかし,斜面上の運動である受動的歩行に対して,提案手法は平地での歩容生成を可能としている.手法は,コンパス型歩行モデルの力学的性質に関する簡潔な議論を通して提案される.最後にシミュレーションの例を紹介する.


■ ソフトフィンガーを用いた対象物の把握・操りの制御

名古屋大・長瀬賢二,中島 明,早川義一,傍嶋幸之助

 本論文では,2関節2本指ソフトフィンガー型ロボットハンドによる2次元平面内における対象物の把握・操りにおいて,対象物の位置・姿勢と内力の目標値へのレギュレーションについて考える.ソフトフィンガーとしては,圧縮方向と回転方向の変形を有する弾性体の半球を想定する.はじめに,ソフトフィンガーの定式化の方法と運動方程式ならびに拘束条件の導出について述べる.つぎに,ロボットの関節角と指先力,ならびに,対象物の位置・姿勢と指先変形量のすべてが観測できる状況を考え,上記の目標を達成するコントローラを設計する.さらに,上記コントローラ中の対象物の位置・姿勢と指先変形量を関節角からの推定値で置き換えた場合を考え,その場合,対象物の位置・姿勢と内力は目標値から推定誤差に起因する偏差だけずれた値ヘレギュレーションされることを示す.手法の有効性をシミュレーションおよび実験により検証する.


■ 多入力状態むだ時間非線形システムのスライディングモード制御

石川島播磨・田中刈入,都立大・小口俊樹,川田誠一

 非線形システムの制御理論の研究は,今日盛んな研究分野の1つであるが,多くの実システムで現れるむだ時間を含んだ非線形システムに対する制御手法の研究は非常に少ない.一方,実システムに有効なロバスト制御手法の1つとして,スライディングモード制御があり,むだ時間システムへの拡張も研究されてきている.著者らは,状態むだ時間非線形システムに対するスライディングモード設計法として,やはり著者らの提案による有限極配置設計法に基づいたスライディングモード制御系設計法を1入力系に対してすでに提案している.本論文では,まず有限極配置に基づくスライディングモード制御系設計法を,多入力系に拡張する.さらに,外乱などの摂動に対する解析を行い,スライディングモードの下で外乱の影響が現れない,いわゆるマッチング条件の導出を行う.さらに,マッチング条件を満足しない摂動の下で原点への漸近収束性が保証されるための条件を導出し,原点の局所漸近安定性を保証する切換え超平面の設計法を提案する.提案する手法は,状態遅れを含む非線形変数変換を用いることで,切換超平面の設計を線形多様体の設計問題に帰着させるものである.最後に,二段式連続攪拌層反応器制御の数値シミュレーションにより,提案手法の有効性を検証している.



■ 突極形永久磁石同期モータのセンサレス駆動のための鏡相形ベクトル制御

神奈川大・新中新二

 本論文は,突極特性をもつ永久磁石同期モータのための回転高周波電圧印加を伴うセンサレスベクトル制御法の1つとして,突極特性と表裏一体の鏡相特性に基本原理をおく鏡相形ベクトル制御法を新規に提案すると共に,以下の特長・有用性を有することを解析的に新規に示すと共に,実験を通じこれを新規に検証したものである.
 1) 提案法は,固定子抵抗,固定子インダクタンス,回転子磁束などのすべてのモータパラメータに不感である.
 2) 提案法は,高トルク発生において不可避的に発生する固定子磁束飽和に低感度である.
 3) 提案の推定法は,簡単であり,位置センサレス化のための特別な専用ハードウェアを必要としない.純ソフトウェアで実現可能である.
 4) 提案法は,ゼロ速度で250%定格という高トルク発生を行うことができる.
 5) 提案法は,力行あるいは回生の定格負荷の下で,定格速度比で1/1800という低速の速度制御可能である.
 6) 提案法は,5)の低速性能にも拘わらず,4象限の定格速度まで,動作可能である
 7) 提案法は,ゼロ速制御状態で,インパクト定格負荷に耐える.
 8) 提案法は,大慣性負荷を駆動できる.


■ 柔軟受動要素を利用したウェアラブル・フォースディスプレーの開発

日経新聞社・石田大二郎,立命館大・中山雄一郎ボッシュブレーキシステム・嶋 誠司立命館大・川村貞夫

 本論文では,受動要素を利用したウェアラブル・フォースディスプレーを開発した.すでに装着型のフォースディスプレーを目的とした受動要素が提案されており,その要素の基本的な特性が明らかにされている.しかし,実際の使用となると,力提示方法,装着方法など不明な点が残されている.そこで,まず,対象物体と接触する際の力提示方法を検討し,有効な方法を示す.ここでは受動要素に,曲げセンサに加え,力センサを貼り付けた.つぎに,装着方法として,外骨格構造は利用せず,要素を直接皮膚に装着する方法を考える.そのため,人間の皮膚の剛性を計測し,その結果から,効果的な装着方法を開発し,有効性を示した.最後に,ウェアラブル化を検討し,センサと受動要素のみのウェアラブル化と,エネルギー源をも含んだ完全ウェアラブル化の両方を実現した結果を紹介する.


■ 人間 ―人間協調歩行系における共創出プロセスの解析

東工大・武藤 剛,三宅美博

 福祉施設では,介護士と高齢者は協調歩行を通して状況に応じた歩行介助をリアルタイムで創り出している.われわれは,このような時間発展を伴った人間同士の協調動作過程を共創出プロセスと呼び,これをモデルとした歩行介助装置の構築を進めている.そして,本稿では,その模範となる人間同士の協調歩行における共創出プロセスの解析を行った.その結果,協調歩行運動における特徴的な2種類の制御過程の存在が明らかになった.第1は,脊髄神経系に存在するリズム生成機構が主として関わる脚運動の制御である.この過程によって,被験者間で脚のステップリズムの引き込みが生じることが明らかになった.第2は,被験者の腕振り運動と脚運動との相互関係が主として関わる,脚のステップリズムの位相的コヒーレンスに関する制御である.さらに,この過程には高次脳機能である注意機構が関わっていること,そして,その制御サイクルが10〜30秒程度の時間スケールにおいて被験者間で同期することが明らかになった.これらの結果は,協調歩行の共創出プロセスが,注意からの関与の有無に基づく2種類のダイナミクスによって実現されていること,そして,その2つの過程によって,状況に応じた協調歩行が共創出されていたことを示唆するものである.


■ 共同演奏における演奏者間コミュニケーションの解析

東工大・山本知仁,三宅美博

 音楽の共同演奏において演奏者間にはコミュニケーションがあり,それによって協調関係が築かれたり,新たな音楽的局面が生まれたりする.本論文では,この演奏者間コミュニケーションを音楽的側面(演奏リズム),および生理的側面(呼吸リズム)の時間発展より解析した.その結果,曲中の難易度の高いところでは演奏の同調度が低くなり呼吸の同調度が高くなること,難易度の低いところではそれが逆になることが示唆された.また,演奏者間では演奏レベルの直接的相互作用があること,その相互作用によって両演奏者間で新たな演奏パターンが生まれることが示された.さらに,曲の難易度が高くなるところで,演奏者内の演奏リズムと呼吸リズムの結合が強くなり,難易度が低くなるところで弱くなることが示された.これらの結果を説明するために,曲の難易度が高いところでは,演奏者は演奏に対してより注意を要するという仮説をたて,音楽レベル,生理レベル,注意レベルからなる新たな演奏者間コミュニケーションモデルを提案した.


■ スターセンサ画像の暗い星検出への繰り返し型最大値フィルタの応用

三菱電機・西口憲一,吉河章二

 人工衛星の姿勢決定を角速度センサなしで行う自律型のスターセンサを開発するためには,姿勢変動のレートが大きい場合にも星を検出して追尾することが必要になる.しかし姿勢変動のレートが大きい場合には,スターセンサの星像が流れたりSN比が低下したりして,星の安定した検出が困難になるという問題があった.本論文では,この課題の解決のために,以前提案した繰り返し型最大値フィルタと呼ぶ動画像処理方式を用いて暗い星像を検出する方法を示し,その有効性を検証する.繰り返し型最大値フィルタは,当初,単一の点目標を赤外画像の系列から検出するために考案したものであるが,スターセンサの星像のように,ある広がりをもった小さい目標に対しても有効である.この方法を用いれば背景雑音が抑圧され,星像のSN比が時間とともに次第に増大して,1枚の画像では検出不能な暗い星が検出可能になる.さらに,スターセンサ画像のように明るい星と暗い星が混在する場合には,明るい星を検出してマスクする前処理を加えることにより,多数の星が検出されることを示す.このような方法を用いることにより,これまでスターセンサの姿勢変動レートの限界とされていた1deg/sは2倍程度に伸張されることが期待される.


■ 拡張ラグランジュ分解調整法を用いた多企業間における入出荷計画問題の分散型最適化システム

岡山大・西 竜志,篠崎竜一,小西正躬

 近年,サプライチェーンマネージメントの観点から多企業間における入出荷計画を最適化することが求められている.従来は企業間で情報を共有し,それら全体の情報を用いて全体を同時に最適化するシステムが開発されてきた.しかしながら,現実には,競合する多企業間で意思決定に関わる情報を公開することなく,企業間で交渉することにより,自動的に取引計画を調整することが望ましい.そこで,本研究では,拡張ラグランジュ分解調整法を用いた多企業間における入出荷計画問題の分散型最適化システムを提案する.提案するシステムは,全体の情報を利用することなく局所的な情報のみを用いているにもかかわらず,全体として最適に近い解を導出することができる.本論文では,まずラグランジュ分解調整法に基づき,多企業間の入出荷計画問題の分解可能性を示した.分解された部分問題の目的関数に1次のペナルティ関数を加えた拡張ラグランジュ関数を採用することにより,実行可能解への収束が可能となった.これにより,提案手法は,従来のラグランジュ分解調整法で必要とした強制的に実行可能解を作成するためのヒューリスティックルールを利用することなく,準最適解へ収束させることが可能である.さまざまな例題による数値実験により,提案手法と従来の分散型最適化手法であるラグランジュ分解調整法,およびペナルティ法で得られる解の最適解からのずれを検証した結果,提案手法は他の分散型手法に比べて,計算時間は多少かかるが,最適からのずれが1%以内の最適性に優れた解を導出できるということを示した.


■ ランダム手法に基づく対象物姿勢のマニピュレーション計画

防衛大・八島真人

 本論文では,有向グラフの構築に基づくランダム手法を用いた3次元空間内における対象物姿勢のマニピュレーション計画アルゴリズムを提案する.ここでは,操り系の初期コンフィギュレーションおよび対象物の最終目標姿勢があらかじめ与えられており,その間を接続する操り系軌道を発見する.このアルゴリズムの基本的な考え方は,操り系状態空間内でランダムにサブゴールを逐次生成し,サブゴール間の接続可能性を判定し,有向グラフを構築していくことである.これにより,非常に大きな探索空間および複雑な接触点拘束条件を本来有するマニピュレーション計画の実現性が可能になる.このマニピュレーション計画を実現する上で,3次元空間における剛体姿勢のランダム生成に関するアルゴリズムを新たに提案している.これは,ランベルト正積図法を用いて写像された平面上での点のランダム生成により実現可能になる.3関節3本指のマニピュレーション計画に本アルゴリズムを適用し,探索手法の有効性,高い解の発見率をシミュレーションにより明らかにする.ランダム手法を用いているため,本アルゴリズムは特定のクラスの操り系に依存せず,多様な問題設定に対して,柔軟かつ簡便に解を発見できることが期待される.


 
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