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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.44 No.7(2008年7月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ 電磁波レーダ高速走行のための最適電磁カップリング

山口大学・田中正吾,高橋慶行

 トンネル,橋梁,ビルディングなど多くのコンクリート構造物に対し,これまで老朽化による事故がしばしば報告されている.そのため,これらのコンクリート構造物に対し,災害の予防保全及び長寿命化の観点から,クラックや空洞の検出など高信頼度な非破壊検査手法の開発が望まれている.
 これらの異常診断法の1つとして電磁波レーダを用いる方法がある.これは,超音波などではポイント検査のため極めて稼働性が悪いのに対し,電磁波レーダ法では,レーダを検査対象に対面して走行・検査でき,比較的高い稼働性が実現できるからである.
 ただ電磁波レーダは,非破壊検査を行う場合電磁波を検査対象内に効率よく入射させるために,レーダをタイヤを介して検査対象に接触させて(マニュアルで)低速で動かすことになっている.そのため,レーダを高速走行させる際には,レーダが走査線上の予期しない突起や物体に衝突して破損しないよう,レーダを所定の距離だけ,検査対象から浮かす(リフトオフ)必要がある.しかしながら,リフトオフ量を増やすと,今度は逆に電磁波の検査対象内への入射効率が大幅に減じ,非破壊検査自体が困難となる.そのため従来は,リフトオフを与えても,わずか20〜30mm程度しか与えていないのが実状である.
 このようなことから,本論文は,レーダの高速走行に際し走査ライン上に突起物や異常物体があっても衝突により破損しないよう,@検査対象内への電磁波の入射効率を減少させることなく大きなリフトオフを実現できるカップリング法,およびAそのとき用いる電磁波伝播媒体の最適特性量(厚みおよび誘電率)の設計規範,ならびにBその有効性について考察を加えたものである.


■ ロジウム濃度変化に基づく白金系熱電対のドリフト量の計算

田中貴金属工業・浜田登喜夫

 白金系熱電対は,高温に曝されるとその熱起電力が変化することが知られている.この変化は通常の産業計測における場合,多くは絶縁管の繋ぎ目における素線成分の揮発,すなわち一方の素線が揮発しもう一方の素線に付着することに起因している.この現象は,両脚のロジウム濃度差を小さくする.よって,熱起電力は徐々に低下してゆく.
 本研究では,この熱起電力ドリフト量をロジウム濃度から計算により見積もり,実測結果と比較した結果,両者は比較的良い一致を示した.本方法による熱起電力ドリフト量の推定は,操業中にそのドリフト量を実測できない産業界,特に硝子溶解現場で非常に有用な方法といえる.


■ 状態推定遅延を含む2次元量子スピン制御系の安定化

東京工業大学・加嶋健司,西尾和記

 近年,連続測定に基づく量子フィルタリング・フィードバック制御の基礎理論が確立され,理論・実験の双方から盛んに研究がおこなわれている.この枠組みにおいては,制御対象のダイナミクスの時間スケールが短いため,現実的には制御入力値の計算(特に状態推定)に要する計算時間は無視できず,遅延を考慮した解析や設計の必要性が指摘されてきた.しかしながら,既存研究では,その取り扱いの困難さもあり,これらの影響は多くの場合考察されていない.そこで本論文では,量子制御において特に重要な物理系である量子スピン系を対象として,量子制御系に内在する遅延の影響を理論的に解析する.具体的には,切替えを有する確率遅延システムを用いて安定化問題を定式化した後,主結果としてむだ時間依存安定性条件を導出する.また,遅延存在下における速応性と安定性のトレードオフを考慮した設計が可能となることを数値例によって確認する.


■ 経路追従問題における最適速度制御

熊本大学・岡島 寛,大阪大学・浅井 徹,
     熊本大学・川路茂保

 経路追従問題の従来研究において,制御対象の速度は一定とした上で経路への追従がなされていた.一方,目標経路に追従するだけでなく短い時間での移動も要求される場合には,制御対象の速度時系列を考慮しなければならない.移動時間を短くするためには速度を速くする必要があるが,速い速度では旋回に大きな入力を必要とし,制御対象の安定性を損なうこととなる.そのため,制御対象の速度時系列を制御対象の動特性や目標経路の形状を考慮しつつ適切に決めることが重要になる.
 本論文では,移動に要する時間と制御対象の入力の大きさを評価関数とした最適制御問題の枠組みで制御対象速度の制御を含む経路追従問題を考える.ここで制御入力には,上記の評価関数の値を小さくすることと同時に制御対象が目標経路に沿って移動するようなものが求められる.そこで,制御対象が目標経路に漸近的に追従するような制御入力を考え,その制御入力を制約条件として問題に組み込むことで標準的な最適制御問題に帰着させる.これによって,既存の方法で数値解を得ることができる.さらに,自動車モデルを用いた数値例により提案手法の有効性を検証する.


■ アフィン非線形システムのP・SPR・D制御とその倒立振子への応用−受動性に基づく安定化理論−

慶應義塾大学・志水清孝

 受動的なアフィン非線形システムとLagrange系に対するP・SPR・D制御を考える.P・SPR・D制御は比例(P)+SPR(strict positive real)+微分(D)動作から成り立っている.そのような制御によって多入力多出力のアフィン非線形システムを漸近安定化できる.さらにLagrange系の設定点サーボ問題が解ける.P・SPR・D制御の安定性解析は受動性理論とLaSalleの不変性原理に基づき行われる.P・SPR・D制御は倒立振子問題へ応用される.このとき,われわれは第1段階で直接勾配降下制御によって振子を振り上げ,第2段階でそれを倒立させるためにP・SPR・D制御に切り換えることによって制御を実行している.


■ MIMOシステムのサーボ問題に対する適応PID制御

慶應義塾大学・田村健一,大森浩充

 本論文は定数外乱の影響を受ける未知のMIMOシステム {A,B,C} の適応サーボ問題に対するPID制御に関するものである.ここでは定数ゲイン行列と時変ゲイン行列からなる2自由度型の適応PID制御とそのゲインパラメータ行列の調整法を新たに提案する.提案手法は制御対象の零ダイナミクスの漸近安定性,システム行列に関するランク条件とCB=O, CAB>0 または CB>0の仮定のもとでリアプノフの安定定理を満足するように導出される.提案手法では定常外乱の影響下でMIMOシステムのパラメータが未知であっても線形時不変の目標値生成システムで与えられる目標値への漸近出力追従が保証される.最後に8次元2入力2出力システムに対するシミュレーション結果から提案手法の有効性を示す.


■ ロスのある通信路を介した適応制御

東京大学・赤間俊一,津村幸治

 本稿はコンピュータネットワークを介した遠隔制御系に対する適応制御の手法を提案する.従来の適応制御を用いた遠隔制御系ではコントローラとプラントの間の通信路において発生するデータ破損やタイムアウトによるデータロスの影響を無視してきた.だが,インターネットやアドホックネットワークを介した制御系を構成する場合はこれらを無視することができない.そこで,本稿は通信路で発生するロスを陽に考慮し,このロスに対してロバストな適応制御系の構成法とその安定性を示す.本稿の結果によって,通信回線の品質が安定しない状況下においても適応制御系を構成できることが示される.


■ 粘弾塑性体モデルで表現した物体間の相互作用による破壊

東京医科歯科大学・本間 達,若松秀俊

 本研究は,塑性を単純な線形モデルで表わし,粘弾性固体を表現するKelvin-Voigtモデルと組み合わせて,粘弾塑性体モデルを構築した.さらに,仮想空間内の物体の相互作用を実現するために,構成する質点同士の接触条件について定義した.このモデルを用いてさまざまな種類の仮想球状物体を構成し,仮想空間内における落下と物体同士の衝突のシミュレーションを行った.任意のパラメータを与えることにより4種類の破壊と非破壊の合計5種類を表現できることを確認した.さらに演算描画に要する時間を測定し,小さな物体同士の相互作用における実時間での表現を実現した.これにより,実時間で物体を加工操作する力覚表示システムへの応用が可能であることが示唆された.同時に,加工される物体のみならず,加工時に受ける反力により生じる器具の劣化なども再現しうる可能性も示された.なお,本研究では,上記の手法の確立に重点をおいたため,モデルに与えたパラメータは必ずしも現実の物体の物性値を反映していない.しかしながら,物体から実測したパラメータを本モデルに与えれば,現実の物体と同様の動態を得られると考えられるので,実現が困難な条件下で,破壊を生じうる現象の予測実験などにも応用が期待される.



[ショート・ペーパー]

■ 海水中のUEP雑音に関する考察

防衛省技術研究本部・草田健太郎

 艦船は複数の異種金属で建造されているため,電気化学的に卑な金属が腐食を起こしてしまう.金属の腐食は船体の強度を低下させるだけでなく,腐食が海水中に電界を作り出す.その海水中の電界は,UEP(Underwater Electric Potential)と呼ばれ,諸外国において,艦船の探知のための信号源として利用されてきている.
 海水中にUEPが発生する原因は,艦船の腐食以外にも,人工構造物で使用される電力,地磁気の変動,海水の運動などあり,それらのUEPは信号を検出する際には背景雑音となってしまう.
 本研究は,遠方の艦船を探知するUEPセンサシステムの開発のため,海水中に存在するUEPを2つのセンサシステムで測定し,海水中のUEP雑音の分類を行い,その低減について考察した.


■ ノッチフィルタを用いた最適サーボ系による柔軟構造物の振動制御

岐阜工業高等専門学校・森 貴彦,
    名古屋工業大学・不破勝彦,森田良文,神藤 久

 近年,大型宇宙構造物の制御の研究が行われている.このような柔軟構造物のもつ弾性が制御性能の劣化や制御系の不安定化を引き起こす恐れがあり,スピルオーバ現象の回避やロバスト安定化が必要不可欠である.森田らは,木田らの最適レギュレータを最適サーボ系に拡張して,制御入力の高周波成分を抑制するよう前置フィルタ(2次ローパスフィルタ)によるスピルオーバ対策の有効性を実験検証した.しかし,実現される前置フィルタの周波数特性が必ずしも所望のものとなりえず,スピルオーバ現象も懸念される.筆者らは先に,この問題点を解決するため,前置フィルタを用いた新たな周波数依存型最適サーボ系の設計法(従来法)を提案した.しかし,振動抑制と過渡特性の間にトレードオフの問題点があった.そこで本稿では,ノッチフィルタを導入した新たな設計手法を提案する,具体的には,前置フィルタに,ノッチフィルタと1次ローパスフィルタを配置する.ノッチフィルタは,主共振の振動モードのみを厳密に除去してサーボ帯域を広げる.1次ローパスフィルタは,実装の際の高次の振動モードによるスピルオーバ現象を回避する役割をもつ.その結果,提案法は,従来法の問題点である振動抑制と過渡特性のトレードオフの軽減が期待できる.


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