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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.48 No.10(2012年10月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ クラスタ可制御性に基づく動的ネットワークの低次元化

東京工業大学・石崎孝幸,加嶋健司,井村順一,東京大学・合原一幸

 本論文では,複雑ネットワーク上で時間発展する線形システム(動的ネットワーク)に対し,クラスタ可制御性に基づく低次元化手法を提案する.
 ここで,クラスタ可制御性とは,状態空間の局所的な可制御性の指標であり,互いに素な状態の集合(クラスタ)の入力に対する振る舞いの自由度を特徴づける.
本手法では,この可制御性に基づき構成されたクラスタを適切な重みづけのもとで集約することによって,システムのネットワーク構造を保存した低次元モデルを構成する.
 こうして得られる低次元モデルは,もとのシステムのネットワーク構造や安定性に加えて,DC ゲインやシステムの正定性などの,ある特定の性質を保存する.
さらに,低次元化により生じる状態変数の軌道の誤差は,H∞ノルムによって評価されたある上界をもつことが示される.


■ 空間表現能力を可視化するための3D表現システムの開発

北海道工業大学・鈴木 昭弘, 和嶋 雅幸, 川上 敬, 岡崎 哲夫

 幼児の認知している空間をいくつかのタスクを行わせることにより可視化し,それにより幼児の空間表現能力の発達段階を可視化することを目的とした3Dペイントシステムを開発した.3Dペイントシステムには幼児の空間を可視化するための機能として,仮想的な3D空間において,「立方体の移動実験」,「立方体の回転実験」,「紙の配置実験」を行う実験機能を搭載している.
 我々は本システムを使用し,幼稚園において約半年毎に,2009年8月,2010年1月,2010年8月に評価実験を行った.また,2010年8月の実験においては標準化されている知能テストの一つであるWPPSI知能診断検査を使用し,システムの有効性を検討した.その結果,1)幼児から仮想的な3次元空間における空間表現を取得することが可能である,2)幼児の空間表現能力が年齢とともに高くなる様子が可視化可能であり,それにより空間表現能力の発達段階の推移を可視化できる可能性がある,3)WPPSIとの間に相関が見られ,一方でWPPSIでは測れない能力を測定できる可能性がある,などの知見を得た.


■ 静電容量型センサの省電力増幅

ジェピコ・中村哲夫,成蹊大学・栗原陽介,法政大学・渡辺嘉二郎,ジェピコ・寺田雅英

 従来のECM型センサは内蔵する接合型FETの温度特性やばらつきが,センサとしての大きな課題となっており,さらに後段のセンサ回路は,これらセンサの温度ドリフトやばらつきの影響を避けるために,AC カップリングによって後段の増幅器に接続する必要があった.提案する回路では,AC カップリングコンデンサを用いずに差動増幅器と帰還回路とによって,センサ信号の増幅率,周波数特性,従来比1/23の低消費電力化を両立させることができた.
また,提案する回路は,センサ信号のバイアス電圧を電源電圧VCCの中点に設定できるために,信号の出力ダイナミックレンジは理論最大値である± VCC/2 を得ることができ,レイル・トゥ・レイル出力を可能にした.周波数特性に関しても,従来回路ではACカップリングコンデンサの影響により,低域周波数の通過特性が犠牲となっており,圧力センサなどのような低周波信号のインターフェースを行う場合に大きな問題となるが,提案回路では低域周波数の通過特性を直流域にまで拡大した.


■ 対向右折車への優先行動が交通流へ及ぼす影響

日本大学・丸茂喜高,日本工業大学・鈴木宏典,久留米工業大学・片山 硬

 本研究では,ドライバの利他的運転に対する動機づけを行うために,利他的運転による効果の予測を行う.右折車により渋滞が発生しやすい交差点を例に,対向右折車を優先させることにより得られる効果を車載表示器でドライバに呈示することを想定し,優先行動が交通流に及ぼす影響をシミュレーションにより検討した.渋滞状態では,対向右折車を優先させることにより,交通流が改善され,優先させる車両の増加とともに,その効果が段階的に増加することを確認した.さらに,右折時の安全性は向上し,CO2排出量は減少することを確認した.


■ 体感型制御実験装置を用いた動機づけ講義とその効果

大阪大学・浅井 徹,大須賀 公一,石川 将人,井上 正樹

 大阪大学工学部機械工学科目では講義・演習・実験をセットにした制御コア科目「動的システムのモデリングと制御」と通常科目である「制御系設計論」を通じて制御工学の基礎教育を行っている.しかしながら,これだけの労力を投入しているにもかかわらず,授業内容を十分に理解している学生は必ずしも多くはなかった.このような状況に陥る原因を認知科学的な知見に基づいて考察した結果,著者らはフィードバック制御の実体験やその効果のイメージなど,学生に授業理解の基礎となる実感が不足していることが主な原因であるとの結論に至った.そこで著者らは学生に理解の基礎を与えることを目的として,制御工学教育の最初に,簡単な実験装置を用いた体験講義,制御の効果や目的を動画を用いて印象づける講義,システムのモデルや動特性を身近な例を通じて理解させる講義を導入した.これらの取り組みの成果をアンケートなどによって調査したので,その結果を報告する.また,設計・製作した実験装置の詳細
についても示す.


■ 対外乱特性を利用した船舶の推力低減化位置制御

川崎重工・浜松正典,河田久之輔,加賀谷博昭

 船の位置制御システムは外乱に対する耐性が重要な性能指標として評価される.操船者は位置制御を行っているアクチュエータの操作量を見て外乱の方向を推定し,最適な船の向きを判断している.本稿では,この考え方にならい,制御器の出力が小さくなる向きに船を自動回頭させる制御の構造を提案し,その構造のもと,閉ループ系の安定化を達成する制御則を提案する.更に,この制御則のL2ゲインを保証する制御パラメータの条件を導出する.最後に,外乱存在時のシミュレーションで,目的の回頭および推力低減の達成を確認する.


■ 二次可制御な非ホロノミック交差チェインドシステムの切替フィードバック制御

大阪大学・石川将人

 本論文では,ドリフト項を持たない非ホロノミックシステムのうち,交差チェインド形式と呼ばれる状態方程式で表される2入力5状態のシステムのフィードバック制御問題を扱う.このクラスには3リンクのヘビ型ロボットや球体の転がり運動などが含まれる.従来集中的に研究されてきたチェインド形式のように単一のジェネレータあるいは時間軸にあたる変数が存在しないこと,可制御性接分布が2階のLie括弧積を含むなどの構造的な特徴から,特に制御の難しいシステムである.本論文では,著者が先行研究において単一のジェネレータを持たない一次可制御なシステムに対して提案した切替フィードバック制御の考え方を高階の可制御性に対処できるように拡張し,状態空間の位相幾何学的構造に着目した不連続な座標変換を導入する.これにより有界かつ有限時間で原点に到達する,切り替え型の(手続き的でない)完全に静的な状態フィードバック制御則を提案する.


■ 故障評価行列と観測値欠落補償に基づく耐故障性を考慮したセンサネットワークの構成

慶應義塾大学・小杉 和也 , 滑川 徹

 本論文ではセンサ群を用いた移動対象の観測と目標値までの誘導を行うシステムについて, センサの観測値に未知の故障信号が混入する, または観測値そのものが欠落するという故障を想定し, これらの故障問題に対する耐故障性を有するシステムの構築を行う. まずセンサの観測値に異常なバイアスを生じる信号が混入するような故障に対し, 観測誤差共分散を利用した故障評価行列という故障検出の基準を定義し, 故障発生を動的に検知する手法を提案する. そして故障検出に基づくスイッチング則の導入により, 故障を含む観測値が状態推定結果へ与える影響を抑制でき, 同時に故障を生じたセンサでは状態推定精度を表す推定誤差共分散が故障のない場合と比較して高感度化を達成できることを示す. 次に現時刻の観測値が入手できず, 観測値に基づく制御入力が計算できなくなる故障に対し, 前時刻の観測値と, 前時刻の状態推定誤差を利用した現時刻の観測値の補完を行う. そして, この観測値補償を行った制御入力と補償が無い従来の制御入力では, 提案則の方が推定誤差共分散行列の増加を抑制できることを示す. 最後に2つの提案則の有効性をシミュレーションと実機を用いた実験によって検証する.


■ 左連続動的システムにおける周期軌道の指数安定性について 一般化ポアンカレ写像に基づくアプローチ

広島大学・佐藤 訓志,佐伯 正美

 本論文では,ハイブリッドシステムの微分方程式に立脚しない統一的表現の一つである左連続動的
システムに着目し,このシステムにおける周期軌道の指数安定性と,一般化ポアンカレ写像におけ
る平衡点の安定性との関連を明らかにする.
 左連続動的システムは,いくつかの公理を満たすベクトル空間からベクトル空間への写像として定義され,Impulsive systemやSwitched system を特別な場合として含んでいる. 一方,ハイブリッドシステムにおける周期軌道の安定性解析の有効な手法として,Impulsive systemへと拡張された一般化ポアンカレ写像に基づく方法が提案され,周期軌道のLyapunov安定性と漸近安定性が,一般化ポアンカレ写像における平衡点の安定性を調べることで判定できる.
 先行研究では,左連続動的システムにおける一般のN-周期軌道のLyapunov安定性と漸近安定性に関して議論しているが,指数安定性に関する議論は行われていなかった.
 本論文における一つ目の結果として,従来の局所Lipschitz連続性に相当する新たな二つの連続性の概念を提案し,これらの等価性条件を明らかにする.この等価性条件の下で,二つの連続性に基づく解析を評価区間によって使い分けることで,異なる遷移時刻をもつハイブリッド軌道間の距離を任意の時刻にわ
たって評価できるようになる.そのため,この結果は左連続動的システムの解析において有用である.二つ目の結果として,この解析手法を駆使して左連続動的システムのN-周期軌道の指数安定性と,対応する一般化ポアンカレ写像における平衡点の指数安定性との等価性条件を導出する.この結果はハイブリッド周期軌道に対する指数安定性の判定や,安定化制御器の設計に有用である.


■ 円柱曲面上におけるヘビ型ロボットの滑落回避を考慮した軌道追従制御

キヤノン・田中基康 , リコー・塚野洋章,京都大学・松野文俊

 へビと同様の推進原理を持つ車輪拘束ヘビ型ロボットは,その細長い形状から狭い空間への進入に適していると考えられ,また,ヘビが円柱曲面上を移動することができることから,円柱曲面上の移動を実現することで化学プラントなどの配管検査ロボットとして期待できる.しかし,従来のヘビ型ロボットの制御に関する研究のほとんどは,移動環境として平面を想定しており,円柱曲面上において正確な位置決めを実現する制御系設計はなされていない.本研究では,関節が能動ユニバーサルジョイントで構成され3次元運動が可能な車輪拘束ヘビ型ロボットを対象に,円柱曲面上においてロボットが滑落回避をしながら移動するための制御則を提案する.円柱曲面は管状の環境を考えた場合,管の外側と内側が存在するが,ここでは外側を巻き付きながら移動する場合を考える.滑落回避を考慮するためには,ロボットと円柱曲面間に働く接触力と摩擦力を考慮する必要があるため,動力学モデルに基づいた制御系設計を行う.具体的には,ロボットの入力の冗長性を利用することで,ロボットが滑り落ちないため摩擦条件とロボットの姿勢の条件を満足しつつ,ロボット先頭を目標軌道に追従させる制御則設計を行う.最後に,数値シミュレ
ーションにより提案する制御則の有効性を検証する.


■ 逃避時間回避を考慮したH∞フィルタによる移動ロボットの自己位置推定と環境認識

慶應義塾大学・大川 佳寛,滑川 徹

 本論文では逃避時間の回避を考慮したH∞フィルタを用いた移動ロボットの自己位置推定と環境認識について扱う.H∞フィルタによる推定では設計パラメータγの値によって,推定誤差共分散行列の値が発散する逃避時間と呼ばれる現象が発生し,推定精度の悪化や推定失敗を引き起こすことがある.そこで本論文では逃避時間回避を目的としてアルゴリズムを修正した逃避時間回避H∞フィルタによるSLAM問題の解法を提案する.そのアルゴリズムでは誤差共分散行列の更新式に,各時刻における誤差共分散行列の対角和の値に応じてその有無が決定される重み付けを行うことでその発散を抑え,逃避時間回避を達成する.また,ロボットが静止時において,提案したアルゴリズムの更新につれて誤差共分散行列が収束することを証明する.そして最後にシミュレーション結果と移動ロボットを用いた制御実験の検証結果より,そのアルゴリズムによって実際に誤差共分散行列が発散せずに逃避時間を回避して収束することを確認し,提案手法が逃避時間回避に有効であることを示す.更に提案法を用いることで従来法に比べ推定精度が向上していることを実証する.


[ショート・ペーパー]

■ TSVDを用いた並流型熱交換プロセスの初期値推定について

神戸大学・佐野 英樹, 松元 宏太

 本稿では, 拡散項を有する並流型二層流熱交換プロセスを取り上げ, 境界観測のもとでの初期値推定問題を考察する. はじめに, 二つの管の出口における有限時間の観測データを基にして, 熱交換プロセスの初期分布を推定する問題を考える. 理論的にはその系の可観測性から, 正則化法により初期分布を近似的に推定できる. また, その推定は観測データにノイズが加わる場合にも可能である. ここでは, 正則化法と等価な打ち切り特異値分解(TSVD)による手法を用いてこの問題を解く. つぎに, 片方の管の出口における観測データのみを基にした場合の, 初期分布の推定問題についても考察する. 本稿の目的は, 境界観測のもとでの熱交換プロセスの可観測性に関する理論的結果を述べてから, 単独の拡散プロセスに対して数値的に検証されているTSVDによる手法(小國, 2011年)を熱交換プロセスへ拡張することである.


 
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