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 論文集抄録

論文集抄録

〈Vol.38 No.10(2002年10月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]
■ 棒状Si電極による弱電解液液位計測法の基礎的研究

広島工大・白井義人,北山正文,川畑敬志,田中 武

 本論文では,弱電解液の液位の変化幅が10mmと小さい場合の計測を精度良く行う手法として,各種電極材料について検討をし,棒状Siを電極として用いることが適当であることを提案することにした.まず,弱電解液の液位と棒状電極の相対的位置関係と電極材の違いによる電気的特性に関して検討するためのシミュレータを考えた.つぎに,そのシミュレータで各種抵抗体についてシミュレーションを行い,弱電解液に適した棒状電極の特性を予測した.さらに,シミュレーション結果の妥当性を検証するために,抵抗率の異なる数種類の棒状Si電極について液位計測実験を行い,シミュレーションで得られた結果の有効性を確認した.
 以上の結果を受けて,電極材料に抵抗率の大きい棒状Si電極を用いた液位計を試作し,精度良く液位計測ができることを立証した.


■ 定在波を用いた両端開の直管に対する管長高精度計測

山口大・田中正吾,岡本昌幸

 著者らは,これまで直管および湾曲管内に生じる定在波のいくつかのモードの音圧変動およびその時間微分を線形ダイナミックシステムの状態変数として採用し(管長を未知パラメータとする)カルマンフィルタおよび最尤法を適用する方式により,両端の閉じた10数mの直管に対し,計測誤差が2〜3mmの高精度計測を実現した.しかしながら,実際は開端を有する管の長さ計測が必要な場合も多く見受けられる.管端が開の管長計測に際しては,開口端補正を行う必要があるが,この補正値は管の内径や開口端付近の状況(フランジの有無,床との相対距離など)および管端の形状によって変わるため,事前にこの補正値を求めておくことは困難である.このようなことから,本論文では開口端を有する直管に対し,開端の場合とこれに蓋を取り付けた場合の2通りの管内音圧変動を観測することにより,管長および開口端補正値を同時に高精度計測できるオンライン計測システムを提案する.


■ デルタ演算子による離散時間ロバストMRACSとその安定解析

防衛大・鈴木良昭,鈴木 隆,板宮敬悦

 本論文ではデルタ演算子を用いた離散時間MRACSのロバスト構成法について述べると共にその安定性について論ずる.適応制御系の実現は一般には計算機を用いて離散時間形式でなされる.この場合には,所要の制御入力は前時点までに得られたデータを基に現時点までの1サンプリング周期の間に計算しておけばよいので,複雑な計算を要する適応則の使用が可能となる.ここに述べるシステム構成法では,コントローラのパラメータは固定トレースアルゴリズムにより調整され,不感帯の存在により生ずるプラント・規範モデル間の出力のオフセットは積分形の固定補償要素の使用により除去される.可変ゲイン形の適応則の使用はコントローラパラメータの速い収束を可能とし,適応制御系としての制御性能の向上を図ることができる.MRACSとしての安定性の解析は,適応則によって保証されるパラメータ変化率のl2性を基にl2デルタノルムによって系内信号の指数重み付きエネルギーを評価し,その結果にBellman-Gronwallの定理を適用することによりなされる.このような解析法は連続時間系についてはすでにIoannouらや筆者らによって示されているが,本論文はこれを離散時間系に拡張すると共に,より平易な解析手法をとっている点に特長がある.


■ 一次の可制御構造を持つ対称アフィン系のフィードバック制御―時間軸状態制御形に基づく切替制御戦略―

東工大・岩谷 靖,石川将人,東大・原 辰次

 本論文では,一次の可制御構造を持つ対称アフィン系のある種の正準系に対して,状態の原点への収束を任意の精度で達成する状態フィードバック則を提案する.提案手法は対象システムがいくつかのチェインドシステムへ分割可能であることに着目したものであり,そのサブチェインドシステムを適切な順に制御することで制御目標を達成できる.各サブチェインドシステムに対しては時間軸状態制御形に基づく制御方法を用いる.このとき得られる制御系の特性は,チェインドシステムに対して時間軸状態制御形を利用した場合と本質的に同じになり,観測雑音に対してロバストに設計可能である.また本論文後半では,3次元空間において角運動量が保存される多リンク系が,本論文で対象としている正準系へ近似可能であることを示す.そして,このようなシステムに対する提案法の適用の有向性を数値例により検証する.


■ 高周波ゲイン行列において主座小行列式の符号のみが既知な多入出力系のモデル規範型適応制御

九工大・大屋勝敬,小林敏弘

 多入出力連続時間システムに対して,種々の直接法によるモデル規範型適応制御手法が提案されてきた.しかしながら,これまで提案されてきた直接法による適応制御手法では,高周波ゲイン行列の先見情報に関して厳しい制約が存在する.最近,この問題を解決するため,高周波ゲイン行列に関しその主座小行列式の符号のみが既知であればコントローラが設計できる手法が提案された.しかしながら,提案された手法では,出力誤差の漸近安定性に関しPE(Persistency of Excitation)性が必要とされる.
 本論文では,高周波ゲイン行列の主座小行列式の符号が既知であれば,PE 性の存在の有無にかかわらず出力誤差の漸近安定性が保証できる手法を提案する.すなわち,まず,すべての主座小行列式が零とならない行列Kが正定行列Kpならびに三角行列Ktを用いてK=KpKtと表現できることを示す.つぎに,リアプノフの安定理論に基づき正定行列Kpを用いた正定値関数の時間微分を解析することにより,モデル追従型適応制御コントローラを開発する.そして,開発されたモデル追従型適応制御系においてPE性の存在の有無にかかわらず出力誤差が漸近安定となることを示す.


■ 正規直交梯子形フィルタ構造を用いた低感度状態推定フィードバック制御器の合成

広島大・雛元孝夫,井上卓也

 線形連続時間システムで記述された制御対象に対して,状態推定フィードバック制御器の係数変動に対する閉ループシステムの入出力特性の偏差を低減する,状態推定フィードバック制御器の合成法について提案している.ここでは,L2ノルムのみを用いて0,pm1要素を考慮した係数感度の評価を行っている.また,係数行列に0要素を数多く含む正規直交梯子形フィルタ構造を用いて状態推定フィードバック制御器を構成している.0要素は回路的には非接続を意味しており,これらの要素が数多く含まれていれば回路構成がそれだけ簡単になり実現コストが安価になる.また,これらの要素はパラメータ変動を生じないために,閉ループシステムの入出力特性の偏差に直接影響を及ぼさない.可制御正準形や可観測正準形には0,pm1要素が数多く含まれているが,これらの構造を用いても係数感度が一般に小さくならないことはよく知られている.一方,正規直交梯子形フィルタ構造を用いた場合には,係数感度を非常に小さく低減できることが,数値例を通して確認される.


■ 2自由度フレキシブルマニピュレータの受動性に関する考察

岐阜大・清水年美,佐々木 実

 本論文では,2自由度フレキシブルマニピュレータの受動性の証明を行った.単一リンクのフレキシブルマニピュレータの受動性はすでに証明されているが,2自由度に関しては,受動性が成り立つであろうと予測は立てられていたものの,得られる運動方程式の複雑さゆえに,その証明が困難であった.
 本研究では剛体ロボットの運動方程式ではよく知られている結果との関連性を考察し,フレキシブルマニピュレータの運動方程式を慣性行列,粘性行列などを用いて表現した.さらに,それらの行列が有する性質を用いて2自由度フレキシブルマニピュレータの受動性の証明を行った.


■ Youlaパラメトリゼーションに基づくAnti-Windup 制御系の解析と設計

京大・鷹羽浄嗣

 本論文は,Youlaパラメトリゼーションを用いてAnti-Windup(AW)制御系の解析および設計について考察したものである.Youlaパラメトリゼーションにより,プラントの既約分解を直接利用したAW制御器の新しい表現を与える.円板条件により,このAW制御器に利用するプラントの既約分解がある強正実性条件を満足するならば,閉ループ系がL2安定であることを示す.この安定条件に基づいて,線形行列不等式によるAW制御器の新しい設計法を提案する.また,提案するAW制御器と内部モデル制御型AW制御器との関係を明らかにする.さらに,これらの結果を拡張して,2自由度制御系に対するAW制御器の解析・設計についても考察する.


■ 一般化制御対象の不安定零点構造と標準H∞制御器の次数の関係

都立大・渡辺隆男

 著者らはH∞制御問題において,一般化制御対象のサブシステムが正の実軸上に伝達零点を持つ場合に,制御性能の劣化を伴わずに制御器の次数が減少することを先の研究で明らかにした.本論文では,この結果をもとに,一般化制御対象の不変零点構造と標準H∞制御器の構造についての関連をさらに調べ,制御器の次数減少のメカニズムについて明らかにする.また,仮定した問題設定が現実のどのような制御問題に当てはまるかを示すため,複数の典型的な例題を用いて,得られた結果を実験およびシミュレーションにより検証する.


■ 非線形プラグイン適応制御方式による非線形サーボ系の一構成法

慶大・宮本浩幸,鶴岡秀展,大森浩充

 内部モデル原理に基づくサーボ系設計では,フィードバック制御器が外部信号の発生メカニズムである外部システムと等価なモデルを有し,かつ最終的な閉ループ系が安定となるように設計されなければならない.また外部システムのパラメータが既知でなければならないため,そのパラメータが変化するたびにフィードバックループを一時切断し,設計を初めからやり直す必要が生じる.
 一方,外部システムと等価なモデルをもとのフィードバックループの外側に配置してフィードフォワード的にサーボ系設計問題を解決するプラグイン制御方式(外部モデル原理)では,サーボ系設計のための新たな制御器を配置するにあたり既存のフィードバック系を再構成する必要がない.さらに構造上の特徴から,サーボ系の再設計やメンテナンスを,操業を止めることなくかつ既存のフィードバックループに手を加えることなく行うことができる.
 本論文では,こういったサーボ系設計を相対次数1次の非線形システムにまで拡張し,それを非線形内部モデル原理とプラグイン適応制御方式に基づく新たな制御構造で実現する.さらに適応機構を導入することによって,外部システムのパラメータが未知である場合に対処しうる適応サーボ系を構成する.また最終的に設計仕様を満足しうる制御器が,誤差フィードバックレギュレーション問題を解くことで得られることを示す.


■ 電子制御スロットルの特性を考慮した内燃機関の応答性の向上

日立製作所・青野俊宏,小渡武彦

 電子制御スロットルは,内燃機関の気筒に入る空気量を制御し,エンジンのトルクを制御する装置である.ガソリン直墳システムや,車間制御システムの市場投入に伴い,電子制御スロットルも普及している.電子制御スロットルに制御信号を送ってからエンジンがトルクを発生するには,電子制御スロットルの応答遅れと,吸気管を空気が満たす遅れとの2つの遅れが存在する.前者の遅れの時定数が数十msであるのに対し,後者の時定数は数百msである.したがって,電子制御スロットルの制御信号に対する応答性をいくら向上させても,後者の遅れを補正しなければ効果は得られない.
 本研究では,吸気管における遅れと電子制御スロットルの制御特性を考慮した上で,スロットル収束時の吸気管内圧力の予測にもとづき制御信号の最大値と最小値を切り替えることで,スロットルから気筒へ空気が流入するまでの全体でみた応答性を向上させるスロットルの制御方法を提案し,その効果を確認する実験を行った.その結果,ステップ信号を与えた場合に比べ,本方式を用いることで,気筒に流入する空気量の立ち上がり時間が約1/10に短縮された.また,滑らかな制御に移行するのに要する時間も100ms以内で,ステップ信号を与えたときの立ち上がり時間に比べ大幅に短縮された.


■ 小口径トンネルロボットの旋回運動特性と方向修正制御モデル

NTT・吉田耕一

 通信ケーブル等を非開削で地下敷設する推進工法の1つである掘削型の埋設管推進システムは長距離・曲線施工に対応可能な工法であるが,その施工品質はオペレータのスキルに大きく依存していた.本論文はこのようなトンネルロボットの高精度な自動方向制御を目指したナビゲーションシステム構築のため,推進機先導体の旋回運動モデルについて検討したものである.実際の施工データを用いて,推進時に先導体各部の運動が周囲地盤から受ける拘束状態を解析し,マシンヘッド先端部分及び先導体後端部の運動に関する拘束モデルをそれぞれ導入した.さらにマシンヘッド角に対する先導体の旋回特性をARXモデルで表現し,マシン先端および先導体後端に関する拘束モデルと組み合わせて2種類の旋回運動モデルを導出した.これらはカルマンフィルタと組み合わされ,逐次状態推定シミュレーションにおいて推定精度とk段先予測性能が比較・検証された結果,先導体後端運動拘束モデルがよりよい推定性能を示すことが確認された.


■ カオスの縁を考慮したカオスシステムのニューラルネットワーク制御

山口大・大林正直,梅迫公輔,中山大輔

 本論文では,カオスシステムの制御において,カオスの縁状態を考慮しながら制御を行う,新しいニューラルネットワーク制御方式を提案する.通常,制御器はある評価指標を最小化するように設計する.これまではこの評価指標としてシステムの目標出力値と出力値との二乗誤差平均,もしくはこれにエネルギー項の拘束条件を付加したものが用いられている.本論文では,この通常の評価指標に加え,システムがカオス状態か非カオス状態かを判別する指標であるリアプノフ指数を用いた評価項を新たに追加し,拡張評価指標とする.シミュレーションではこのリアプノフ指数の目標値を正,零,負とした拡張評価指標を最小にする制御器をそれぞれ構成し,通常の評価指標を最小化した制御器の計4種類の制御器の制御性能を比較する.さらに,システムの特定の目標出力値を出力するように学習が行われたニューラルネットワーク制御器が,変更された目標出力値に対してどれほどの追従能力があるかという汎化性能に注目する.シミュレーションの結果,リアプノフ指数の目標値を零とした,すなわち,カオスの縁状態を保ちながら制御を行う提案法は,従来法に比較し学習終了時の制御性能は若干劣るものの,汎化性能において非常に優れていることが明らかになる.

 
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