計測と制御 2014年 9月号

VOL. 53, 2014

特集「言語とコミュニケーションの創発に対する複雑系アプローチ」

われわれ人間の言語はヒトを人たらしめる最も重要なアイデンティティの一つであり、われわれの文化の基盤をなしているのは疑う余地がない。しかし、その固有で高度な能力がいかにして生じたかは、“言語は化石を残さない”ために、従来その理解は容易ではなかった。一方、近年、人間の言語の起源と進化を解き明かす研究動向が盛り上がりを見せている。これには、進化の過程において人間が言語能力をどのように獲得し原始的な言語をもつように至ったかという生物学的な問いから、言語が原始的な状態からどのように文化的に変化し現在に至っているかという文化的な問いまでが同時に含まれる。その全体像の理解のため、言語の本質を探ろうとする理論言語学、数十万年に渡る人類進化および霊長類・トリ・クジラ目などとの比較を含む生物進化、幼児の言語発達、文法などの言語体系の歴史的変遷、語彙や概念の変化、一夜にして世界中に広まるSNS上の情報伝搬まで、大きく異なるレベルと時間スケールを対象にした研究者が集う学際的な研究領域となっている。
その中でも、言語を主体間の相互作用の結果として創発する複雑系と捉え、その普遍的なダイナミクスの理解に焦点を合わせる、複雑系的言語観が近年重要な役割を担っており、生物進化・文化進化のシミュレーション、人間を対象とした実験室言語進化実験、ロボットと環境とのインタラクション、言語資料やSNSデータの解析など、多様な研究アプローチが展開されている。このような考え方は、広く自律分散・適応システムの設計と制御に対しても有用な示唆を与えうると考えられる。特に、人工物と人間の共生系におけるコミュニケーション・システムの創発といった領域には、直接的な適用が可能になるだろう。そこで、本特集では、近年の言語の起源と進化、および、それに関連するコミュニケーションに関する研究動向において、特に複雑系的言語観に基づくアプローチに関して、その全体像とさまざまな観点からの研究事例を紹介する。

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