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福祉工学部会講演会 東京大学先端科学技術研究センター 中邑賢龍教授


はじめに、「発達障害と工学的支援」と題して、中邑教授にご講演いただいた。

「障害のある人にテクノロジーを適用する」という方向で進められていた従来の研究開発に対して、@障害範囲の拡大、A福祉の思想に根ざした機器利用、B技術のリハビリテーションという観点から述べる。

@障害範囲の拡大

ICIDHにおいては、障害をimpairment/disability/handicapの3つのレベルに分類していたのに対し、ICFにおいては、誰もが持ちうる状態としての障害を定義している。加齢や病気、環境の変化、その他の要因で障害と同じような状態になりうる。しかし、人の意識がほとんどついてきていない。障害者と聞いて思い浮かびやすい、アテトーゼ型脳性まひや先天性視覚障害に罹患する人は減少している。にも関わらず、これらの障害をターゲットとした技術開発が盛んに行われている。障害者だけが当事者なのではなく、障害に関心のある人は当事者である。

テクノロジーが障害観を変えることがある。デュシャンヌ型筋ジストロフィーの患者は、過去には多くが20代までしか生きられなかったが、気管切開をしなくても使える呼吸器の普及によって寿命が延びている(感染症による死亡の減少)。と同時にこうした呼吸器によって移動機能を獲得している。寿命が延びたことによって、生きがいの問題が生じ、就労や勉学の支援が新たな課題となっている。筋ジストロフィー患者にとって、電動車いすを使用することによる移動の効力感は、歩けていたとき以上のものである。テクノロジーが与える心理的インパクトは大きい。

現在の日本では、小中学生の6.3%がLD、ADHD、高機能自閉症などの発達障害や認知障害であると推定されている。これらの子供達に、従来の「鍛える教育」を与えても努力で変わるものではなく、自信喪失や絶望につながる。多様性を理解し、ユニークさを引き出す合理的配慮が必要である。テクノロジーはその配慮たりうる。海外では、有名な大学にも学習障害や自閉症の学生が多数在籍している。読めなければ録音図書やテキストリーダー、書けなければノート作成者といった配慮がされる。かつて全盲者向けに開発されたテキストリーダーが、学習障害者向けに産業化されている。

日本においては、障害者手帳の有無による待遇の違いが大きい。しかし、障害認定の有無の境目は薄れてきつつある。障害のある人を支援するために蓄積した技術を一般に適用していく必要がある。

A福祉に根ざした機器利用

量的なエビデンスを示す必要がある。イギリスやイタリアでは、福祉機器によるコスト削減の試算がなされている。スウェーデンでは、福祉機器の利用は基本的人権のひとつであるとうたわれている。

認知症の高齢者に適用する機器の日本とノルウェーの比較。日本では、「徘徊するのはぼけたからだ」と考え、徘徊センサを設置して監視する。ノルウェーでは、「徘徊するのは昼と夜の区別がつきにくいからだ」と考え、時計で昼夜が分かるようにする。重度の場合には徘徊センサを使うが、そのときも監視するのではなく、センサをタイマと音声出力装置につないで、「まだ夜ですよ」と声かけをする。どんな福祉社会を構築するかのビジョンが必要である。我々(中邑先生ら)も電動車いすの利用コストと電動車いすが使用できない場合の介助コストとの比較試算を行った。電動車いすを6年間使用した場合、1週あたりのコストは2,200円。対して電動車いすに代わる介助のコストは1週あたり50,000円である。テクノロジーの利用は、自立した生活のための基本的権利のひとつである。

Bテクノロジー・リハビリテーション

技術開発から技術利用研究への移行が必要である。携帯電話のメモ機能のように、技術があるのに使われていないケースが多い。技術者はデバイスへのアクセシビリティばかり気にするが、アクティビティへのアクセシビリティが必要である。こうした思想の下に、AT2ED(エイティースクウェアード)を運営している。機械を使わせるための工夫ではなく、機械を使ってどう生活するかを知るべきである。

中邑教授の講演に引き続き、巖淵守准教授より、「情報を共有するテクノロジー」に関するお話と、e-PP(Electronic Personal Profiler)のご紹介があった。

特別支援教育において、学年の変わり目などに、申し送りに伴う問題が生じやすい。申し送りは主に文書などの資料によって行われるが、「雰囲気は伝わるが具体的な様子が分からない」「程度が明確でない」「専門用語が分かりにくい」といった問題がある。また、「説明しにくい」と感じているのは書き手の15%なのに対して、読み手の47%が「分かりにくい」と感じているというように、両者にずれがあることも分かった。特にコミュニケーションや身体に関することについては伝わりにくい。

そこで、当事者が、自らの障害情報やコミュニケーション、支援情報などを携帯電話を通じて発信するためのe-PPというシステムを構築した。

最後に、近藤武夫助教より、発語等の訓練のためのRF-IDを用いたシステムである、トーキングリストバンドのご紹介をいただいた。言語リハビリテーションでは、通常絵カードを用いるが、カードと実物との乖離や、日常生活のコンテクストの中での訓練といった面で不十分だった。開発されたシステムでは、RF-IDタグを生活の中の物品に貼り付け、指先につけたリーダでタグを読み取ると、ヘッドセットからその物品の名前が音声で返される。利用者は聞こえてくる音声にあわせてものの名前を復唱することで訓練を行う。

講演終了後も、各先生方と参加者との間で熱心な討論が長時間にわたって続いた。

写真1 写真2
質疑の様子トーキングリストバンド