計測と制御 2003年6月号

VOL.42 2003

特集「人工知能の現在と将来」

 現在,日本はロボットブームに沸いている.本田P-2,P-3,AsimoやSonyのAIBOの登場により,工場の外に出て,オフィスや家庭で活躍するロボットの研究開発への期待が高まっている.  一部のマスメディアには,P-2,P-3の登場を「鉄腕アトムへの第一歩」と評し,このまま開発を続けていけば,アトムとまでは行かなくても,かなりの機能を持った自律ロボットが実現できそうに報道するものもある.しかし,「ロボット研究は,知能の部分が決定的に遅れている.」とは多くの研究者が口にしているようである.  現在話題になっているロボットが,環境認識能力や行動計画能力をほとんど,或いは全く備えておらず,作業を行うためには,遠隔制御や人間による作業のためのプログラム作成を必要としていることは,研究者の間では常識であるが,必ずしも,多くの人々の知るところでは無い.ロボット・ブームの終了後に,過剰な期待が達成されなかったことによる大きな反発さえ予想される状況である.  自律型ロボットの実現には,少なくとも,環境認識,行動計画,運動制御という3つの情報処理が不可欠であると考えられる.環境認識,行動計画,運動制御のうち,今後20年の間に,人間と同レベルの機能を持った情報処理システムの構築が見込まれているのは運動制御だけである.画像認識を含む外界の認識と適切な行動計画のための情報処理は難問であり,自律ロボット実現のための大きな障害となっている.  人間の認識・判断能力を実現するため研究の中心となると期待されている研究分野が人工知能である.伝統的に人工知能は記号処理を中心的な手法として発達してきたが,人間のような柔軟な情報処理能力を持つ「人工知能」の構築のためには数多くの難問があることが認識されるようになった.伝統的な人工知能の手法により,人間のような柔軟な情報処理を実現することが困難であることから,人工神経回路,遺伝的アルゴリズム,サブサンプションアーキテクチャ.....新しい情報処理手法が「行き詰まっている人工知能の現状を打破する.」といったキャッチフレーズとともに登場するようになった.逆説的ではあるが,人工知能の直面する問題が,情報処理において,真に重要かつ困難な問題であることが広く認識されたとも言える状況である.  現在人工知能は,それを革新するべく提案された新しい手法も取り込んで,様々な立場の研究を総合した研究分野となっている.人工知能の手法は,どのように発展しているのか? それは「行き詰まっている」のか? それとも,解決の糸口は見えたのか? 本特集では,人工知能技術の現状とその将来を描き出す.

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