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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.33 No.7(1997年7月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


一覧

●特集 センシング―デバイスからシステムまで●


●特集 センシング―デバイスからシステムまで●

■ 音響センサを用いた溶鉱炉の炉壁異常診断に関する研究

山口大・田中正吾,D.D.SUKMAN

 銑鉄の生産においては,溶鉱炉を用いて鉄鉱石を還元溶融することが行われるが,このプロセスは高温高圧であるため,時間の経過とともに,内部炉壁の欠損は免がれない.この観点から,溶鉱炉の安全管理のため,稼働状態のままで溶鉱炉の内部炉壁が監視できる計測システムの開発は重要なことである.

 このようなことから本論文では,音響センサに基づく溶鉱炉炉壁の厚み計測を考えた.つまり,超音波を送波したときの溶鉱炉の内壁からの反射波受波時刻を正確に検出し,これに基づき炉壁の厚みを計測するシステムを考えた.なお,音波の搬送に際しては,途中の減衰を防ぐため比較的低い周波数を使用するが,そのため分解能が悪くなる.そのため本論文では,反射波受波時刻の検出に際し,送受波の物理特性を考慮した反射波予測信号波形を作成し,これと実際の受波信号波形とのパターンマッチングを図ることにより,各部位からの反射波を正確に検出したり,あるいはいくつかの部位からの反射波が重畳する場合はこれらを分離し各反射波の受波時刻を検出するなどして,炉壁の厚み計測を正確に行うことを考えた.

 最後に,溶鉱炉の炉壁を構成するレンガおよびレンガと鋳鉄の複合体であるステーブ等に本提案方式を適用し,その有効性を示した.


■ Measurements of Initial Relative Permeability of Ferromagnetic Material in Low Magnetic Field Using a YBCO Superconductor at 77.4K

Kinki Univ.・Mineo ITOH

 液体窒素温度(77.4K)における強磁性体の初比透磁率(μsi)を測定するために,YBCO超伝導体を標準材料とする新しい計測システムを開発した.その結果,YBCO超伝導体の下部臨界磁場(μ0Hc1,5.0×10-4T)以下の低磁場(10-6T●10-4T)においてμsiの値を正確に測定することができた.代表的な強磁性体,すなわち,フェライト,78-パーマロイ,軟鉄および電磁鉄鋼のμsiの値は60Hzの周波数において,それぞれ10.70,10.77,10.75,および10.85であった.温度が77.4Kおよび室温(300K)において,フェライトのμsiの周波数特性は10Hzから20kHzの領域においてフラットであることが分かった.また,フェライト以外の強磁性体の77.4Kおよび300Kにおけるμsiの値は,100Hz以下ではフラット,100Hzから20kHzの範囲では減少することが分かった.フェライト以外の強磁性体の77.4Kにおける周波数依存性は,300Kにおける周波数依存性よりも顕著であった.試料として用いた代表的な強磁性体の77.4Kおよび300Kにおけるμsiの値は,磁場が10-6Tから10-4Tの範囲では全く依存性がなかった.また,超伝導体および強磁性体の熱膨張係数が起因するμsiの測定精度は0.1%であった.


■ Development of Stroboscopic Microscope Using Fringe Scanning Interferometry Technique (FSIT)

Nagoya Univ.・Ken NAKANO, Tohoku Univ.・Kazuhiro HANE, Nagoya Univ.・Shigeru OKUMA,and Canon Inc.・Tadashi EGUCHI

   A stroboscopic fringe scanning interferometric microscope has been developed to measure small vibrations. In order to set up the microscope, the Fizeau-type interferometry measuring system is used to obtain stoboscopic interference images of a vibrating surface and an optical isolator is inserted into the interferometer to remove extra interferences from the observed interferograms. The measured interferograms are analyzed by the fringe scanning method. A micro-cantilever for an atomic force microscopy is used as a sample to demonstrate usefulness of the fabricated apparatus. The sample is excited by pressure of sound at a frequency of 13.8kHz. By changing time delay of the laser irradiation, distributions of the vibration at different phases are obtained. The measurement error of the vibration is evaluated to be less than 6nm, which is much less than that of the discrete type. This method is useful for measuring minute vibrations of ultrasonic devices and micro-mechanical systems.


■ 空気温槽によるインジウム三重点の実現

計量研・櫻井弘久

 インジウムの三重点を空気温槽を用いて実現した.インジウムの凝固点は1990年国際温度目盛の定義定点の1つであり,室温領域での最も重要な温度定点である.

 従来,金属の凝固点は黒鉛るつぼに試料を入れ,電気炉で加熱することで実現されてきた.これらの電気炉は熱解析の面からは構造が複雑であり,系統的に熱流を評価することが困難であった.計測結果の不確かさを評価することが国際的な要求になるにつれ,精度評価の可能な炉の設計・製作や従来の凝固点測定法の再検討などが必要になった.

 空気温槽は構造が簡単であり,熱伝達の機構も単純である.空気を使うため安全かつ清潔で,レスポンスも速く,温度範囲も制限がほとんどないため,温度定点の実現や精度評価の温槽としては最適である.

 ここでは,密封ガラス三重点セルと空気温槽を用いて,インジウムの三重点を実現した.まず,液相・固相の圧力依存性の測定から,1990年国際温度目盛に基づいてインジウムの三重点温度値を429.74347(0.00004)Kと決定した.つぎに,セルの温度分布,融解曲線の周囲温度の依存性,融解曲線と凝固曲線の差,温度計の挿入深さや不純物の影響などを精密に測定し,定点実現の不確かさを検討した.製作した空気温槽と三重点セルで実現したインジウム三重点の標準不確かさは,0.068mKであった.


■ 感圧ゴムセンサによる多機能材質識別―硬さと熱伝導性の場合―

佐賀大・湯治準一郎,信太克規

 本論文では,個々のセンサを複数個用いて外界情報をセンシングする従来の手法とは異なり,感圧導電性ゴムを用いた単一構造感圧ゴムセンサの2つの特性の異なるセンサ信号から,人間の皮膚感覚においても物体認識上重要な役割を有する硬さと熱伝導性の2種類の材質情報を多機能的に識別することの可能性を実験的に示す.

 感圧導電性ゴムは,その抵抗が圧力のみならず,温度にも依存する性質を有していることから,本研究では圧力と温度の同時検出デバイスとして用いている.試作したセンサは,皮膚感覚をモデルとして,体温に対応する恒温基板と皮膚に対応する感圧導電性ゴムで構成され,物体の変形に伴う反発力分布の変化と感圧導電性ゴムの温度変化を硬さと熱伝導性の検出パラメータとする.また,この2種類の情報を求めるために,2種類のセンサ信号(感圧導電性ゴムの抵抗)を取り出す.

 本研究では,硬さと熱伝導性のそれぞれ異なる4種類の試料を用いて試作したセンサの特性を調べた.センサの2次元的検出パターンにより,硬さと熱伝導性の識別の可能性を示した.


■ 高速位置検出のためのセンサアレイ走査方式

岡山大・馬場 充,小西忠孝,ホシデン・堀 祐子

 近年,種々の計測システムやロボットシステムの位置検出においては,速い検出速度を要求されることが多い.現在,位置検出に用いられている代表的な光学的センサは,半導体位置検出素子(PSD)と固体撮像素子(CCD)である.いずれも検出速度の向上には実用上あるいは原理的に限界がある.そこで,本研究では位置検出高速化のためのセンサアレイの新たな走査方式について提案する.

 本走査方式は,まずセンサアレイの中のセンサ素子出力の中から並列処理を用いて,最大値を示すセンサ素子を探索する.ついで,そのセンサ素子の値と両隣りのセンサ素子の値を使って,センサアレイ全体の出力分布を2次曲線近似する.これにより,高速性と精度の両立を図った.本研究では,本走査方式の回路構成を提示し,フォトダイオードを用いた位置検出センサシステムを試作し,実験を行った.

 その結果,精度面では0.49%の線形性と1 μm以下の分解能を,検出速度の面では約10kHzの検出速度が実現できることを実験的に確認した.また,本走査方式が外乱光の影響を受けにくいことも明らかにした.実験的検討に加えて理論面からも考察し,本走査方式が高速位置検出に対して有用であることが明らかにした.


[特集ショート・ペーパー]

■ 時空勾配空間法による不規則流表面速度計測

京都工芸大・稲葉宏幸,園田泰之,板倉安正,笠原正雄

 不規則流の表面速度を計測することは,土石流などの規模を予測しその災渦を未然に防止するために重要な課題のひとつである.土石流などの表面速度を計測する手法として,空間フィルタを用いる手法などがよく知られているが,この手法は空間フィルタに平行な向きの速度成分しか計測できないため,速度の向きをも明らかにしたい場合には一般に不向きである.本論文では,確定画像の速度計測法として知られている時空勾配空間法を不規則画像に適用し,その速度ベクトル分布を計測可能であることを示す.また,不規則画像の不規則性によって本方式の計測精度がどのような影響を受けるのかを計算機シミュレーションにより明らかにするとともに,不規則流の時間相関が小さい場合や流速が速い場合など計測条件が適当でない場合であっても適切な平滑化処理により計測精度を改善可能であることを示している.最後に本手法を土石流映像に対して適用し,土石流の表面速度分布を求めることが可能であることを確認する.本論文で得られた結果は,不規則流の表面速度ベクトルの計測の可能性を示したものであり,この実用化が期待される.


[特集開発・技術ノート]

■ 可変オリフィス流量計の開発

小山高専・猪瀬善郊,コスモ計器・山田長政,古瀬昭男,小山高専・黒須 茂

 本論文は,微小流量の測定分野で広く利用されてきた浮子面積式流量計と原理,構造を異にする可変オリフィス流量計の開発にともない,その流量特性を実験的に検討し,本方式を活用する際の有用な基礎資料を与えている.

 すでに片持ち梁構造のダイヤフラムを用いた可変オリフィス流量計を開発公表してきたが,この流量計は本質的に非線形であり,センサとして使用するには電気的なリニアライザを必要とした.また,片持ち梁構造のため受圧板の経時的な変化をうけやすく,零点を安定化させることに難点があった.

 本方式では,これらの問題点を解決するために,従来からの片持ち梁構造の受圧板の代わりに,帯板を円筒状に巻いたラップ型の可動体に改良している.可動体の偏位は流路の差圧に比例し,1対の検出コイルにより差動的に検出され,流量は偏位量に対して線形性を有する特長をもっている.


[論  文]

■ 熱画像情報による人物状態の自動判断

慶大・山崎信寿,財津 篤

 在宅モニタリングやセキュリティシステムなどへの応用を目的として,日常環境中の人物の静止,活動,不在の3種類の状態を熱画像情報から自動判断する手法を開発した.活動人物は,変化領域含有率と背景画像との一致度の閾値判断で候補を絞った後,形状の複雑度,輝度変化度,輝度平均,末端部の輝度平均を用いたファジィ推論で最終判断した.静止人物の判断は前画像中で特定した人物領域中の輝度変化割合で行った.どちらとも判断されない場合は不在と判断した.

 日常環境を想定したセット内での撮影を行い,閾値判断のみの方法と本手法を比較した結果,前者の正答判断率71%に対して本手法では95%であった.判断困難な画像は,人物が大きな高温物体に重なった場合と人物領域が小さい場合であった.1画像当たりの処理時間はパーソナルコンピュータで約20秒である.


■ 複合ディスクリプタシステムの分散制御による二次安定化

和歌山大・安田一則,神戸大・能宗文子

 ディスクリプタ方程式は,状態方程式より広いクラスが表現できる,システムの物理的構造そのまま保存されるなどの利点に加え,モデルの不確かさの表現においても,状態方程式に比べて保守性を小さくできることから,最近,ディスクリプタシステムのロバスト安定化について,H∞制御や二次安定化の立場から研究がされている.

 本論文では,サブシステムがディスクリプタ方程式で与えられた大規模システムの分散二次安定化を考察している.すなわち,複数のディスクリプタシステムが相互結合したシステムを,サブシステムごとの静的な線形フィードバックで二次安定化することを考え,安定化可能であるための十分条件と分散制御則を示した.得られた条件は,各サブシステムが指定された外乱減衰度で二次安定化可能であればよいというもので,その外乱減衰度はサブシステム間の結合の強さの上限に関するM行列条件から与えられている.これらの結果は,ディスクリプタ表現を状態方程式表現に変換することなく導かれており,ディスクリプタ表現の利点が生かされている.


■ Bounds for the BMI Eigenvalue Problem- A Good Lower Bound and A Cheap Upper Bound -

Osaka Univ.・Hisaya FUJIOKA, Kohta HOSHIJIMA

   The Bilinear Matrix Inequality (BMI) eigenvalue problem is considered. Upper and Lower bounds of the BMI eigenvalue to combine with the BMI branch and bound algorithm are derived. The proposed lower bound is better in compare to existing one, and still computable via the LMI-optimization. While, the proposd upper bound is computationally cheap utilizing the lower bound optimizer. The worst case gap of the proposed bounds is characterized by the problem data. Numerical examples are also shown.


■ 不安定重みをもつ系に対する拡張制御器の構造と拡張H2制御

東工大・美多 勉,千葉大・劉 康志,東工大・冨山仁博,東京電機大・張  ・

 制御理論はいまだ整備されていない問題を持つ.その1つが不安定重みを持つH∞制御問題であり,不安定極を虚軸上のものに限定すれば,この問題はH∞サーボ問題を含み,不安定なものに注目すれば,制御対象が不安定な場合のH∞推定問題やLTR問題を含む.

 重みがΩ極を持つH∞制御問題に対しては,筆者らはさまざまな見地から研究してきたが,重みのΩ極を制御器が極の一部として持つための十分条件を導入して数式展開をしたため,この条件がなくてもH∞制御問題が可解か否か分からず,H∞推定問題やLTR問題にも適用できない.これに対して本論文では総合安定なる概念を使い,重みに不安定極がある制御系に対するH∞制御問題を拡張H∞制御として一般的に解いた.

 拡張H∞制御の応用としてH∞サーボ問題とH∞推定問題を解いた.特に,H∞推定問題に対する本論文の解法は,不安定制御対象を重みとして取うことにより,標準H∞制御の解を形式的かつ直接的に利用できる点で,従来の方法より優れている.


■ δルールに基づくガソリンエンジン制御系の変動パラメータ学習方式

日立・高橋信補

 自動車エンジン制御における燃料系の状態依存型変動パラメータの学習方式を提案する.この方式は,ニューラルネットの学習の基礎となるδルールに基づくものである.燃料系パラメータは,エンジン運転状態に応じて目まぐるしく変化する.本論文では,これらのパラメータが運転状態に応じて所定のテーブルを検索して算出されていることに着目し,パラメータ自体を直接の学習変数とするのでなく,運転状態ごとのパラメータ値が格納されたテーブルのデータを学習変数とみなし,これをδルールに基づいて修正する.これにより,頻繁に変化するパラメータの学習を可能としている.シミュレーションでは,短時間で高精度な制御を実現できた.


■ 宇宙構造物のロバスト制御の実験的検討―きく6号による軌道上実験結果―

電通大・木田 隆,航技研・山口 功,東芝・千田有一,宇宙開発事業団・関口 毅

 宇宙構造物の制御の問題は1970年代後半から活発な研究が行われてきた.とくにロバスト制御の適用について多くの議論がなされ,さまざまな地上実験も試みられてきている.しかし,実衛星を使った軌道上での実証試験については,その重要性にもかかわらず報告されていない.そこで著者らは技術試験衛星きく6号(ETS-VI)を使った軌道上実験を実施した.本論文ではLQG制御およびH∞制御の設計法を使った4種類の制御則の軌道上での実験結果を報告する.宇宙構造物に固有の問題点を解決するような設計法を示し,得られた実験結果の時間応答・周波数応答を解析し,設計値と比較することによって,ロバスト制御の有効性と実用性を実証する.


■ Parametrization of Discrete― Time H∞ Filters Based on Model Matching

Kyoto Univ.・Kiyotsugu TAKABA, Tohru KATAYAMA

   This paper is concerned with the state-space solution to theH∞filtering problem for linear discrete-time systems. We first reduce theH∞filtering problem to a model matching problem (MMP), and then employ a (J, J´)-spectral factorization technique for solving the MMP. By this approach, we obtain a complete parametrization of allH∞filters. Using the chain scattering representation, the structure of theH∞filtering problem is also studied. Furthermore, we present a solution to theH∞prediction problem as a special case of the filtering problem.


■ 拡張H∞制御―H∞サーボ問題と推定問題の統一的解法―

東工大・美多 勉,Xin XIN,富山仁博,オーストラリア国立大・Brain D.O. ANDERSON

H∞制御理論はいまだ整備されていない問題を持つ.その1つが不安定重みを持つH∞制御問題であり,不安定極を虚軸上のものに限定すれば,この問題はH∞サーボ問題を含み,不安定なものに注目すれば,制御対象が不安定な場合のH∞推定問題やLTR問題を含む.

 重みがjω極を持つH∞制御問題に対しては,筆者らはさまざまな見地から研究してきたが,重みのjω極を制御器が極の一部として持つための十分条件(C2V=0,UB2=0)を導入して数式展開をしたため,この条件がなくてもH∞制御問題が可解か否か分からず,H∞推定問題やLTR問題にも適用できない.これに対して,

 ニ槝席犬任倭躪膂堕蠅覆覲鞠阿鮖箸ぁそ鼎澆防坩堕蟠砲・△訐・羞呂紡个垢・∞制御問題を拡張H∞制御として一般的に解いた.

 コ板・H∞の応用としてH∞サーボ問題とH∞推定問題を解いた.

 テ辰法、H∞推定問題に対する本論文の解法は,不安定制御対象を重みとして扱うことにより,標準H∞制御の解を形式的かつ直接的に利用できる点で,従来の方法より一般的である.


■ 不規則雑音に埋もれたパルス波列のウェーブレットによるオンライン検出

京都工芸大・大住 晃,黒石知樹,井嶋 博

 観測された不規則データ中に埋もれた信号を問題は信号検出問題としてこれまで数多くの研究が報告されているが,この問題は主として確率論的立場から考察され,二値仮説検定問題として尤度比関数を用いた信号検出の理論展開がなされてきた.しかし,この方法はあらかじめ検出すべき信号の波形が既知であることが必要であった.その振幅が未知であるような伝送パルス波列の場合にはその手法では対処しきれない.

 本論文では,従来不規則データ中の特異性検出の手段として用いられてきたウェーブレット変換と上述の尤度比関数の融合した2種類のオンライン形検出器を新たに提案している.提案した検出器の純粋パルスおよび鈍化したパルスを検出するメカニズムを解析し,さらにその有効性をシミュレーション実験により確認している.


■ フレキシブル・アームの曲げ・ねじり結合振動と力のロバスト制御

東工大・松野文俊,神戸大・梅山 聡,神戸市立高専・笠井正三郎,神戸大・神澤貴雄

 本論文では先端に剛体負荷をもったフレキシブル・アームが常に環境に接触している場合のモデル化を行い,曲げ・ねじり結合振動と力を制御することを考える.まず,ハミルトンの原理を用いて,リンクの曲げとねじり振動をあらわす偏微分方程式と境界条件,およびモータの回転の方程式を導く.リンクの振動の方程式と同次化された境界条件に対応する固有値問題を解き,固有値と固有関数を求める.つぎに,得られた固有値と固有関数を用いて,分布定数モデルに対応する有限次元近似システムを求め,アームの曲げ・ねじり結合振動と力を制御するための制御系設計モデルを導出する.高次モードを無視することによって生じるスピルオーバ不安定性を補償するために高域遮断特性をもたせた最適レギュレータとH∞制御理論に基づいたロバストな制御器を構成する.最後にその有効性を実験により検証する.


■ インパルス成分を有する振動刺激によるインタラクティブ触覚ディスプレイ

東大・田中健司,諸橋隆治,前田太郎,東大先端研・柳田康幸,東大・舘  日章

 仮想環境下において,体性感覚に整合して素材表面のテクスチャを提示できるような振動型の触覚ディスプレイを設計し,構成した.

 システムは,操作者の動きを取得する部分とそれに応じた振動を提示する部分で構成され,操作者の指先の動きに応じた振動を合成して手指に与えることによって,仮想的な物体の表面の細かい起伏(テクスチャ)を提示することができる.

 この振動としては,実際の物体の表面をなぞるさい発生する振動から人間の触覚に関連の深い特徴量を抽出し,再構成して提示するという方法を採用したが,われわれは記録された振動中に特徴的に含まれるインパルス的な成分に注目し,インパルスの頻度とパワーが保存されるような方法で振動を合成することを試みた.

 心理物理実験の結果,提案した方法は,位相情報を保存せず,振動のスペクトルのみから合成した方法に比べてより高い臨場感で触覚を提示することができた.また,振動中のインパルス成分が,触覚情報を提示するうえでの重要な要素であることが明らかになった.


■ 二酸化炭素の排出総量抑制を目的とした炭素税の有効性の評価モデル

阪大・田村坦之,安部 誠,富山伸司,鳩野逸生

 本論文では,地球環境の温室効果ガスとして良く知られている二酸化炭素の排出総量を抑制することを目的として,炭素税の有効性を評価する方式を提案した.そのために,経済活動と二酸化炭素排出の関係を表わす静的産業連関モデル(投入産出モデル)と,生産量,価格と炭素税の関係を示す線形計画問題をもとにして,二酸化炭素の総排出量の上限値,生産部門ごとに割り当てられる二酸化炭素除去率の決定から,炭素税率の決定に関する方法を検討した.ただし,静的モデルにおける最終需要量は固定して考えている.また,本論文に示した方法をもとにして昭和60年の産業連関表に基づいた計算を試みた.その結果つぎのことが明らかになった.

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■ 複数ロボットによる共同作業法の開発―機能モジュールと直進搬送制御―

北九州高専・山内幸治,九工大・石川聖二,加藤清史

 近年,ロボット単体での知能化の行き詰まりから,複数ロボットを用いて,知能機械を実現するための研究が盛んに行われている.複数台のロボットを用いて,システムを高知能化する手法として,ロボットどうしで共同作業を行わせる方法がある.

 本論文では,高機能複数ロボットシステムを実現するためのアーキテクチャの提案を行い,従来のシステムよりも柔軟で機能の高いシステムの実現法について述べている.このシステムでは,構成する各ロボットの内部処理を,入力,出力および通信機能を持つオブジェクト単位で記述し,それぞれのオブジェクトの相互作用によってロボットを制御する.システムを構成する各々のロボットは,同一のアーキテクチャに基づいて構成される.このアーキテクチャの実現例として,2台の移動ロボットを用いて構成した搬送システムについて述べる.それぞれのロボットは,入力系としてテレビカメラを持ち,相互通信を行って相手ロボットの搬送速度を調整し,最終的に2台のロボットで1つの箱をあらかじめ設定している距離を直進搬送する.


■ 大域的BMI求解のための分枝限定法

東京都立大・高野幸雄,渡辺隆男,安田恵一郎

 多くの制御系設計問題が双線形行列不等式(Bilinear Matrix Inequality: BMI)問題に帰着できる.また,BMIは線形行列不等式(Linear Matrix Inequality: LMI)の拡張であり,枠組みとしてはLMIよりも柔軟なものである.これらのことから,実用的な時間内でBMI問題を解く方法が要望されるが,LMIのように凸計画問題にはならないため大域的な最適化手法が必要とされている.

 K. C. Gohらは,BMIを解く大域的なアプローチとして分枝限定法を構成している.しかし,現実的な規模の問題に対しては計算時間の面から実用的とはいえないようである.大域的な最適化手法としては,近年,SA(シミュレーテッド・アニーリング)やGA(遺伝的アルゴリズム)等の確率論的手法が研究されており,その有効性が示されているが,分枝限定法は有限時間内でε−大域な解を得ることを保証している点で,これら他の手法に比べ魅力的となっている.

 本論文では,分枝限定法によってより現実的な規模のBMIを実用的な時間内で解くことを目標とし,K.C. Gohらの分枝限定法の計算効率の向上を図る.本論文では,より厳密な目的関数の下界値の評価法を提案するとともに,限定操作に改良を加える.また,計算機実験によりその有効性を示す.


■ ハミルトニアンアルゴリズムを用いた多自由度光軸調整法

NTT・水上雅人,平野元久,新上和正

 光通信システムでは,数多くの光部品が接続されるときに,光部品を伝送する光強度が最大となるように,光部品の光軸を精密に位置合わせしなければならない.光ファイバアレイと光導波路との接続への応用では,多数光軸が多自由度で位置決めされる必要がある.この多自由度光軸調整は,(1)多自由度システムに対する最適値探索,(2)サテライトピークを持つ光強度分布関数に対するローカルミニマム回避,(3)微動ステージ等の機械系からの振動による外乱に対するロバスト性,(4)アレイ部品の光軸調時における拘束条件付の最適値探索,等の問題を含む大規模で複雑な問題である.

 本研究では,この多自由度光軸調整を効率的に実行するために,多粒子系における力学系の運動の温合性の効果を利用して,最適化問題における評価関数の最小値を効果的に探索するハミルトニアンアルゴリズムの利用を検討した.ここでは,グローバルミニマム探索時における,運動の混合性と自由度の効果を議論する.また,本手法はローカルミニマムの回避を可能にし,外乱に対するロバスト性も確保できることを示す.さらに実用性の観点から,本手法はアレイ部品の接続にも適用可能であり,最大光強度が得られる最適光軸位置を効率的に探索できることを示す.


■ 人工現実感技術を用いた視覚的臨場感の伝達

東大・廣瀬通孝,三菱総研・佐藤慎一,NEC・横山賢介,豊橋技科大・広田光一

 本論文は,遠隔地間コミュニケーションにおける臨場感の高い視覚情報の伝達方法を検討したものである.従来の頭部連動カメラによる視覚システムにおいて問題とされていた通信時間遅れの影響を回避する手法としてバーチャルドームの考え方が提案される.これは,仮想空間内に仮想のドーム型スクリーンを作り,これに遠隔地のカメラがスキャンして得た映像を張り付け,操作者はこの仮想のドームに対して見回しを行うというものである.これにより,カメラと操作者の動きが連動している必要がなくなり,見回し動作に伴って操作者が受ける時間遅れは仮想空間の生成によるもののみとなる.

 パーチャルドームの実現に先立ち,時間遅れによる影響の定量化のための実験的方法を提案し,この結果に基づいて,見回し動作に許容される時間遅れの基準を明らかにした.また,試作されたシステムについてこの基準が満たされていることを確認した.さらに,時間遅れの制約の中での臨場感の向上のための手法として,カメラによる周囲走査方法の改善と立体表現の導入に関する検討を行った.


■ 概念設計のための要素知識のコード化とその編集型支援環境

岡山大・川上浩司,京大・片井 修,岡山大・小西忠孝,馬場 充,京大・椹木哲夫

 物理的構造物の概念設計活動における設計物の基本概念の模索と策定は,人間の最も知的な活動の1つであり,構造的情報(形状,物性値など)に対する定型的な数値演算処理だけで計算機支援することは困難である.そこで本研究では,知識工学的な手法によって,広義の意味での設計知識ベースを設計者に効果的に利用させるという方式での概念設計支援環境の1つの形態を提案する.

 まず,価値工学の分野における機能系統図に基づく設計対象記述モデルを導入し,それを記述するための要素的な設計知識(コードと呼ぶ)をコーディングする.さらに,決定則と呼ばれる知識表現形式を導入したEBG(説明に基づく一般化)手法とGA(遺伝的アルゴリズム)に基づいて,あらかじめ用意されたコードを特定の評価尺度からマクロ化する,あるいは関連させる.一方,機能系統図に対して「設計者の意図」から「物理的構造体」へとつなぐ情報伝達経路としての解釈を与える.提案する概念設計支援環境において設計者は,自らの意図・熟練度・設計フェーズに合わせて(マクロ)コードを選択し,それを張り合わせて断片的に情報伝経路を形成するという形で設計概念を策定する.


[ショート・ペーパー]

■ ヒステリシス特性のオンライン同定法

筑波大・長谷川忠大,真島澄子

 マイナーループを有するヒステリシス特性のオンライン同定法を提案している.まず,このような特徴を持つヒステリシス特性のモデルとしてよく知られている磁化特性に対するプライザッハモデルをオンライン同定に適した漸化式の形式で記述する.つぎに,この漸化式を用いた,オンライン同定法を示す.従来のプライザッハモデルの同定法では,オフラインで数多くのマイナーループを測定することが必要であった.しかし,本手法を用いることにより,何重にも入りこむ可能性のあるマイナープープの形もオンラインで同定が可能であり,ヒステリシス特性の時間変化にも対応ができる.最後に,本同定方法を実際に薄膜形状記憶合金の温度―抵抗値特性に適用して,その有効性を確認した.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会