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 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.38 No.7 (2002年7月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文] [ショート・ペーパー]
■ 就寝時無拘束計測生体データによる睡眠段階の推定

法政大・渡邊崇士,渡辺嘉二郎

 本論では覚醒,レム睡眠,ノンレム睡眠(1,2,3,4段階)の6つのカテゴリーで与えられる睡眠段階を簡易に推定する方法を述べる.従来のRechtschaffen&Kales法は高価で複雑な機器であるポリグラフを用いて判定するもので,これは国際基準になっており,定義に基づき正確に睡眠段階を判定できるが,被験者には肉体的な拘束感や精神的なストレスを与える.提案する方法は,睡眠中の被験者から簡単なセンサを用いて無侵襲・無拘束に計測される心拍数変動と体動から睡眠段階を近似推定するものである.心拍変動が睡眠段階に強い相関をもつという知見をもとに,各睡眠段階にある心拍変動,体動変化の頻度から,名義尺により6つのカテゴリーとして与えられる睡眠段階を判定するものである.27夜に及ぶ8名の検体による臨床実験の結果,この新たな方式で推定される睡眠段階は,装置の単純さのわりには満足できる結果を示している.


■ 水の三重点セルの静水圧補正係数の精密測定

産総研・櫻井弘久

 水の三重点セルで温度計を0.1mK程度で校正する際,感温部と液面との温度差を補正するために静水圧補正が行われている.この補正係数として,1990年国際温度目盛(ITS-90)では,−0.73mK/m,を与えている.一方,実際の三重点セルで測温孔に沿っての0.1mKよりよい精度で温度分布を測定すれば,その勾配から,原理的に,この補正係数を測定することが可能である.
 ここでは,この係数を実際の三重点セルで測定することを試みた.セルや温度計の構造による系統的な誤差を排除するため,構造の異なる2つのセルと3種類の温度計を用いた.この結果,−0.856(15)mK/m,という結果となり,圧力依存性から決められたITS-90の値とは矛盾した値となった.
 一方,測温孔の底の部分のみの氷を解かし,氷を浮かせた状態で静水圧補正係数を測定した結果,−0.704(75)mK/mとなり,ITS-90の付与値にほぼ一致した.この結果から,固液界面の圧力依存性と静水圧補正係数の矛盾は,セル内の氷が測温孔の底で沈められているために生じていることがわかった.さらに,測温孔の底は氷の浮力による加圧状態にあるため,0.2mK程度低い温度値であることをはじめて測定した.
 これらの結果から,従来の水の三重点セルの取り扱い法では0.1mKよりよい測定が不可能であることを示すとともに,その対策法を示した.


■ Automatic Code Generation System for Nonlinear Receding Horizon Control

Osaka Univ.・Toshiyuki OHTSUKA Toyoda Machine Works・Akira KODAMA

 数式処理言語Mathematicaを用いて非線形receding horizon制御シミュレーションのC言語プログラムを自動生成するシステムを開発した.非線形receding horizon制御(非線形モデル予測制御)は,各時刻で最適制御問題を解いてフィードバック制御を行う手法であり,その数値アルゴリズムのプログラミングは人間にとって煩雑かつミスを引き起こしやすい作業である.それに対し,開発したシステムでは,状態方程式や評価関数を定義した入力ファイルさえ用意すれば,数式処理言語によって数値アルゴリズムの計算式が導出され,さらに,そのままコンパイル可能なC言語プログラムが自動生成される.本論文では,まず問題定式化と数値アルゴリズムを簡単にまとめた後,開発した自動生成システムの構成と使用方法を述べる.2輪車両の例を通じて自動生成システムの有用性を示す.


■ ロバスト極配置法による2自由度積分型サーボ系の設計法―ポリマー重合プロセスにおける銘柄変更問題への適用―

横河電機・鈴木靖典,佐藤千恵,和泉恭子,大谷哲也

 重合プロセスでは,さまざまなポリマーの銘柄を1つの反応器で順に製造するため,操作条件が頻繁に変更される.さまざまなポリマーの銘柄に対する操作範囲は広く,非線形性,パラメータ変動,外乱によるプロセスの特性変動は大きい.したがって,迅速かつ正確に,さまざまなポリマーの銘柄を製造するためには,ロバストなサーボコントローラが必要とされる.本論文では,2自由度サーボ系と状態フィードバックによるロバスト極配置に基づくサーボコントローラのロバスト設計法が提案される.ロバスト極配置は,システムの摂動に対する極の感度が最小化されるように,ロバスト性の指標である条件数を最小化する.追従特性は閉ループ極によって与えられ,ロバスト特性はロバスト極配置法によって同時に最適化される.提案するロバストサーボコントローラは,ポリエチレン気相重合プロセスの理想プロセスモデルに適用され,数値シミュレーションによって,ロバスト性能が証明される.最後に,コントローラは,正確なプロセスモデルが実装されたより詳細なプロセスシミュレータに適用される.その結果,このロバストサーボコントローラは,PIDコントローラと比較して,よい制御性能を示した.


■ オブザーバを用いた適応ゲインコントローラによる未知パラメータを含む線形システムに対するロバスト制御

湘南工科大・松岡正喜,電通大・萩野剛二郎

 本論文は,状態がすべては観測できない場合に対し,システム行列と駆動行列両方にマッチング条件を満たす不確かさを含む線形時不変システムに対するロバスト安定性を保証する適応ゲインコントローラの設計法を提案する.提案するコントローラは,オブザーバから得られた推定値をフードバックする固定ゲインコントローラとオブザーバから得られた推定値,システム出力,入力を反映することにより適応的にゲインを調整する適応機構をもつ可変ゲイン出力フィードバックコントローラで構成される.またシステムの漸近安定性をオブザーバベースのリアプノフ関数を用いて示す.提案するコントローラは,システムに対する可制御,可観測,可検出性の仮定を満たすシステムであれば,それぞれの不確かさがマッチング条件を満たすときには,不確かさに対する上界の情報をコントローラの設計過程で必要としないという特徴をもち,リカッチ方程式によるロバスト制御系設計法で必要であるパラメータ調整を必要としない.また,不確かさを含むシステム行列A+ΔAに対して観測行列Cとの可検出性を仮定し,それぞれの不確かさに対してマッチング条件を仮定しているため対象とするシステムに対する条件が厳しくなっている部分もあるが,その条件さえ満たせば確実にシステムのロバスト安定性を保証するコントローラを得ることができるという点で有効な設計法である.


■ 連続時間H2・H∞最適予見制御

名工大・加藤久雄,舟橋康行,デンソー・坂野 亘

 系にはいる外生入力の未来情報が利用できる場合に,それを積極的に利用することによって制御性能の向上を目指す制御は予見制御と呼ばれ,過去に多くの研究の蓄積がある.一方,系にはいる外乱に対する制御性能のうちで最悪外乱に対する影響を最適化する制御手法としてH∞最適制御がよく知られている.本論文はそのふたつの組み合わせ,つまりH∞最適予見制御問題に対するひとつの解法を示すものである.ただし対象は連続時間1入力1出力系とする.
 H∞予見制御問題に対する解法としてこれまでに提案されているものは,ゲーム理論を用いたものと無限次元空間上の作用素解析を用いたものがある.それに対し本論文でわれわれが提案する解法は因果的なH∞問題をネハリの問題へと変換して解く解法の延長線上にあるものである.これにより問題は因果的な場合と同様に有限次元の問題に帰着する.これは既知のアルゴリズムで解くことができる.われわれの解法では,無限次元的定式化を必要としない点が重要である.また,このアプローチではH∞問題の解に到る途中で自然にH2問題の解を得ることとなるので,それも示している.


■ 制約を有する連続時間線形系に対する最適レギュレータの構成

都科技大・児島 晃,ETH・Manfred MORARI

 近年,モデル予測制御に要する最適化計算をオフラインで実行する方法が開発されつつあり,得られる制御則を非線形状態フィードバックにより構成する方法が検討されている.そして,このようなオフラインの設計法は,負荷の高いモデル予測制御の計算を実装可能な形に展開できる可能性を有しており,連続時間系の制御など,さらに複雑な設計問題に対しても,モデル予測制御の接近法から非線形状態フィードバック則が構成できると期待される.
 本稿では,制約を有する連続時間系に対する最適レギュレータ問題(LQ制御問題)に注目し,モデル予測制御の接近法から非線形状態フィードバック則を構成する問題を考察する.そして近似フィードバック則が,状態の区分的アフィン関数により構成できることを示し,厳密解との関係を考察する.
 また数値例を用いて,アフィンな状態フィードバック則が構成される過程,得られた制御系の性質を検討する.


■ 物理因果に関連する設計知識を反映した人工物の記述とその利用

京大・川上浩司,中国能開大・小西忠孝 京大・須藤秀紹,片井 修

 物理システムの設計活動を事例ベース推論の枠組で支援する1つの方法を提案する.目的とする機能の実現方法を模索する段階では,過去の設計事例の構造を想起することが有効だと言われている.しかしこの方法は,要求される新規性が高いときには「心理的惰性」を産み,発想を妨げかねない.本稿ではこのような具体構造例を想起するのではなく,抽象的な「機能」や背景にある「物理因果」に注目して設計活動を進めるべき段階の支援に注目する.まず,設計事例の機能実現方法を物理因果のレベルでネットワーク状に表現し,これを事例ベースに格納する.さらには,ネットワークの構造マッチングによって「多様される」あるいは「珍しい」部分ネットを抽出する.これは物理因果連鎖レベルで設計知識を反映した記述となっており,設計者が設計物に込めたアイデアを図式的に表わしたものとみなすことができる.本稿では,部分ネットの抽出法,ならびにこれを事例の索引とした事例ベースを利用して再設計案を導出する方法を提案するとともに,実装した試作システムを用いた実験結果を示し,提案手法の有効性とより実用的な方向に発展させる方策を明らかにする.


■ 部分観測環境における複数タスクに対する行動獲得

茨城大・井上康介,東大・太田 順,新井民夫

 本論文では,部分観測環境において,自らの身体性を通じた環境との相互作用に即した自律的状態構成を行うエージェントが,複数のタスクを実行する行動決定機構を獲得する手法を提案する.提案手法は,想定されるそれぞれのタスクに対する状況認識機構,行動方策および経験データを獲得した上で,エージェントが現在扱っているタスクを経験データに基づいて適切に識別し,適切なタスク依存知識を適用することでタスク達成を行う.
 ここで,環境の部分観測性,および自らの身体性に即した知覚と状況認識との写像関係があらかじめ与えられていないという問題に起因して,エージェントが現在扱っているタスクを判別するためには,エージェントの観測・動作に関する情報を直接的に利用せねばならない.このとき,(1)タスク識別のための動作系列がエージェントによってすでに経験されていることの保証がない,(2)タスク実行に先立って行われるタスク識別のための行動によって,エージェントのタスク依存知識が適切に利用できなくなる可能性がある,という2つの問題が生じるため,提案手法では,これらそれぞれの問題に対応する適切な再学習を行う.
 計算機シミュレーションにより手法の妥当性を示した.


■ 繰り返し囚人のジレンマゲームにおける断続平衡

金沢工大・蜷川 繁,新谷 憲

 1対1対戦の繰り返し囚人のジレンマゲームにおいて過去3手の対戦結果を反映してつぎの手を決める戦略の進化シミュレーションを遺伝的アルゴリズムを用いて行った.従来,このようなシミュレーションでは生態学的見地から総当り戦が用いられていたが,本研究では工学的有用性を考慮して,1対1対戦の形式を採用した.計算機シミュレーションによると,種類(戦略の種類)は長期にわたり安定した値をとるが,突発的な種類の急激な減少とそれに続く緩やかな種類の回復という,生物進化における断続平衡と類似した進化のパターンが多く観測された.また大量絶滅に伴って,協調関係が一時的に崩壊するがその後,急速に協調関係が回復することがわかった.遺伝的アルゴリズムにおいて断続平衡の数学的定式化はすでになされているが,本研究によって,具体的に囚人のジレンマゲームにおける断続平衡の際に発生する変化を明らかにすることができた.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会