計測と制御 2009年12月号

VOL. 48, 2009

特集「空間知−私たちの生活を支える脳・身体の拡張空間の創出−」

空間知とは,人,環境,およびシステム群(ロボット,センサ,機能デバイス等)の相互作用により構成される分散的情報構造化空間によって,人あるいはロボットなどの認知・行為主体の身体的能力,認知能力,および情報処理能力の拡張をもたらす知能化空間:「拡張身体性」に関する,学術的体系化を目的として研究が進められている. 従来の古典的人工知能(AI)(1960〜80年代)は,身体を伴わない論理と計算,記号処理をベースとした知識情報処理であった.このような情報空間内の記号処理では,その組み合わせや追加に原則的に制限がなく,情報は爆発的に増大していく.これに対し,1990年代から本格化したNew AIでは,「身体性」の拘束に基づく環境認識と行為生成が未知環境に適応する知能の本質である,という概念が提案された.空間知では,生物学的個体の物理的な身体拘束を超えた「拡張身体性」の概念を扱う.これは生物学的自己を内包した「機能的自己」を扱うということである.この機能的自己の最も素朴な例として,「道具を利用する人」がある.道具の熟練者は,あたかも道具が身体の一部となったように利用する.つまり「人と道具」が一体化した感覚と効果を有する機能単位(身体)が構造化されている(道具身体化).空間知の扱う機能的自己は,生物学的自己を内包しつつ,さらに行為主体の相互作用可能領域(予測可能領域)として人工物を介して空間的に広がり,自己の境界は可変性を持つものとなる. 仮想現実感(VR)等の「没入感」に見られるように,近年の人間(認知行為主体)と工学システムの境界は曖昧となっており,相互作用の単位としてシステムを捉えることが必要となっている.空間知では,これをさらに空間的広がりと分散性・連携性を軸に,身体性の能動的選択と拡張を実現する知能化空間実現のためのシステム構成論の理解体系化を目指す.具体的には,以下の3つの異なったアプローチにより身体拡張化過程を理解していく. (1) 拡張身体性の認知的解明:人間型ロボットや人間観察による,主体認知モデルからの身体拡張性への構成論的アプローチ (2) 拡張身体性の事象的解明:知能化空間技術による,空間事象観察からの身体拡張性への構成論的アプローチ (3) 拡張身体性の情報的解明:空間感覚共有のための知識,オントロジー(情報)からの身体拡張性への構成論的アプローチ 本特集号は,上記の背景に基づき,計測技術や制御技術,システム的観点から,以下の10件の空間知に関する研究動向を紹介する記事から構成される.まず,巻頭言で本特集号の空間知全体の概説が行われ,解説記事2〜5で,拡張身体性の認知的解明に関する研究の紹介,解説記事6〜8で拡張身体性の事象的解明に関する研究の紹介,解説記事9〜10が拡張身体性の情報的解明に関する研究の紹介となっている.

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