パワーアシストと人間・ロボット協調技術/大阪大学 田窪朋仁君

建設,流通,家庭,オフィスなどにおいて,ロボットにより人の作業を手助けする方法の開発が注目されている.こうしたシステムの一つとして,パワーアシストの研究を進めてきた.本講演では,人間が加えた操作力をロボットの力センサで検知し,操作力をロボットが増幅することで重量物の運搬等を補助するシステムと人間同士が協調して物体を運搬するようなタイプの作業補助である協調型パワーアシストをロボットで実現するシステムの研究を紹介する.


空気圧式ゴム人工筋を用いたパワーアシストスーツの開発およびリハビリ支援スーツへの応用/アクティブリンク(株) 植田慶輔君

 人体に装着し、人間の動きに追従する様に動作し、筋力を補助する装置であるパワーアシストスーツは、福祉・介護、レスキュー、重労働作業、あるいは、筋力の補助だけでなく拘束することにより筋力トレーニングやフォーム矯正といったスポーツ分野など多方面の応用が期待されている。しかし、モータとギア、金属フレーム等で構成するハードなメカトロニクスを用いたパワーアシストスーツでは硬い・重い・力が強すぎるなど人間と動作環境を共にするのは危険である。本研究では、人間との親和性を持つ、運動の50%程度のアシストが可能なソフトメカトロニクスの考えに基づく空気圧式ゴム人工筋を用いた人に優しいパワーアシストスーツの開発を行ってきた。現在では、膝・腰・肩・肘・手首といった部位の補助を行えるスーツを開発した。また同時に、脳卒中片麻痺患者用のリハビリ支援スーツというものの開発を行っている。リハビリ支援スーツは健常な側の上肢を動作させると、その動作を検知し、麻痺した側の上肢を空気圧式のゴム人工筋により動作させるという訓練用のスーツである。この訓練は、片麻痺患者が麻痺した側の上肢を随意的に動かせるようにするのが目的である。従来は、理学療法士や作業療法士が付き添ってしていた訓練をこのリハビリ支援スーツで代替することができる。本稿では、パワーアシストスーツとリハビリ支援スーツの開発について述べる。


介護者用パワーアシストスーツの開発/神奈川工科大学 山本圭次郎君

介護は重労働であり腰を痛めるケースが多く機械による介護システムの実現が急務であるが、実現するには人の感性の問題をクリアする必要がある。ロボットなどのいわゆる「機械」に介護されるのは患者に対しての精神的な負担となるし、ロボットの安全性の問題が残り不安感が消えない。そこで、介護する人を助ける「介護者を力持ちにする」パワーアシストスーツの開発が必須となる。  パワーアシストスーツは次のような4つの基本理念の基に開発されている。

  1. 安全なシステム: 動きやすく安全に使用できるシステムを実現するために、マスターである使用者が、スレーブである機械を直接身に着ける、マスター・スレーブ一体システムを採用している。
  2. 患者さんとのスキンシップを妨げない: 機械を使用者と被介護者の間に設置せず、背面に集約している。
  3. 着用者の自然な身体動作を妨げない: エアバッグをアクチュエータとして利用している。空気の圧縮性により柔らかさを維持しながら強力なアシスト力で関節の動きを助ける。
  4. 違和感の無い適切なアシスト力の実現: 必要とする関節トルクを安全確実に知る為に、関節駆動筋肉の表皮に新開発の筋肉硬さセンサを配置して、各筋肉が発揮している筋力を検出している。これらと身体力学計算モデルによる各関節トルクの算出値を組み合わせてアシスト力を決定することにより、安全性を高めている。

パワーアシストスーツは肩、腕、腰、足ユニットからなり、二重関節機構により人間の動作になめらかに追従する。アシストする関節は肘・腰・膝関節である。小型エアポンプによりエアバッグに圧縮空気を送りアシスト力を発生する。スーツ自体で自重を支えることが出来るので、使用者に負担はかからない。アシスト力は、安全のため着用者が必要とする力の約半分に制御している。

実用化に向けて解決を要する課題は、伸縮比5以上、耐内圧2気圧以上の小型エアバッグの開発と出力圧2気圧、吐出流量毎分25リットルのエアポンプの開発である。


最新の脳機能計測技術と福祉工学応用/京都大学 水原啓暁君

ヒトを対象とした脳機能計測においては、従来、脳波や機能的MRIなどの非侵襲的脳機能計測手法が多く用いられている。しかしながら、機能的MRIは空間分解能には優れるものの、計測対象としている生体信号の限界により時間分解能に劣る。一方、脳波は時間分解能には優れているものの、頭皮上から計測するため空間分解能には限界がある。そのため、ヒトの高度な脳機能を解明するためには未だ不十分であり、高い時間分解能と空間分解能を有する計測技術が切望されている。近年、これらの問題を解決する手法として、脳波と機能的MRIの同時計測技術が確立されつつあり、高い時間・空間分解能で脳機能計測を実現可能な手法として注目されている。そこで本講演においては、これまで用いられてきた代表的な脳機能計測技術について概観するとともに、最新の脳機能計測技術の一つである脳波と機能的MRIの同時計測技術について解説する。また、近年、脳機能研究により得られた知見の工学応用の期待が高まってきており、脳からの信号により直接的に機器制御を実現するブレイン・コンピュータインタフェースに関する研究が、世界的に注目されている。我々の研究グループにおいても、脳波と機能的MRIの同時計測技術を応用することで、パワーアシストシステムを非侵襲かつ高精度に制御可能なブレイン・コンピュータインタフェースの開発を目指して研究を進めており、この取り組みについても紹介する予定である。