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 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.35 No.4 (1999年4月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


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[論  文]


[論  文]

■ 焦性磁気型光センサの構成と特性評価

岩手大・吉田豊彦,小原豊直,千葉茂樹,長田 洋,関 享士郎

 従来の光センサでは光導電効果,光起電効果,光電子放射効果,および焦電効果が用いられているが,焦性磁気形光センサPPSは温度依存性のある磁性薄膜の磁気特性の焦性効果を用いている.厚さ1 μmのPPSはターゲットとして室温付近にキュリー温度を有する感温性のフェライトを用いて作製される.光が照射されるとPPSはその光エネルギーを吸収し,その結果温度が上昇し,レラクタンスの変化が起る.このレラクタンスの変化は磁気抵抗素子で読み出される.したがって,PPSは光磁気変換器として動作している.PPSの熱容量は小さいのでわずかの温度変化に際しても大きなレラクタンスの変化と優れた応答特性を有している.

 PPSは可視光線および赤外線に応答するため,従来の電気的センサに代わる磁気センサとして活用できるものと考えられる.ここでは,PPSの作製,焦性磁気効果,および光信号読み出し法について検討した.


■ 膝十字靱帯と大腿筋との機能的連携作用―大腿筋力と前十字靱帯伸び特性に関する3次元モデル解析―

九州大・廣川俊二

 本研究では膝関節を取り巻く靱帯類,とくに前十字靱帯(ACL)に生ずる伸び特性と大腿筋収縮力との相互関係を定量的に求め,筋・靱帯間の協調連携経路の存在仮説を力学的側面から間接的に検証することを目的としている.すなわち,大腿・脛骨関節部と大腿・膝蓋関節部の双方を含めたヒト膝関節の総合的3次元力学モデルを作成し,シミュレーション解析により,以下の点を明らかにした.大腿四頭筋の収縮は,膝軽度屈曲では脛骨の前方移動,強位屈曲では後方移動をもたらす.ハムストリングス筋の収縮は,常に脛骨の後方移動をもたらす.ハムストリングス筋の共同収縮は,ACLの伸びを抑制し,その効果はハムストリングス筋の収縮力に比例する.膝屈曲角が小さい間,膝伸展モーメントを生ずるための大腿四頭筋は小さくてすむが,屈曲モーメントを生ずるためのハムストリングス筋力は大きくなければならない.以上により,膝屈曲角が小さい間,ハムストリングス筋の共同収縮は,大腿四頭筋による膝伸展作用を損なわず,しかもACL伸長を抑制する効果があることがわかり,ACLとハムストリングス筋間に協調連携経路が存在しうることが示唆された.


■ 差分VLBI技術を用いた高精度軌道決定

東日本国際大・浅井義彦,東京工科大・西村敏充

 わが国の深宇宙軌道決定の実運用精度は,地上観測局での角度精度にして1マイクロラディアン(10-6rad)程度とされており,探査機との距離30万kmでは3km,3億kmでは300km程度の精度となることが報告されている.しかしながら,火星探査をはじめとする将来の本格的な惑星探査においては,より高精度の軌道決定が要求されている.一方,電波天文学等の分野で広く普及しているVLBI観測技術(Very Long Baseline Interferometry)は,距離換算で数cm(100p秒)の精度を達成しており,すでに,VLBI観測データに含まれる系統誤差を除去するΔVLBI技術(Differential VLBI)を用いた静止衛星の軌道決定に関する実験が行われている.しかしながら,このΔVLBIデータが,深宇宙の軌道決定に有効であるか否かを確認するためには,シミュレーションによる感度解析が行われなければならない.われわれはすでに,従来のRARRデータ(Range And Range-Rate data)による軌道決定に,このΔVLBI観測技術を導入して,両データの共用による深宇宙軌道決定の高精度化を試行している.本稿では,これらの研究結果をまとめるとともに,直交基線をもつΔVLBIデータとRangeデータとの共用により,軌道決定精度がさらに向上することを指摘している.


■ 高速道路における頭部運動を考慮した運転者の視線計測

高度ポリテクセンター・藤森 充,東洋大・上迫宏計,川村幹也

 自動車人身事故の83%が認知不完全によるものであるとされていることから,自動車運転の安全を考えるうえで,運転者の視覚認知についての検討が必要とされている.そこで,人間の視覚認知に関与する視線の動き測定をアイマークカメラと角速度センサの組合せシステムにより実現した.アイマークカメラにより頭部に対する眼球の運動を,角速度センサにより車両に対する頭部の運動を計測し,合成することで視線方向のデータを得た.

 アイマークカメラと圧電振動ジャイロを用いた角速度センサを頭部に装着し,実際に高速道路上を走行したときの運転者の視線方向データ取得を試みた.あらかじめ,角速度センサおよび検出回路の感度を測定した.また,眼球運動と頭部運動の協調動作についてVORを利用して検証した.実車走行の条件として,定速直進と車線変更を設定した.条件ごとに視線の広がりについて検討し,車線変更の場合に視線範囲が広がることと,頭部運動の影響が顕著に表われることを示した.また,視線方向と視対象物との関連から,測定システムを評価した.この結果,ミラーなど車体の特定の部位をとらえた視線の認識が可能であることを示した.以上の検討から,自動車運転における視線範囲測定方法の提案を行った.


■ 既約分解表現とLMI最適化に基づいた複数制御対象に対する制御器の同時設計

三菱重工・宮元慎一,ケンブリッジ大・グレン ビニコム

 本論文では複数制御対象に対する制御器の同時設計法を示す.従来のロバスト制御系設計では代表的な制御対象をノミナル制御対象とし,そのノミナルプラントからの変動を考慮してロバスト安定性・ロバスト制御性能が保証されるような制御器を求める.これに対し本論文ではノミナル制御対象を1つに決めず,複数の制御対象に対し同時に数値的な最適法を用いて設計を行う.問題としてはH∞ループシェイピングで用いるロバスト安定余裕を最大にする問題を考える.まず単一の制御対象に対する低次元制御器の設計を示し,それを複数の制御対象に対する同時設計に拡張する.ロバスト安定余裕を最大化する問題では制御器を既約分解表現しNehari拡張問題を用いると1Block問題に変換することができ,LMI最適化を繰返し用いれば数値的に解を求めることができる.このとき,制御器の構造は事前に決めることができるので低次元の制御器を設計することができる.また,制御器を解く際,制御器のパラメータをLMI最適化を用いて決めるが考える制御対象が複数になってもやはり1つの大きなLMI最適化問題になるので同時設計が可能となる.


■ リアプノフ直接法による非線形システムのニューラル安定化制御器の設計

慶大・志水清孝,伊藤和幸

 本論文では一般的な非線形システムにおける安定化制御器を多層ニューラルネットで近似し,リアプノフ安定定理を満足するようにニューラルネットの結合重みの値を決定する手法を提案する.

 まず,ニューラルネットで近似実現する関数(状態フィードバック制御則)が満たすべき不等式をリアプノフ直接法に基づき導出する.

 そして実際にそのような不等式を満たす関数をニューラルネットで近似実現する手法を提案する.ニューラルネットの学習のためにはMin-Max問題という微分不可能最適化問題を解けばよいことを示し,微分不可能最適化アルゴリズムでもっとも有力なMifflinのアルゴリズムに基づく学習アルゴリズムを示す.そのとき必要となる一般勾配の計算に際して,Lagrange未定乗数法を応用することにより繁雑な勾配関数の計算を明快に行う方法もあわせて提案する.

 最後に簡単な数値例により提案したアプローチの有効性を示す.


■ ロバスト制御システムの位相構造について

東大・津村幸治,NTTデータ・北村雅文

 安定性に基づいてシステムの位相構造を解析することは,制御器設計において重要である.なぜなら,実システムの制御系設計においては,設計者がパフォーマンスと不確かさの大きさのトレードオフをはかりながら,系を設計するのが常であるが,その際,パフォーマンスや安定性に基づくシステム空間の位相構造がわかっていれば,系統だった設計が可能となるからである.一方,一般化されたロバスト安定性問題は,閉ループ系の,well-posednessに帰着することができる.またwell-posednessを,より非保守的に判定するための条件が,いくつか報告されている.

 以上を背景として本稿ではまず,不確かさの包含条件を用いた,well-posednessであるための必要十分条件を与える.そして本条件を用いて,与えられたプラントに対してwell-posedとなるすべての不確かさの集合を与える.この集合は,ある係数行列と単位球のLFT,およびその極限として求められる.さらにその結果から,well-posednessに基づくシステム空間の位相,つまり,その連結成分の個数について調べる.具体的には,不確かさが複素行列で表わされる場合,2×2次元の実行列で表わされる場合について議論する.


■ 定数スケールドH∞制御大域最適化問題の計算複雑度解析―ブロック対角ケース―

東工大・山田雄二,原 辰次

 本論文では,ノルム有界な構造的時変変動をもつシステムのロバスト安定化に対し重要な役割を果たす,定数スケールドH∞制御に対する大域最適化問題を考える.状態フィードバック可能など特殊な場合を除いて,この問題は凸最適化問題に帰着されないため,大域最適解を求めることは一般に困難である.そのため,これまでは,スケーリングのクラスを対角行列に限定した場合に対してのみ大域解を求めるアルゴリズムが提案されてきた.

 そのなかで,筆者らは,スケールドH∞ノルムの大域的最小値から許容誤差εの範囲にあることを保証する準最適レベル(ε最適解)を見つけるアルゴリズムを提案し,対角スケーリングのパラメータ数を固定した場合に,最悪ケースの計算回数(必要凸部分問題数)が解精度の逆数に対して多項式で与えられることを示した.本論文では,そこでの計算量解析の結果を,一般的なブロック対角の場合に拡張することを試みる.

 対角ケースの場合と異なり,正定行列を含む一般のブロック対角行列の場合は非対角要素の影響のため,定義域を直接分割してε最適解を達成するための一連の部分問題を構成することは困難である.ここでは,その解決法として,k-部分行列可解性判定アルゴズムと呼ぶ中間ステップを導入し,対角ケースの結果を一般的な場合へ拡張していく.さらに,k-部分行列可解性判定アルゴリズムを再帰的に適用することにより,必要計算回数(凸部分問題の数)が解精度の逆数の多項式で与えられる,ε-可解性判別アルゴリズムが得られることを示す.また,同様の考え方に基づき,ε最適化アルゴリズムが存在すること,その最悪必要計算回数がε-可解性判別アルゴリズムのそれと一致することを示す.


■ 入出力上に動特性をもつシステムに対する外乱推定に基づく適応ゲインVSS制御

神戸製鋼・西田吉晴,大寺信行,村上 晃,橋本裕志,北村 章

 VSS制御では,サンプリング周期や入出力上に存在する動特性などによる制御器切り替えの遅れによってチャタリングが発生する.しかしチャタリングの大きさはそれら遅れ要素だけではなく,制御ゲインによっても左右される.著者らはこの特性を利用し,チャタリングを抑制する適応ゲインVSS制御技術を開発した.モータを用いた実験結果から,従来のVSS制御ではロバスト性を維持するために過剰なゲイン設定を招いていた.適応ゲインVSS制御では瞬時に外乱を推定し,ゲインを過不足なく設定することが可能である.過剰なゲイン設定をなくすことによって大幅にチャタリングを抑制できる.しかし適応ゲインVSS制御は外乱の大きさに応じてゲインを変化させるため,負荷が加えられた状態ではチャタリングが大きくなる.一方,外乱推定オブザーバでは,瞬時に外乱を推定しフィードバックすることは安定性の観点から困難であった.今回,入出力上の動特性を考慮した適応ゲインVSS制御と外乱推定オブザーバとのハイブリッド制御技術を開発することによって,それぞれの長所を生かし,短所を補うことに成功した.ハイブリッド制御では,外乱変化に対して瞬時に反応する制御系を構築するとともに,負荷および無負荷状態にかかわらずチャタリングを抑制することができる.本手法は特に外乱が連続的に変化するシステムに対して有効である.外乱が連続的に変化する場合,制御ゲインKcをほぼ0に設定でき,チャタリングを完全に抑制することが可能である.このハイブリッド制御の有効性を実験において確認した.


■ 応用能力を付加した学習制御系によるマニピュレータの軌道制御

豊田工大・早川聡一郎,東芝・吉竹博政名大・鈴木達也,大熊 繁

 ロボットマニピュレータの高速高精度動作を実現する手法の1つとして学習制御法がある.学習制御法は何度も試行動作を行うことで,与えられた目標軌道に対して高精度な軌道を描くことを可能にするが,他の軌道を描くように指示された際には,そのときの学習情報を保持することなく,新たな軌道の学習を最初からやり直すという欠点が存在する.こうしたことから,学習制御法の欠点を補うために,ニューラルネットワークにより学習試行結果のデータを学習し,他の試行動作にその学習結果を応用できるシステムを学習制御系に付加することを提案する.またこのシステムに使用するニューラルネットワークでは,一般的に使用されている3層構造の方式のニューラルネットワークにシグモイド関数を用いた方式で学習を行わせると学習に問題が発生することを指摘し,本システムに適した追加学習能力を有するニューラルネットワークを使用する手法を提案する.実際に提案するシステムを用いて実験を行い,過去の学習結果を有効に利用することが可能となり,学習制御系の学習の収束速度の向上が達成されていることを実験結果より示し,提案したシステムの有効性を確認する.


■ 遺伝的アルゴリズムを用いたPID制御器の一設計

岡山県立大・山本 透,満倉靖恵,兼田雅弘

 プロセス系においては,今もなおPID制御法が主として用いられている.しかしながら,システムの特性変動や非線形特性の影響があるため,適切なPIDパラメータを設定することは困難な問題とされている.一方,生物の遺伝や進化のメカニズムを工学的に模擬した遺伝的アルゴリズム(GA)が注目され,これを用いて適切なPIDパラメータを算出する方法もいくつか報告されている.ところが,これらの方法によると,GAを用いて3つのパラメータを直接に探索するために,適切なPIDパラメータを得るまでには長時間を必要としている.

 そこで本論文では,一般化最小分散制御即とPID制御則との関連に着目し,一般化最小分散制御に含まれるいくつかの設計パラメータをGAを用いて探索し,これらの設計パラメータを仲立ちとしてPIDパラメータを算出する方法を提案している.設計パラメータは制御工学的な制約を有しているため,PIDパラメータを直接探索する従来法に比べ,GAによる探索範囲が効果的に縮小され,探索に要する計算時間を大幅に削減することができる.


■ ファジィ測度・ファジィ積分モデルを用いたヒューマン・インタフェースの設計

東明情報大・孫 永●,筑波大・鬼沢武久

 本論文ではまず,ファジィ測度とショケ積分を用いた人間の評価モデルにおいて以下の3つの概念について説明する.(1)構成要素のファジィ測度から結合要素のファジィ測度までの増加度,(2)増加度の平均値である平均増加度,(3)平均増加度と要素の重要度であるファジィ測度を考慮した必要度である.つきにヒューマン・インタフェースの設計に本評価モデルを適用するために,1つの静的な作業と2つの動的な作業を同時に行う複合作業実験を考える.この作業で提供されるインタフェースの要素としては,危険であるとの注意を促すための警告音の有無,画面上に識別しやすい色が提供されているかどうか,画面上に提供される作業領域の広さ,コンピュータ側から提供される作業に対する確認の反応の4つである.これらの要素が提供されているかどうかによって考えられる16種類のヒューマン・インタフェースを用いた作業実験後,被験者にアンケート調査を行う.アンケート結果のデータを用いて同定されたファジィ測度を評価モデルに適用する.抽出されたヒューマン・インタフェース要素とアンケート調査で被験者等が答えたヒューマン・インタフェース要素とを比較検討し,インタフェースの設計指針を得る.ここで得られたインタフェースの設計指針を基にして,別のヒューマン・インタフェースを設計して実験を行い,本手法の有効性を示す.


■ メッセージ交換を用いた分散型スケジューリングシステムの並行実行性能評価

豊橋技科大・北島禎二,奈良先端大・西谷紘一京大・長谷部伸治,橋本伊織

 各工程のスケジューリングを担当するサブシステムによって構成される,多工程プロセスの分散型スケジューリングシステムを開発した.それぞれのサブ・スケジューリングシステムは,自工程のスケジューリングと他工程から情報を取得する機能をもったスケジューラ,他工程に自工程のデータを渡すデータサーバ,および自工程にローカルな情報を保持するデータベースから構成される.各工程のスケジューラは,独自の評価にしたがって自工程のスケジュールを改良し,メッセージ交換によって上下流の工程から必要な情報を取得するといった一連の処理を並行に繰り返すことにより,設備全体として実行可能で準最適なスケジュールを導出する.開発したシステムの実行性能を評価するため,切換えコスト,各工程で最後に処理する作業の終了時刻,納期遅れペナルティの重み付き和の最小化を目的とした多工程プロセスのスケジューリング問題を,開発したシステムと,全装置のスケジュールを集中的に作成する従来の手法によって解いた.本システムでは設備全体での最適化を行っていないにも関わらず,従来の手法と同程度のスケジュールがより短い計算時間で得られることを数値実験によって確認した.


■ 漏洩音の音響特性と騒音下における検出方法

神戸大・小谷 学,平野裕幸,赤澤堅造

 石油精製プラントなどのように高圧で有毒あるいは引火性のガスが配管を流れている場合,配管に生じた微少な割れなどによるガス漏洩の検出は大きな課題となっている.しかしながら,現在ではまだ有効な早期検出手法は確立されていない.そこで,本論文ではガスの漏洩音を利用することを検討する.漏洩音の音響特性の把握とプラントなどでの高騒音環境下での漏洩音の検出可能性を検討した.その結果,漏洩音の特徴は10kHzをピークに低周波から高周波まで幅広く現れるという結果を得た.また,漏洩音を検出するために,階層型ネットワークを適用したところ,高い識別率が得られ,精度のよい漏洩音の検出が可能であろうという結果を得た.


■ 自律的にサブゴールを獲得する漸進進化による論理回路自動設計

名大・松崎元昭,川合隆光,安藤秀樹,島田俊夫

 遺伝的学習の問題規模を小さくして収束を速める手法として,漸進進化手法は有望である.この手法では,順次学習目標(サブゴール)を与えていき,最終的な解に到達させる.これにより広大な探索空間を小さい探索空間に分割し,進化を早めることができるという利点がある.しかしこれまで提案されている実現方法では,問題ごとにサブゴールを手動で与える必要があり,実用的でなかった.本論文では,サブゴールの獲得を自律的に行う漸進進化手法を提案する.提案する手法の最大の特長は,最終ゴールを目標とする大域的探索と,サブゴールを目標とする局所的探索を同時に行うことによりサブゴールの獲得を自律的に行う点である.大域的探索は,サブゴールを最終ゴールに近づけることに用いる.一方,局所的探索は,個体集団をサブゴールに導くことにより最終ゴールに近づけ,かつサブゴールをより速く最終ゴールに近づける.サブゴールをより速く最終ゴールに近づけるために,つぎのような評価関数を用いる.サブゴールの「近傍」を定義し,サブゴールの近傍に存在する個体の中で,サブゴールから遠い個体ほどより高い評価値を与える.これによりサブゴールより最終ゴールに近い個体を次世代に残すことができる.さらに,サブゴールの近傍は探索の達成の度合から決定する.具体的には,サブゴールが最終ゴールに近づくにつれてサブゴールの近傍を狭める.これにより探索の効率を高めることができる.本手法を人工蟻の制御回路の生成に適用し,従来の手法より効率よく進化が達成されていることを確認した.


■ 生物的な認識機構をもつ文字認識ニューラルネット

東北大・本間経康,トヨタ・鎌内俊行東北大・阿部健一,東北学院大・竹田 宏

 本稿では,生物の認識ダイナミクスの特徴を取り入れた,新たな文字認識ニューラルネットを提案する.従来のニューラルネットを用いた文字認識では,ダイナミクスをもたない階層型ネットワーク(FNN)の非線形写像による分類,および対称結合をもつ相互結合型ネットワーク(RNN)の単純(秩序的)なダイナミクスによる連想記憶型などが提案されている.これらは,いずれも静的な識別機構による分類法であるため,優れた汎化能力をもつが,その反面,未知入力に対しても既知カテゴリーのいずれかに分類してしまい,生物のように,未知のものを「知らない」と判断することが原理的にできない.

 本論文では,生物の認識機構には,カオス的な複雑なダイナミクスが深く関係しているとの実験結果を参考に,複雑なダイナミクスを利用した動的な認識機構をもつニューラルネットを提案する.提案ネットワークは,RNNとFNNの混成構造をもち,RNNのダイナミクスをカオスの辺縁(edge of chaos)に設定することで,汎化能力をもちつつ,未知入力を「未知である」と判断できることをシミュレーション結果より示す.また,入力が既知か未知かを自動的に判断できることにより,未知入力を自己学習的に記憶できることを示す.


[ショート・ペーパー]

■ 湖沼用ブイ式気象ステーションの製作

大阪電通大・奥村康昭,滋賀大・遠藤修一

 湖沼で使用する目的で,ブイを用いた気象ステーションを製作した.計測データは風向,風速,気温,水温,ブイ本体の方位である.データの取得間隔は30分ごとで,取得したデータはMCA無線システムを用いて研究室まで電送している.MCA無線システムを用いることで,誰でもが簡単にテレメータシステムを構築できる.


■ 指定されたゲイン余裕と位相余裕を確保するコントローラの設計

名大・穂高一条,鈴木正之,坂本 登

 ゲイン余裕と位相余裕は,制御系設計に要求される重要な仕様となっている.たとえば,航空機の自動操縦系統の設計においては,JIS規格により規定のゲイン余裕と位相余裕を保証することが義務づけられている.そこで本研究ではフィードバックシステムが与えられたゲイン余裕と位相余裕を確保できるようなコントローラの設計を考える.まずこのような要求を満たすように,開ループ伝達関数のナイキストプロットにある拘束条件を課することを提案する.この条件は,開ループ伝達関数のナイキスト線図がゲイン余裕と位相余裕で決まるある円の外側にあるというもので,LQ最適制御における円条件をその中心と半径を変えるという意味で拡張したものになっている.そして,この拡張された円条件(以下,拡張円条件とよぶ)を開ループ伝達関数に課することにより,システムがゲイン余裕と位相余裕より一般的な不確かさに対するロバスト安定性を保持することを示す.つぎに拡張円条件を満たすコントローラの設計問題はあるH無限大制御問題と等価であることを示し,H無限大制御理論を用いて,コントローラの存在条件と1つのコントローラを与える.


■ Lur'e問題の観点からみたスライディングモード制御系に関する一考察

東工大・岡林亮爾,古田勝久

 従来のスライディングモード制御(SMC)理論では不連続非線形制御則を用いることを前提としており,その際の閉ループ系はLipschitz条件を満たさず,既存の微分方程式論では解の存在・一意性が保証されない.一方,SMCを実装する際にはチャタリング防止のための“修正制御則”として連続非線形制御則を用いる場合がほとんどである.

 本論文では,最初から連続制御則を用いることを前提とした場合のSMC系をLur'e系に帰着させることにより,Lipschitz条件に抵触することなく閉ループ系に対する大域的漸近安定性の証明を与える.またこのLur'e系にループ変換を施すことにより,SMC理論でよく知られた“入力端外乱に対するロバスト性”に対して新たな観点からの説明を与える.


■ Bスプラインを用いた最適化問題の最適性について

福岡大・林 長軍,尾崎弘明,下川哲司

 筆者らは,ロボットマニピュレータの軌道計画の問題について,Bスプラインとコンプレックス法を用いてきわめて簡明な方法を提案した.その簡便性と有効性はいくつかの例によって明らかにされている.ところが,それらの例では,問題の複雑さのために,提案された手法によって得られる解がどの程度最適なものであるかを確認することは困難である.本論文では,その最適化の手法を一般の最適化問題に適用できる形に整理し,厳密解が得られる比較的簡単な問題に適用して,この方法によって得られる近似解の最適性を数値的に明らかにする.また,本アルゴリズムは以下の特長をもっている.(1)評価の勾配を求める必要がないので,アルゴリズムはきわめて簡明であり,適用しやすい.(2)最適化問題の任意の評価関数や制限条件に対して適用できる.(3)求めた近似解はBスプラインの制御点で表わされているので,近似解の記憶に要するメモリは少なくてよい.(4)最適解は,Bスプラインの次数に応じて微分可能な連続曲線で表現されている.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会