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 論文集抄録

論文集抄録

〈Vol.35 No.7 (1999年7月)〉


一覧

[論  文]


[論  文]

■ 三次元レーダのデータ融合におけるレーダバイアス誤差推定

三菱電機・小菅義夫,岡田隆光

 地上の異なる2点に設置された3次元レーダのバイアス誤差(観測時刻に無関係な一定値の誤差)推定方法について検討している.2次元レーダのバイアス誤差推定を行う従来のバッチ処理による線型最小自乗法の検討結果では,推定に100機以上の航空機を必要としている.また,推定値が算出可能となるための条件が明確ではない.さらに,推定精度はレーダおよび航空機の幾何学的位置関係の影響を受けにくいと結論している.

 本論文では,2個のレーダで同時に複数の航空機を観測して得られる各航空機の観測位置の差を利用して,逐次処理による線型最小自乗法でバイアス誤差を推定するアルゴリズムを提案した.また,推定値が算出可能となる条件,推定精度がレーダおよび航空機の幾何学的位置関係の影響を強く受けることを示した.さらに,推定精度の評価指標として,観測行列の最小特異値を提案した.シミュレーションにより評価した結果,提案方法は近距離の2機の航空機で3次元レーダのバイアス誤差が精度良く推定可能なこと,ならびに提案した評価指標を使用して良好な推定精度が得られるレーダおよび航空機の幾何学的位置関係が選択できることがわかった.


■ 金属の酸化時の偏光特性と放射率補正放射測温への応用

東洋大・井内 徹,星野智宏,古川 徹,田添 晃

 放射測温法において,放射率変化は測温精度に関わる最大の問題点として多くの研究がなされている.

 金属を測定対象とした場合,その放射率は金属表面に酸化膜が生成する過程において大きく変化することがよく知られている.この変化は,主として下地の金属面と酸化膜面の間での放射の干渉現象によるものと予想されるが,この放射率の挙動に関する研究は十分になされていない.

 本論文は,偏光特性に焦点をあてて,金属の酸化時の放射率挙動を理論と実験の両面から把握し,その主たるメカニズムを解析し,その結果放射の干渉現象による放射率変動を克服する新しい放射測温法を提案したものである.

 著者らは導電体(金属)と誘電体(酸化膜)からなる層を境界値問題としてMaxwell方程式を解いて,p-偏光放射率とs-偏光放射率の特性を導いた.両者は,特に面法線から角度の大きいところで著しく異なる挙動をすることが示された.この挙動の特徴を利用すると,干渉現象が存在してもこれを回避する放射測温法を構築可能であることを示した.

 これを基にして,実用金属(冷延鋼板)の偏光放射率挙動を実験的に調べたところ,放射率は酸化の初期においておおむね理論と同様な挙動を示した.理論に基づく新しい分光放射測温法は実用的には干渉現象を完全に回避することはできないものの,干渉現象の影響を減少ないし遅らせることのできるいくつかの手法を導いた.すなわち,放射輝度検出波長と放射率補正波長を組み合わせることにより,放射測温の最適化を果たすことができる.また,全波長型放射計測では,干渉効果の影響をほとんど受けないことが実験的に示された.本手法に基づくいくつかの組み合わせによる実験結果は,放射率が0.15から0.9まで変化しても,約1%程度の相対誤差で測温可能であることを示した.

 本手法は,ステンレス鋼板のように酸化膜がタイトで,放射率の干渉現象が顕著である試料でより効果を発揮できる.また,Si半導体ウエハのように光学的に滑らかな表面をもつ対象は本手法を最も理論に近い形で適用できると考えられる.

 本手法をより一般的な放射測温法に展開するためにのこされている問題点は,金属表面の初期状態,すなわち表面粗さが大幅に変化する場合や,酸化膜の光に対する吸収・散乱を考慮した場合の偏光放射率の挙動を調べることであり,これを基にした新しい考えを導入することである.


■ 渦笛の呼気流量計としての応用

法政大・佐藤浩志,大原昌幸,渡辺嘉二郎,立川病院・佐藤秀昭

 渦笛の呼気流量計利用への可能性について調査する.渦笛は3要素の単純な構造であり,流量計として十分な特性を有している.渦笛からの発生音は流量と線形関係にあり,構造に依存する.渦笛に流れる体積流量は,その発生音から換算することができる特徴をもつ.

 したがって,渦笛を利用した呼気流速計はつぎの興味深い特徴を有する.(1)構造が単純,(2)キャリブレーションが不必要,(3)精度良く流量測定が可能である.さらに,発生音から,定性的な流れの状態を,人間の聴覚で判断できる.

 そこで,われわれは呼気流量計としての適切な渦笛の大きさと特徴を実験的に調査した.その結果,渦笛は呼気流速計としての十分な特性を示した.


■ 一般化最小分散制御と極配置制御におけるオフセット除去方法

帝京大・芳谷直治

 一般化最小分散制御やその発展形としての極配置制御において,バイアス性未知外乱によるオフセット(定常位置偏差)の除去方法は,外乱補償方式と積分方式の2つに大別される.外乱補償方式では外乱の値を推定し,推定値を用いて外乱を相殺しオフセットを除去する.一方積分方式では,制御ループ内に積分要素を付加し,積分動作によりオフセットを除去する.従来の研究のほとんどは積分方式を推奨しており,この方式がオフセット除去のほぼ標準的方式となっている.

 本論文では外乱オブザーバを用いて,外乱補償方式の新しい構成法を提案し,積分方式との比較・検討,数値例での検証を行った.その結果,提案した構成法を用いた外乱補償方式は,種々の外乱やモデル誤差によるオフセットをすべて除去することが証明された.また提案した方式は従来推奨の積分方式よりも,一般化最小分散制御においては一般に,出力の応答特性やモデル誤差に対するロバスト性に優れており,一方極配置制御においては,雑音の影響が小さい傾向にあることが示された.


■ 不確かさをもつプロセス系に対する単純適応制御系設計

熊本大・Mingcong Deng,岩井善太,水本郁朗

 単純適応制御(simple adaptive control: SAC)法の特長は,従来のMRAC等に比べ,適応制御機構内に含まれる推定すべき制御パラメータの個数が比較的少ないことにある.このため,現在,比較的容易に実現可能な適応制御方式の1つと考えられている.ただこの手法の問題点は,対象プラントがASPR性をもっていなければならないという点である.実際,多くのプラントはこの条件を満足しておらず,どのようにしてASPR性を確保するかということがSAC系設計の大きな課題の1つとなっている.

 プラントがASPRでない場合,プラントに並列フィードフォワード補償器(parallel feedforward compensator: PFC)を施すことにより,プラントにPFCを併合した拡張系にASPR性をもたせ,その拡張系に対し,SAC系を設計する手法が一般的によく知られている.本報告は,このようなSAC系構成のためのPFC設計法に関してプロセス系を中心に考察を行うものである.

 プロセス系に対するPFC設計法では,むだ時間近似およびノミナル値によるノミナルモデルと実プロセスとの不確かさを考慮に入れたロバスト設計法の確立が要求される.PFCの不確かなプラントに対するロバスト設計法の基本概念はすでにいくつか提案されており,公称プラント(既知)は最小位相であり,不確かさを評価する有理関数が既知であればPFCの設計が可能である.しかし,プロセス系の場合,むだ時間を高次有理関数で近似したノミナルモデルはほとんどが非最小位相であり,さらに不確かさを評価する有理関数を求めることも簡単ではない.以上の点を考慮し,本報告では,むだ時間要素を含むプロセス系に対するSAC系設計にとって基本的なASPR性の確保に関し,以下の2点について提案と考察を行う.

 1) 実プロセスが構造的不確かさを有するむだ時間モデルでモデル化される場合に対するパデ近似を用いた再モデル化手法およびそのときに現れる不確かさの評価法の提案.

 2) 1)で提案されたプロセスモデルに対するPFC構成法およびそれを用いたロバスト性を考慮したPFCパラメータ選定法の考察.

 さらに,上述の設計法をむだ時間を含む2次おくれ系に対するSAC系構成に適用し,具体的な設計手順の検討を行った結果についても報告する.


■ 出力可到達集合解析に基づいたアンチワインドアップコントローラの解析

阪大・渡辺 亮,早大・内田健康,金沢大・藤田政之

 実際の制御系では「アクチュエーターに飽和特性が存在する」「制御対象を保護する」等の理由から,その制御入力は何らかの形で制限されている.このような制御系では,多くの場合にステップ応答等が大きくオーバーシュートするワインドアップと呼ばれる現象が発生することが知られている.ワインドアップは実際の制御系においてその制御性能を大きく低下させる要因であるにもかかわらず,これまでに与えられている記述は,安定性からの解釈や特定のコントローラと特定の飽和要素に対する定性的な説明がほとんどで,何をもってワインドアップと呼ぶかという制御理論的な定式化はなされていない.本稿では,制御入力に対する制限が制御系に与える影響が指令値や内部信号(制御入力etc.)のピーク値に深く依存していることを鑑み,ピーク値が制限された指令値に対し制御系の出力が到達可能な領域,出力可到達集合に基づいたワインドアップの特徴づけについて議論する.

 一方,ワインドアップの発生は実際の制御における古くからの問題であったことから,その抑制を目的とした手法が現在までにいくつか提案されている.その1つに,制限が存在しないものとして設計されたコントローラにワインドアップの抑制を目的とするフィードバックループを付け加える,アンチワインドアップ手法と呼ばれる手法がある.本稿では,現在までに提案されているアンチワインドアップ手法に対し,ゲインスケジューリングの観点からそれらを包含する新しい枠組を提案する.また,アンチワインドアップ手法におけるコントローラであるアンチワインドアップコントローラの性能を,ワインドアップと同様に出力可到達集合に基づいて特徴づけることを試みる.


■ Decentralized Adaptive Control with Improved Transient Performance

Kyoto Univ.・Takanori FUKAO, IBM・Hisashi KASHIMA,Kyoto Univ.・Norihiko ADACHI

 A method of designing a totally decentralized adaptive controller based on the robust adaptive scheme using backstepping method and switching σ-modification method is presented. The transient performance of the constructed decentralized adaptive control system is improved. In the zero-state performance, L∞ bounds of the tracking errors can be rendered arbitrarily small by design parameters.


■ Interative Feedback Tuningによる準最適補償器の構成

京大・浜本研一,杉江俊治

 Iterative Feedback Tuning (IFT)とは入出力データに基づく制御系設計手法の1つであり,対象システムを安定化する補償器をもとに,与えられた評価関数に対して最適な補償器を実験の反復により求める手法である.IFTではこれまでに非線形特性をもつ系に対する考察や種々の実験による有効性の検証が行われている.

 従来の研究では,評価指標として2次評価指標を用いているが,これまでに状態フィードバックゲインなどの多入出力の補償器に関する研究が少ないため, LQ最適制御等に用いられてきた数値解法との比較など最適化法の検討が十分でない.また,反復によるパラメータ更新の際に参照入力端の信号を変化させているため,補償器の逆システムを用いる必要があるので補償器が不安定零点をもつ場合には特別な工夫が必要となる.

 本論文では,上記の問題を解決する新たなIFT の方法について検討している.まず,線形分数変換(LFT)で表現される一般化対象システムに対するIFTを示し,このような問題設定を行うことの利点を考察する.つぎにIFT手法とRiccati 方程式の反復数値解法との関係を考察し, IFT手法による最適化の性質について明らかにしパラメータ更新法の改良を検討する.また対象システムがある条件を満たすとき,最適化問題が凸となることを示しそのときのパラメータの選択法について考える.最後に数値例を用いて提案手法の有効性を検証する.


■ Existence Conditions of Stabilizing and Anti-Stabilizing Solutions of Discrete-Time Algebraic Matrix Riccati Equations

Tokyo Denki Univ.・Hiroyuki KANO,Tokyo Engineering Univ.・Toshimitsu NISHIMURA

 We study discrete algebraic matrix Riccati equations arising in robust control and filtering problems based on its associated symplectic matrix and Popov function. Necessary and sufficient conditions are established for the existence of a stabilizing solution, which in contrast to standard equations arising in LQG problems is not necessarily nonnegative-definite.

 Then the existence conditions are shown for nonnegative-definite, and positive-definite stabilizing solutions both as necessary and sufficient conditions.

 Next, parallel results are established for the existence of the so-called anti-stabilizing solution, and a relation between stabilizing and anti-stabilizing solutions of original and dual Riccati equations is shown.

 It is also proved that stabilizing and anti-stabilizing solutions if they exist are the minimal and maximal solutions respectively.


■ Modified Balanced Truncation of State Delay Systems

Pusan National Univ.・Young Soo SUH,Univ. of Tokyo・Seiichi SHIN

 This paper is concerned with balanced truncation of a state delay system into a state delay system of smaller size in the dimension of state. A modified balanced realization of a state delay system is proposed based on the upper bounds of controllability and observability gramians. The upper bounds can be efficiently computed using linear matrix inequalities. The properties of balanced truncation is investigated: the stability of the truncated system and the truncation error bound are given. A numerical example is provided to illustrate the proposed model reduction.


■ Semi-strict Feedback構造を有する非線形系のロバスト制御とオブザーバの導入

上智大・伊藤和寿,申 鉄龍,田村捷利

 本論文では相対次数が1以上の不確かさを有する非線形システムに対し,大域的に状態の原点への収束性を保証するロバスト安定化補償器を構成する.そのアイデアは,漸近的収束特性を有する正定値関数Vとそれを実現する入力をサブシステムに対して繰り返し設計することである.不確かさのクラスが出力だけによらない,より一般的な場合を扱う.ただし,その不確かさはSemi-strict Feedback構造をもつと仮定する.

 さらに本論文のもう1つの目的として,設計されたロバスト安定化補償器に対して線形オブザーバを導入した場合の局所的安定性についても検討する.不確かさをもたない非線形システムは適当な仮定のもとで,動的補償器と線形オブザーバにより安定化されることがすでに示されているが,不確かさを有する非線形システムに対しても考慮する必要がある.


■ 凸多面体の正不変条件の簡単なLP定式化と線形制約レギュレータ問題の高速解法

島根大・吉田和信,広島工大・川辺尚志,島根大・西村行雄

 動的システムの状態空間内の集合は,もしその集合から出発する状態軌道が集合内を運動するならば,正不変であるといわれる.正不変集合は入力・状態制限がある制御系の解析・設計においてしばしば利用される.

 本論文は,凸多面体の正不変条件の新しい判定法とその線形制約レギュレータ問題(LCRP)への応用について述べたものである.

 線形連続時間系の初期状態集合として,つぎの凸多面体集合を考える.

  S={x: giTx●1,i=1〜q},x,gi●Rn

gi,i=1〜qは与えられるベクトルである.

 双対空間におけるSの正不変条件を求め,この表現に基づいて正不変条件を標準形LP形式で表わす.この条件式を簡略化するアルゴリズムを示し,従来の代数的正不変条件の表現に冗長性があることを指摘する.また,Sの双対集合を利用すれば,線形の状態制約がSの端点を求めることなく標準形LP形式で表現できることを述べる.つぎに,これらの結果をSの正不変条件と入力制限下で制御系の収束度を最大化するフィードバックゲインを求めよというLCRPへ応用し,この問題が比較的小規模のLPとして定式化可能であることを示す.LP制約行列の具体的表現も与えられる.VassilakiとBitsorisの方法では,入力制限をLPに組み込むためにSの端点を計算する必要があり,また,正不変条件の冗長性でLPの規模が大きくなるが,本方法では,これらの問題点が解決されている.

 2次のLCRPに対する数値例によって,本方法の高速計算性が示される.


■ 大型宇宙構造物の分散DVDFB制御―耐故障性と最適性―

神戸高専・小林洋二,阪大・池田雅夫,神戸大・藤崎泰正,松田雅義,電通大・木田 隆

 大型宇宙構造物は,低周波の振動モードを多数含み,その特性パラメータについても不確かさが避けられないシステムである.また,宇宙空間で動作するためコントローラやアクチュエータが故障した場合には,その修復に多大な費用と時間がかかる.これらのことは,大型宇宙構造物の位置や姿勢の制御システムを構成するうえで大きな問題となる.

 そのような問題を解決するために,本論文では,サブシステムがバネとダンパで柔結合された大型宇宙構造物を対象として,センサ/アクチュエータ・コロケーションのもとで,分散DVDFB制御則を適用している.そして,まず,この制御方法によれば宇宙構造物が有する力学系の定性的な性質が閉ループ系においても保持され,構造物を構成する質量,バネ,ダンパのパラメータ変動に対して,ロバスト安定化できることを述べている.つぎに,サブシステムのコントローラが故障した場合でも,他のサブシステムとの結合の効果によって全体システムの安定性が保たれるために,サブシステム間結合が満たすべき条件を明らかにしている.最後に,分散DVDFB制御によって得られる閉ループ全体システムが,制御ゲインを適当に選ぶことにより最適レギュレータとなることを示している.


■ 2自由度制御理論を用いた押出し機の速度制御

住友軽金属・岡村義英,高橋昌也,星野郁弥

 押出し製品の速度を目標値に制御することは,品質確保や生産能率向上をはかるうえで重要な技術の1つであり,速度が目標値に到達する時間をいかに短くするかということが課題となる.また,押出し製品にはさまざまな形状のものがある,いわゆる多品種少量生産となり,速度制御特性も品種に応じて変化するため,押出し条件変化に合理的に対処できることが望まれる.

 そこで,種々変化する押出し条件に合理的に対処するとともに,目標速度到達時間の短縮による,押出し能率の向上をはかることを目的とした,新しい押出し速度制御を開発した.本論文では,まず速度制御のための数式モデルを新たに作成し,モデル精度について検討した.また,制御系設計においては,押出し条件の変化の程度を考慮した設計とした.具体的には,モデルベースによる2自由度制御系を基本構成とし,押出し条件変化があまり大きくない押出し機については,PI制御により設計するとともに,制御ゲインを制御対象のモデルから解析的に定めることにより,制御対象のパラメータ変化に対処できるよう考慮した.また押出し条件変化が比較的大きい押出し機については,H∞制御により設計して,モデル誤差に積極的に対処した.開発した制御の適用効果を実機にて確認するとともに,2自由度制御およびH∞制御の有効性を示した.


■ 船舶の航路保持制御系設計法と実船試験結果

三菱重工・赤坂則之,山本真生

 ケーブル船,海洋調査船などの特殊な目的を有する作業船に要求される精度の高い航路保持および風,潮流に対して船体位置を決められた場所に保持する定点保持を可能とする自動操船システムを実現するために,

 (1)操船の操作量として通常の舵および推進用プロペラの他に,低船速域あるいは停船時に有効な操作量となるバウスラスタおよびスタンスラスタを装備した船舶の運動特性を表現できる数式モデルを明らかにし,

 (2)数式モデルによる運動性能シミュレーション結果と模型船による運動性能水槽試験結果とを比較することにより,数式モデルの妥当性を検証した.

 (3)上記数式モデルを使い,最適レギュレータ理論を適用して航路保持制御系を設計し,実船試験により航路保持制御系の実用性を明らかにすることにより,

 (4)本報で述べた航路保持制御系の設計法が有効であることを明らかにした.


■ システム安全制御の状況適応的自動化と人間の信頼

筑波大・伊藤 誠,稲垣敏之,Univ. of Surrey・Neville MORAY

 監視制御系における人間−機械間のタスク配分の方法を与えるものに,状況適応自動化機構(SAA)がある.SAAでは,自動化レベルが動的に変更され,緊急時には機械が決定権をもつ.システム安全の確保にはSAAが必要であることが数理的に証明されているものの,考慮すべき要因すべてを数理モデルが反映しているとは限らず,状況適応的な自動化の実現可能性には不明な点もある.たとえば,機械の権限を人間は認めないかもしれない.本論文では,SAAが人間に受け入れられるか,また許容されるために何が必要か認知工学的実験を通じて解明する.システムへの人間の信頼に着目して得た解析結果は,以下のとおりである.(1)自動化システムが誤る場合のみならず,人間−システム間での意見の不一致が人間の信頼感の低下をもたらす,(2)高い信頼性をもちながらも完璧でないシステムに対し,人間の信頼感は安定せず,機械が人間へ通知せずに権限をもつとその信頼は失われる傾向がある.なお,正しく稼動するシステムに対しても,以上のような人間の信頼感の低下は起こる.このとき人間は,プロセスの状況や自動化の意図を正しく把握できていないと考えられる.したがって,システムが人間から信頼を得て許容されるには,人間の状況認識の確保が不可欠である.


■ すみわけ型ハイブリッド遺伝アルゴリズムによる悪構造な多目的混合整数計画問題の解法

豊橋技科大・清水良明

 本研究は,評価関数や制約条件について数式表現が困難な要因を含む一種の悪構造なモデルのもとでの多目的混合整数計画問題(Multi-Objective Mixed-Integer Programs; MOMIP)の解法を開発することを目的とした.このためこれまで提案してきた階層的構成において,ニューラルネットワークによる価値関数のモデル化を援用した修正機能付きハイブリッド遺伝アルゴリズムHybGA/MORの拡張を試みた.その際,最適化問題において与えられる数理モデルは多くの場合,現実のある近似にすぎないため,厳密な唯一の解を求めるより,複数の候補解の中から最終解を選択できるような現実的な解法の開発を目指した.このため定性的要因は定量的要因から切り離し,それぞれができるだけ独立して取り扱えるように留意し,定性的評価を含む総合評価は定量的評価の下で十分絞り込まれた適当個数の候補解に対して行うといった現実のシステム分析の手順を採用した.具体的には最終選考に残す候補解の導出にはHybGA/MORにすみわけ法を適用することで対処した.一方,定性的制約条件は,ペナルティ関数としての取り扱いが提案する解決手順の階層的構造の中で好都合に扱えることを示した.

 最終的に,有害廃棄物処分の立地計画問題を格好の応用例として取り上げた数値実験結果から,提案する解法が定性的制約条件の取り扱いに便利であり,解パターンの異なる候補解を効果的に導出できることを検証し,現実の問題解決に有用であることを示した.


■ 走行中における移動物体の検出に関する一手法

東京工科大・天野直紀,橋本洋志,東口 實

 移動中の走行車に搭載されるカメラより得られる画像から,歩行者や他の走行車などの移動物体を検出することは,回避などの対応を行うために重要な機能である.視点が静止している監視カメラのようなシステムより得られる画像上では,自己運動の成分がないため,相対運動は移動物体の移動のみからなり,移動物体の検出は差分処理などの比較的容易な計算により可能である.

 このため,本論文では平坦な通路を移動する走行車について,その運動モデルから,特性の等しい2台のカメラを用いる.ここで,1台のカメラは走行車に固定とし,もう1台のカメラは走行車上で3自由度のテーブル上に搭載する.このシステムを用い,走行車の移動に伴い,ある時刻に固定のカメラのあった位置に,もう1台のカメラを移動させる.このとき,それぞれのカメラより得られる画像は同一の視点から得られる画像となる.また,回避などの目的に供するため,本検出はできるだけ高速に行われなければならない.このため,画像の垂直射影関数の相関関数を用いた検出方法を用いる.垂直射影関数を用いることにより,計算負荷を軽減することができ,同時に画像の付加ノイズに対するロバスト性を向上させることができる.


[ショートペーパー]

■ インタラクタを利用した不変零点の計算法

大工大・加瀬 渡,徳山高専・寺西 信

 最近,線形多変数系の不変零点を固有値問題に帰着して求める方法がTokarzewskiによって報告されている.この方法は,システムが厳密にプロパーな場合でも実行でき,伝達関数行列の直達項がフルランクであるよく知られた場合の拡張として捉えることができる.残念ながら,この方法では,ある種のシステムのすべての不変零点が計算できない.すなわち,インタラクタが対角行列となる場合にのみ,すべての不変零点が計算できる.このことから,一般的な構造を有するインタラクタを利用すれば,すべての不変零点を求めることができると思われる.本稿では,このような観点からシステムの不変零点を計算する方法を与える.インタラクタがシステムの無限遠零点の構造を与えることは知られているが,これを利用して有限零点を求めることもできるという点で本稿の結果は興味深いと思われる.

 
copyright © 2003 (社)計測自動制御学会