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 論文集抄録

論文集抄録

〈Vol.36 No.6 (2000年6月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


■ 高微分直線性実現のためのシングルチャネル逐次比較ADC

広島学院大・山田 光

 逐次比較方式ADCはその特性の上でバランスの良い方式であるところから,汎用ADCとして広い分野に使用されている.しかし,微分直線性に関してのみ,他のいかなる方式よりも劣っている.ちなみに微分直線性がもっとも優れている方式はWilkinson方式(積分方式,パルス係数方式)である.一般に,ADCの微分直線性はアナログ信号の振幅確率密度関数測定に直接かつ大きく影響する特性である.そのため,放射線パルス波高分析には,変換速度をがまんしてWilkinson方式だけが使われているのが現実である.逐次比較方式ADCを高微分直線性を有するごとくに働かせる研究にイタリアのC. Cottini. E. Gatti and V. Sveltoらによる“Sliding Scale Method”がある.これは信号のベースにゆらぎを加え,A/D変換を実施したあと,加えたゆらぎ分を差し引く方法で,チャンネ幅の不均一性を平均化する手法である.

 本研究では,逐次比較方式ADCにおいて,逐次比較行程の最後にもう一段落,常に一定電圧幅のチャンネルを準備することにより高微分直線性効果を得ている.最後に本提案方式の有効性を確かめる実験とその結果を報告している.


■ 多点検出による近方場定常不規則音源の3次元位置推定法とその実験的評価

筑波大・平田克己,佐々木公男

 ロボットの有用な環境認識システムの構築へ向けて,多点検出による定常不規則音源の一般化3次元位置推定法を提案した.本手法は,単一不規則音源からの信号を,複数個の検出点で同時に受信し,それらの自己および相互パワスペクトルから,波動の伝搬距離差と振幅減衰の情報を抽出し,検出器の幾何学配置を元に,音源の3次元位置を推定するものである.

 著者らは,先に2点での検出信号から,音源までの2距離が推定できることを明らかにし,検出器の付加的回転を伴う両耳聴取法,ならびに3点検出による音源の3次元位置推定法を提案したが,検出器が平面配置となるため,それと直交方向の位置分解能に難があった.

 そこで本論文では,当平面外に1検出点を追加し,4点検出による3次元位置推定法を提案すると共に,その原理の拡張,ならびに実際的状況下での3点および4点検出両者に関する実験結果を示し,本手法が加法ノイズの影響を極力低減した定常不規則音源の3次元位置推定法であること,また,空間的に独立な4点検出により,音源位置によらず良好な位置推定ができることなど,提案手法の有効性と特長を明らかにしている.


■ ロボットハンドのための指紋を備えた高周波微振動検出式滑り覚センサ

豊田工大・山田陽滋,森田裕之,梅谷陽二

 本論文では,ロボットフィンガの柔軟被覆表面の凹凸と把持物体との間で発生する高周波滑り振動に着目し,物体の滑り状態だけを検出することができる滑り覚センサを新たに提案した.まず,柔軟被覆の上にPVDFフィルムを縦置きにして,薄いゴム膜によって覆う凹凸状の指紋を滑り覚センサ表面に構成する提案を行い,実際に作成したセンサの構造とセンサ回路を共に示した.つぎに,提案する滑り覚センサによってその表面を物体が滑る際に生じる高周波振動が検出できることを示し,これが従来のstick-slip振動ではなく,指紋の薄い凸部の自由振動によるものであることをウェーブレット解析により示した.同時に,stick-slip振動が表面状態に依存するのに対し,高周波振動は表面状態に依存しないことも示した.さらに,従来の滑り覚センサでは,評価されなかった重要な視点として,滑り状態を含むセンサ表面と物体間のさまざまな接触状態に対するセンサ出力を評価し,接触の瞬間,開放の瞬間または転がり状態と滑り状態とを明確に識別できることを確認した.加えて,力覚センサには,駆動モータによる振動ノイズが重畳することから,本センサの対ノイズ性に優れる特徴も明らかになった.そして最後に,柔軟な被覆をもつロボットハンド表面にセンサを実際に装着し,その信号の高周波性を利用して,滑り信号であることを確かめつつ,ハンドによる物体の落下を実時間的に抑止する制御結果を示すことによって,提案する滑り覚センサの有用性を確認した.


■ RI-Splineウェーブレットおよびその非定常信号解析への応用

岡山県工技センタ・章  忠,岡山県立大・川畑洋昭

 本研究では,局在性に優れ,なおかつコンパクトなサポートをもつ複素型のRI-Splineウェーブレット(Real-Imaginary Spline Wavelet)を提案し,モデル信号を用いてその特性を検討した.また,それを非定常乱流の解析に応用し,その有用性を明らかにした.得られた主な結果は,1)複素型のRI-Splineウェーブレットはアドミッシブル条件と双直交条件を満たすことができ,連続および離散ウェーブレット変換ともに有効なMWであることが示された.また,その局在性はGabor関数とほぼ同様に優れており,その実空間でのサポートはコンパクトである.2)RI-Splineウェーブレットを非定常乱流の解析に応用し,乱流の階層構造およびエネルギー輸送過程を見出すことができた.また,RI-Splineウェーブレットを用いて求めた非定常乱れ強さは,乱流のエネルギーの時間的な変化を定量的に表わすのに有効であることがわかった.


■ 境界条件を考慮した有限時間多項式表現による制御入力の解析解導出

豊橋技科大・三好孝典,寺嶋一彦

 本論文では,nλ個の0でない固有値とn0個の0の固有値をもつ一入力線形時不変システムにおいて,状態変数の初期条件および終端条件を満足させる時間多項式表現による制御入力のうち,最小次数のものが2nλ+n0−1次であることを証明しその解析解を導出した.また,いかなる次数の時間多項式表現の制御入力であっても,未知係数の個数を2nλ+n0個に削減することにより制御入力が一意に求められることを明らかにした.さらに,本解法を制振効果が要求されるクレーンシステムの制御入力の導出に適用し,これまで得られていた解析解に一致することを確認するとともにさまざまな次数の制御入力を求め,いずれの解も与えられた境界条件を満たすことを示した.加えて,これらの制御入力を天井クレーンの実験機に適用し設計どおりの制振効果を実証した.

 本解法による境界条件を満たす制御入力の導出は非常に簡便で演算量も少ないことから,リアルタイム性を要求されるローコストな組込み用制御機器などへの応用も期待できる.


■ 多軸システムに対する時変最適同期化制御

豊橋技科大・三好孝典,山武・真木義郎,豊橋技科大・寺嶋一彦,ローランドD.G.・森田正則

 本論文では,直線軌跡,円軌跡,直線と円の組み合わせ軌跡を対象とした,多軸システムにおける時変最適同期化制御法を構築した.本制御法は各軸間の干渉を考慮した軌跡誤差に対して時変重みを用いた最適制御を適用し,時変リカッチ方程式を解くことにより指示軌跡と実際の軌跡の誤差が最小となるような時変フィードバックゲインを求めることで実現した.さらに,構築した制御法をX-Yテーブルに応用し,従来の各軸独立制御と精度比較を行い,本制御法の有効性を実験において確認した.

 本アルゴリズムはX-YテーブルやNC工作機械などさまざまな多軸システムにおいて,片軸に異物が混入することによる外乱や切削材料のむらなどによる軸ごとに異なる負荷変動などが問題となる環境に対して,各軸独立制御より高精度な直線軌跡や円軌跡を実現することができると考える.


■ ファジィモデリングと制御器の反復型アルゴリズムの提案

電通大・田中一男,堀  強

 近年,ファジィ制御の1つの試みとしてモデルに基づくファジィ制御のアプローチが行われている.最大の特徴は従来のファジィ制御では困難とされてきた安定性,ロバスト安定性,最適性などを考慮したファジィ制御器の設計が並列分散的補償の枠組みの中でシステマティックに行われていることである.ファジィモデリングに関してはさまざまな手法が提案されているが,ファジィモデリングからファジィ制御器の設計までを統合的に考慮した制御系設計アルゴリズムは提案されていない.本論文では,非線形モデルの構造は既知であるがそのパラメータが未知の場合を想定し,ファジィモデルのパラメータ同定とファジィ制御器の設計を統合的に行う反復型アルゴリズムを提案する.とくに,本手法ではパラメータ同定時に同定総和誤差の最小化だけでなく各サンプルでの誤差をある設定値以下に抑える誤差制限条件,および同定を繰り返すごとにモデリング精度の向上を保証する繰返し同定改善条件を用いていること,さらに誤差を不確かさに変換し,この不確かさを補償するようにロバストファジィ制御器を設計するという統合的なアルゴリズムを与えていることが特徴である.


■ 時間軸状態制御形にもとづいた切替制御

名工大・藤本英雄,山川聡子,舟橋康行

 chained formで表わされる非線形システムを,時間軸状態制御形に変換して制御則を設計する手法がある.これは線形制御理論を応用し,比較的容易に制御系を設計することができる.しかし,状態のひとつを時間軸とみなしているため,この状態を0にするために入力の切替えが必要になる.この切替則については,まだ十分議論されているとはいえない.

 本稿では,時間軸状態制御形にもとづく切替制御を用いたchained systemを区分的線形システムとして表わす.この区分的線形システムと通常の線形システムを比較することによって,切替えによる状態推移の特徴を明らかにする.この結果を用い,入力の切替時刻に注目して,システムを離散時間系と捉える.周期的な切替制御則を提案し,区分的線形システムが漸近安定となるための必要十分条件を示す.そのうえで,もとのchained systemが安定となるための必要十分条件を示す.特に3次のシステムについては,提案する切替則を用いたchained systemの安定性は,基本となる線形システムの安定性と等価であることを示す.

 chained systemの例としてよく用いられる2輪車両を対象にしたシミュレーション結果を示す.提案法を用いた制御系において,切替周期と状態の収束との関係について考察する.


■ 直接勾配降下制御法によるPID制御則の導出と調整

慶大・志水清孝,傳田英治

 本論文では一般的な非線形システムに対する直接勾配降下制御に基づく出力追従制御の理論を応用してIPD制御(通常の用語ではPID制御)が自然に導出できることを示し,同時に最良のIPDパラメータ値の調整法を提案する.直接勾配降下制御は,評価関数の制御入力に関する勾配関数に基づく最急降下法によって,所望の平衡状態からの2乗誤差評価関数を急速に減少するように直接的に制御入力を操作する制御方式である.直接勾配降下制御法による出力追従制御は元来非線形システムに対して開発された理論だが,それを線形システムに応用すると,有力なPID制御の理論を得ることができる.提案方法は簡単に実行できる実用的な方法であり,線形プラントに対するシミュレーション実験から提案手法の有効性が確認された.


■ 2自由度制御による無段変速機の変速比サーボ系設計

日産・安達和孝,トランステクノロジー・若原龍雄防衛大・越智徳昌,金井喜美雄

 本論文はベルト駆動式無段変速機のモデル化及び変速比サーボ系の設計について述べる.サーボ動特性は1次遅れ+無駄時間系としてモデル化できることが実験的に確かめられている.ただし,時定数は変速比や変速方向,油圧系のライン圧などにより変化する.また,定常ゲインはステップモータ角位置に応じて変化する.しかし,定常ゲインの変動は変速比の定常値からステップモータへの逆マップで補償でき,これにより制御対象を,定数ゲインをもつ1次遅れ+無駄時間系としてモデル化できる.このモデルを用いて設計された制御系はパラメータがスケジューリングされた1次のフィードフォワード補償器と,固定ゲインの比例+積分形フィードバック補償器から構成される.フィードフォワード補償器は望ましい目標動特性を与えると同時に,パラメータをスケジューリングすることにより時定数の変動を補償する.一方,フィードバック補償器は時定数の変動に対する閉ループ系の安定性を保証する.フィードバック補償器はさらにむだ時間や経年変化によるパラメータの変化,時定数やゲイン補償の誤差などに対するロバスト性を与える.提案する2自由度制御系のロバスト制御性能はμ解析により検証され,また計算機シミュレーションや車両実験を通して,その有効性が示される.


■ 時間/事象駆動ハイブリッドシステムに基づく組立技能制御器の実現

名大・板橋界児,平名計在,鈴木達也,大熊 繁,藤原文治

 インピーダンス制御はロボットの手先がもつ仮想的なダイナミクスを自由に与えることができるため,インピーダンスパラメータを適切に与えることにより組立作業のように自由空間における位置制御と拘束空間における力制御の両方を必要とする作業に適した制御方法である.しかしながら,系の正確な同定が困難であること,また作業に最適なダイナミクスが解析的に求められないことなどから適用は難しい.本論文ではこれらのダイナミクスを作業者のデモンストレーションから求める手法を提案する.

 しかしながら,作業者は単一のダイナミクスを用いて作業を進めているわけではなく,作業の進行状態に合わせていくつかのダイナミクスを適切に切替えていると考えられる.この切替機構を実現するために本論文では,状態観測器を有する事象駆動型ハイブリッドシステムをもとに,状態遷移を時間によっても生起することによってより細かな制御が可能となる,時間/事象駆動ハイブリッドシステムを提案する.提案手法を用いることにより,作業者にきわめて近い作業性能を達成することができるばかりでなく,環境の形状の変化や作業途中で加わる不意の外力に対しても作業性能を維持できるようなロバストな組立作業コントローラの実現が可能となる.本手法を実際の産業用ロボットに実装し,組立作業の基礎となるペグの挿入作業(peg-in-hole)を行わせることでその有用性を確認する.

[ショート・ペーパー]


■ 空気圧シリンダ駆動系のシミュレーションのための摩擦力モデル

広島市立大・小嵜貴弘,佐野 学

 一般に空気圧シリンダは,低速駆動時にスティックスリップに代表される振動現象が発生するため安定した動作が得られず,おのずと使用域が限定される.そのような振動現象は,シール部における摩擦力が潤滑状態に依存して変動することが主因である.しかしながら,空気圧シリンダ駆動系のシミュレーションを既存の摩擦力モデルを用いて行った場合,複雑な挙動を呈する摩擦力のモデル化が不十分なため,特に低速域で実際の挙動と大きくかけ離れたものとなり,スティックスリップの発生域を知ることができない.このような背景から,本論文では,測定された摩擦力特性をもとに潤滑状態ごとにモデル化を行い,新しい摩擦力モデルを提案した.提案モデルの有用性は,シミュレーションによる応答の計算値と実験値の近似精度,および低速域でのスティックスリップの実現性の両観点から既存のモデルと比較・評価することにより確認した.


■ 直交行列への変換可能性に関する一考察

上越教育大・川崎直哉,茨城大・安久正紘,山中一雄

 STS=SST=Inを満たすような行列S●Rn×nを(実)直交行列と呼んでいるが,直交行列はその特別な性質から,たとえばシステム方程式の係数などに一般性を失うことなく仮定され,議論をより一般的に行うために用いられたりする.直交行列は,行列の各行や各列がそれぞれお互いに直交していることや,行列のすべての固有値が複素平面上で原点を中心とする単位円上に存在するなどの特徴があり,また,任意の実対称行列は直交行列を用いて対角行列に正則変換できることなどは良く知られている.このように直交行列は特徴ある性質をもっているが,任意の行列を直交行列に変換できるかどうかについては,あまり知られていない.

 そこで本稿では,任意の実行列Aに対してMTAMが直交行列となるような実行列Mの存在について考察する.任意の実行列Aに対しては,常にこのような正方行列Mが存在するわけではないと考えられるが,Mを正方行列と限定しなければ上記を満たすMが存在することを,具体的な計算方法とともに示す.

 

 
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