TOP学会案内行事お知らせ出版物リンクその他

[SICE]
論文集コーナー

論文集抄録

〈Vol.35 No.11 (1999年11月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]
■ 実数値GAのための正規分布交叉に関する理論的考察

東工大・喜多 一,小野 功,小林重信

 非線形関数の大域的最適化手法として遺伝子表現に浮動小数点数を用いる実数値遺伝的アルゴリズム(実数値GA)が注目されている.これまで実数値GAのための交叉として種々の方法が提案されており,とりわけ小野らによって提案された単峰性正規分布交叉(Unimodal Normal Distribution Crossover, UNDX)は多峰性関数や変数間の依存関係の強い関数の最適化において優秀な性能を示している.しかしながら,これまで交叉の性能評価はベンチマーク問題を用いた数値実験を通じて行われるにとどまっており,交叉を設計する指針は確立されていない.

 本論文では,まず,UNDXについて,交叉を個体群の確率分布を変換する操作であるという視点から統計的性質を分析する.分析の結果,UNDXは親個体群の平均値や分散・共分散行列などの統計量をよく継承する交叉であることが示された.そして,この知見に基づいて,実数値GAにおける交叉のいくつかの設計指針を提案する.


■ システム生成子:創発システムの最小機能素子―セル・オートマタによるその検証―

人事院・市川惇信

 システムの最小機能素子が(a)自己複製子であり,(b)最小機能素子の属性が変化する機会をもち,かつ,(c)ある最小機能素子の存在が他の最小機能素子の複製の機会の大きさに作用を及ぼす,という属性をもつとき,それはシステム生成子となり,それからシステムが創発する.システム生成子をセルとする無限状態2次元セル・オートマタをモデルとして設定したところ,このモデルの上で(1)システムの要素が創発し,(2)要素の間の相互作用が創発して,システムが創発することを確認できた.原初の簡単なシステム生成子から複雑なシステム要素が創発し,さらに上位のシステムが創発することは,システム階層の創発が最下層にあるシステム生成子から一貫して行われることを示し,システム生成子の存在が自己組織化の条件でもあることを示している.さらに,システム創発過程の普遍的な性質のいくつかを明らかにし,これらを実際の創発システムに付随する性質から区分して考察することの重要性を示した.


■ 利害の衝突回避のための交渉コミュニケーションの学習―リカレントニューラルネットワークを用いたダイナミックコミュニケーションの学習―

東工大・柴田克成,伊藤宏司

 マルチエージェント間でのコミュニケーションを,観察した情報の伝達と意志の伝達の2つに大きく分類することを提案した.このとき,後者のための双方向のコミュニケーションがループをなすことによって,ダイナミクスが生まれることを示し,これをダイナミックコミュニケーションと呼んだ.そして,各エージェントがリカレントニューラルネットを用いて強化信号から自律的にダイナミックコミュニケーションを学習するアーキテクチャを提案した.例題のコミュニケーションによる衝突回避交渉の問題では,エージェントにコミュニケーションの内容やその表現法および戦略をあらかじめ与えなくても,学習によって適切なコミュニケーションを通して衝突を回避できるようになった.このとき,リカレントニューラルネットが必要に応じて過去の情報を保持しながら,相手のエージェントに対して適応的に交渉を進めていることがわかった.また,エージェントによって自分の主張を固辞する度合いに差ができた.これは個性と呼べるものと考える.また,1対1の交渉だけではすまない4エージェント間の交渉の問題においても,強化信号を他のエージェントと分け合うことなく,全エージェントが満足する解を得ることができた.


■ 遺伝アルゴリズムを枠組としたメタ戦略の構築法―グラフ彩色問題を実例として―

神戸大・田川聖治,金重憲治,井上克巳,羽根田博正

 メタ戦略における異なる技法の統合では,対象とする問題の解空間をどのように把握するかが肝要である.本論文では,近傍構造を包括する距離空間の概念に基づき,遺伝アルゴリズム(GA)と局所探索法を効果的に組み合わせたメタ戦略の構築法について考える.また,グラフ彩色問題(GCP)を具体的な対象とする.はじめに,個体間に構造的な距離を導入することで,GCPの解空間とGAの探索空間をともに距離空間とみなし,両者の関係を明らかにする.つぎに,個体間の距離を利用した調和交叉法と突然変異を提案し,調和交叉法によれば両親の形質が子に継承されることを証明する.さらに,GAを枠組とするメタ戦略の構築法を示すとともに,その性能を計算機実験によって評価する.最後に,GAによる大域的探索に局所探索法を組み込む適切なタイミングの検討を通じて,創発的な探索のメカニズムについて考察する.


■ 遺伝的アルゴリズムによる識別関数の進化的生成に関する検討

神戸大・越智 誠,小谷 学,赤澤堅造

 従来,パターン認識における識別関数の生成として,遺伝的プログラミングを用いた研究などが行われてきた.遺伝的プログラミングは木構造を扱った手法であり,世代とともに,木の大きさは大きく,また複雑になっていく.そのため,結果として生成された木構造で表される識別関数を理解し,簡単化することは非常に困難である.また,その生成にはかなりの計算時間が必要であった.そこで,本論文ではそれらの問題点を克服するために,簡単な構成の識別関数の生成を目的とする.具体的には,識別関数は入力変数の積和形の多項式で近似できると仮定し,その項の探索に遺伝的アルゴリズムを用い,各項の係数は重回帰分析を用いて算出している.さまざまなデータに対して実験し,その識別性能を評価した結果,提案方法は識別関数の生成において有効であることがわかった.


■ 魚群行動モデルにおける協調行動の創発

京工大・三宮信夫,京大・田 雅杰,京都教育大・中峯 浩

 本論文では,魚群行動を記述するモデルを提案し,これを用いて環境が変動する例として,群れが箱型のトラップに遭遇しそこから脱出する過程のシミュレーションを行う.このシミュレーション結果を分析することにより,協調行動が創発してトラップから脱出できる条件を導く.モデルとして,対称的な動きを示す2種類の魚群データから作成された2つの行動モデルを用いて,上記の条件を比較する.得られた結論として,環境変動に適応して群れがトラップを脱出し自由な遊泳を持続するためには,群れというシステムそのものに,または群れ内の個体間の情報交換やインタラクションのメカニズムに,一定範囲の多様性が必要であることがわかった.


■ 不均質な行動原理を有する移動ロボット群の協調作業

理研・倉林大輔,東大・太田 順,新井民夫,野口克行

 本論文では,異なる行動原理の混在する「不均質な行動原理を有するロボット群」を提案する.従来,均質な行動原理を有する場合がほとんどであったロボット群に対して,個々のロボットが別個の行動原理を選択可能なロボットシステムを構築した.この不均質な行動原理を有する群の挙動について,群規模に対する作業効率を検証し,有効性およびその有効性を発揮する条件について考察した.これに基づき,群を構成する自律ロボットが相互干渉を通じて,創発的に群の行動原理構成比を,動的に変化する作業対象に適応させる手法を実現した.ここでは,各自律ロボットは直接相互の通信を行うのではなく,他のロボットが自分の作業遂行に与えた影響のみから漸進的な学習により,自らの選択した行動原理の現在の状況への適合度を判定する.結果として,群規模および作業の遂行状況に応じて,適切な群内行動原理比が得られた.本論文での,不均質な行動原理を有するロボット群により,集中管理機構では解決が困難である,複数エージェント型行商人問題に対して,自律創発的に作業状況,群規模への適用を行い,高効率の作業遂行能力を有するロボット群システムを実現した.


■ 多段階遺伝的アルゴリズムによる大規模最適化問題の解法

東海大・鈴木昌和,東京ガス・淵 昌彦

 遺伝アルゴリズム(GA)が最適化法として活発に研究されているが,大規模問題の効率的解法についての研究は少ない.そこで問題を階層的に近似分解しGAを多段階に用いて近似的ではあるが効率的に解く方法を提案した.この手法はコーディングを難しくする複雑な制約条件にも効率よく対処できる.また実際問題では,基本的には同じ形でも設定条件やパラメータが少し違った問題を繰り返し解くことが多い.提案手法は類似問題を解いた経験知識を活かす学習的解法にもなっている.ナップサック問題を一般化・階層化した拡張ナップサック問題を定式化し,これを例題として2段階遺伝アルゴリズムで解くことにより提案手法の有効性を示す.最後に実際問題としてガス製造工場操業最適化問題に適用して得られた結果を紹介する.


■ 非同期型島モデル並列GAの評価

北陸先端大・堀井宏祐,國藤 進,松澤照男

 本研究では,各部分集団がおのおのの探索状況に応じて非同期に移住操作をおこなう非同期型島モデル並列GAにおいて,組合せ最適化問題に適した移住操作の枠組を提案する.並列計算機CRAY-T3E上に実装し,ナップザック問題とロイヤル・ロード関数に適用することによって,組合せ最適化問題における提案手法の有効性の評価をおこなった.本研究で提案した移住操作の枠組は,組合せ最適化問題において効果的であった.特に積木仮説が成立する傾向の強い問題においては,部分集団群によるスキーマの並列探索,相互のスキーマの交換によって,高次のスキーマの生成が容易になることがわかった.そして,集団分割数が増し,各部分集団の個体数が減少すると,遺伝的浮動の影響が増大し,各部分集団の遺伝的構成が多様なものとなるため,この点を考慮した移住操作が有効であることがわかった.


■ 内部観測型相互作用スキーマの生態系モデル

北大・吉井伸一郎,嘉数侑昇

 複雑適応系とは,生命系に見られる進化・学習システムを抽象化した包括的な概念であり,環境との相互作用を通じて情報の規則性を抽出し,それをスキーマと呼ばれる内部モデルに圧縮する.本論文では,オープンエンディッドな複雑適応情報処理システムを構築するために,相互作用を基本とするスキーマ生態系モデルを提案している.特に,本論文でのモデルでは,外部観測者による絶対的な外部記述を前提とする代わりに,万能チューリングマシンの概念を用いた計算万能な表現系での各スキーマの内部観測・内部記述という側面を重視している.これにより,観測し情報処理を行い,記述するという,複雑適応系にとって最も根元的な機能がいかにして創発するのかという過程について議論している.本論文では,計算機シミュレーションによって,観測的機能と情報的記述の間における創発・分化プロセスについて述べるとともに,内部の情報処理を変容させつつスキーマの相互作用ネットワークが自己組織的に形成されることを示している.本モデルは,表現系の計算万能性に起因する決定不能な問題を抱えるが,相互作用によって停止問題を擬似的に解消しつつスキーマを改善していくメカニズムが複雑適応システムの実現とその創発性を理解するのに重要であると考えられる.


■ 進化ロボティクスにおける制御器の頑健性の実現―動的再編成機能を有する神経回路モデルの提案―

名大・近藤敏之,石黒章夫,内川嘉樹,ATR・P. EGGENBERGER

 近年,注目を集めつつある進化ロボティクス(Evolutionary Robotics,以降ERと略す)研究では,進化過程に膨大な時間を要するため,シミュレータ上で進化させ,得られた個体を実機に移植するというアプローチを採用しているが,一般に,得られたロボットが実環境で適切に機能することは難しい.また,従来のER研究の多くは,コントローラとしてニューラルネットワークを採用しているが,ひとたび結合荷重が決定されると,その機能が一義的に決定されるという問題点がある.一方,近年の神経生理学の飛躍的発展により,神経回路は状況に応じて多義的に変化する多形回路として働いていることが明らかになった.この現象は,neuromodulator(NM)と呼ばれる化学物質によるものと考えられている.本研究では,NMによる動的再編成機能のモデル化を行い,シナプス荷重を直接進化の対象とする従来手法と,学習法を進化の対象とする提案手法を用いて,ペグ押しロボットのコントローラを構築し,その性能比較を行った.その結果,提案手法は,従来手法と比べて,環境の変動に対して,より高い適応能力を発揮することを確認した.


■ ファジイ推論相互作用に基づくマルチエージェントシステムの挙動の学習

九大・平澤宏太郎,三澤淳一郎,胡 敬炉

 近年,蟻などの生物が群れとなって集合したり,移動する挙動をロボットの群行動に試みる研究が多数行われている.この場合,ロボットは群で行動するので個々のロボットの知能レベルは低くてもよく,また,個々のロボットの行動は局所的だが,それらが群れを構成すると全体として秩序ある群れ行動が創発されると報告されている.たとえばクレイグ=レイノルズのBoidsでは飛行する鳥のモデルを作っており,CGの世界などで現在活用されている.最近ではさらに複数の自律ロボットにタスクを処理させ,強化学習法により処理能力を進化させる研究などが行われている.

 本研究は上記の研究と同様,いわゆるマルチエージェントシステムの挙動に関する研究であるが,エージェント群の挙動に関する評価指標を定義し,これが最適となるようにエージェント間の相互作用のパラメータを学習する問題について取り扱っている.

 シミュレーションの結果,評価指標を適切に定めれば,学習によって創発的な挙動を獲得できることを明らかにしている.


■ 自律分散機械による3次元形状の自己組み立てと自己修復

機械技研・吉田英一,村田 智,小鍜冶 繁,富田康治,黒川治久

 3次元形状の自己組み立てと自己修復を,多数の均質な自律ユニットから構成される可変構造機械システムにより分散的に実現する手法を提案する.これにより,機械システムが与えられた初期状態から目的とする3次元形状を自律的に構成し,システムが一部故障した場合には予備のユニットを用いて自ら修復することが可能となる.提案する手法は,小規模システムと大規模システムをそれぞれ対象とする2つの部分からなる.まず,小規模システムに対しては,確率的な緩和法を用いることにより,各ユニットが多くの自由度から適切な動作を選択して目標とする形状への自己組み立てを分散的に行うことを可能にした.つぎに,大規模システムにおいては,多数のユニットからなる目標形状の再帰的・階層的な記述法を導入して,効率的な自己組み立てと自己修復を実現した.また,本手法では,ユニット群が互いに平等の立場をとりながら組み立てや修復を行えるように,システムのハードウェアと同様ソフトウェアの均質性も満たされている.以上で構築した分散的手法の有効性は,計算機シミュレーションにより確認された.


■ 遺伝的アルゴリズムを用いた分岐予測機構設計

日立・野口良太,名大・松崎元昭,小林良太郎,安藤秀樹,島田俊夫

 これまで,分岐の振舞いを解析することにより,さまざまな分岐予測機構が提案されてきた.今後さらに予測精度の高い予測機構を構成するためには,今まで以上に分岐の振舞いを詳細に把握した上で,これらを効果的に予測に反映させる仕組みを考える必要があるが,実用的なプログラムでは分岐命令は数百万回以上も実行されるため,これらの振舞から何らかの規則性を見出すことは人間には困難であり,自動化が望まれる.この一連の作業を遺伝的アルゴリズムを用いて自動化することで,高性能な予測機構の生成を試みた例があるが,実際に利用できる予測機構の生成には成功していない.われわれは,伝子構造を既存の主要な予測機構である2レベル予測機構の枠組を利用して大幅に簡素化した論理回路とすることにより,高性能かつ実際に利用可能な予測機構の生成を試みた.その結果,ハードウェア量8Kbyteで同規模のgshare予測機構に対し,0.3%予測精度の高いグローバル履歴を用いた2レベル予測機構の生成に成功した.


■ 共進化の機構を用いた遺伝的アルゴリズムの提案

岡山大・半田久志,京大・片井 修,大阪教育大・馬場則夫,京大・椹木哲夫,岡山大・小西忠孝,馬場 充

 本論文では,解レベルとスキーマレベルといった2つの異なる抽象度で並行に探索し,かつ,互いに影響を与え合う“共進化”の機構を用いた新しいGAの提案を行う.すなわち,提案手法はGAにおける集団を2つ内包している:第1の集団は与えられた問題に対してGAを適用して解の探索を行う.そして,第2の集団は,第1の集団に内在する有用なスキーマを探索するGAを用いて進化を行う.これらのGAはsuperpositionとtranscriptionという2つの遺伝演算子を通して互いに有用な情報を交換することにより効果的な探索を試みる.さらに,本論文では,第2の集団のための符号化法として,バイナリコーディングでのスキーマ表現,部分空間表現,そして,回転を許容した部分空間表現を用いそれぞれについて考察を加えた.関数最適化問題に対していくつかの計算機シミュレーションを行い,共進化の枠組みによって多様性を維持しつつ探索速度が損なわれないという本提案手法の有効性が検証された.


■ グラフ上の反応拡散方程式と自律分散システム

東大・湯浅秀男,名大・伊藤正美

 大規模・複雑なシステムは空間的な位相を持つため,それを取り扱うためには空間位相を考慮できるシステム理論が必要である.ここでは,連続位相を考慮した偏微分発展方程式系,および離散位相を考慮したグラフ上の発展方程式系を,スカラ関数の空間における勾配系かつ最近接近傍相互作用のみに限定することにより,理論的に(非線形)反応拡散方程式系が導かれることを解明した.これは,状態空間に位相をもつシステムを最も簡単に扱うには,サブシステム間の拡散による相互作用が基本的であるということを意味する.特にグラフで表わされる離散位相においても,連続系と同様の理論展開が行えることを示した.その際,グラフ上でのStokesの公式を導き,証明を与えた.これらは,従来数学的に扱うことが困難であった「創発・自己組織化システム」や「開放系」を,システム理論として扱えるような定式化を行ったことに対応する.


■ 逆シミュレーション手法による人工社会モデルの進化

ワイ・ディー・システム・倉橋節也,博報堂・南  湖,筑波大・寺野隆雄

 社会システムのシミュレーション研究は,現実の世界において簡単には観測できないような組織理論の命題をテストするのに有効な手段である.しかしこれらの既存研究にはつぎのような問題点がある.

(T) 各エージェントに実装される機能が単純すぎるために,複雑な実世界の分析に使用するには無理がある.

(U) パラメータが多くなると,モデルそのものの中に答えが隠されている可能性が強い.

(V) モデルを実行して得られた結果と実社会の創発的な現象との間に関連性が乏しい.

 本稿では,創発的計算法の原理を用いた逆シミュレーション法を新しく提案し,その有効性をエージェント指向の人工社会モデルで検証する.(T)については,十分豊富な機能とパラメータとをもつエージェントを設計し,社会科学の概念の計算論的な意味付けを明らかにする.(U)については,パラメータを恣意的に調整することを避け,複雑かつ多変数な関数の最適化を図るために遺伝的アルゴリズムを採用する.そして逆シミュレーション(Inverse Simulation)を行う.(V)については,現実の社会現象で観測できるマクロ的な情報とシミュレーションから得られるデータとを関連させ,過度な抽象化を避ける.


■ 中立説を考慮した遺伝的アルゴリズムとその梯子型ネットワーク形成への適用

姫路工大・礒川悌次郎,松井伸之,兵庫教育大・西村治彦

 従来のGAは,個体群の遺伝形質に突然変異が生じた際,与えられた環境での生存に不利な形質をもつものが消滅(減少)し,有利な形質をもつものが生き残る(増加する)というネオ・ダーウィニズム型の考えに基づくものである.ここでは,生物のもつ形質には必ず何らかの適応的意味があるものという前提が存在するが,実際の生物世界では,有利でも不利でもない中立な突然変異が多く生じているのが事実である.この事実は,われわれが進化システムを設計するときに,どのような遺伝機構を採用するかに関して新たな可能性を示唆してくれる.すなわち,ネオ・ダーウィニズム的なGAによる従来の標準的な設計とは違う,分子進化の中立説に動機づけられた枠組みの設定である.中立説では,個体群の中に1つの遺伝形質が選択圧によって積極的に保有されるに至る(定向進化)のではなく,選択圧に中立なまま偶然に固定されること(遺伝的浮動)が許される.しかし,これまでの工学的な効率化の観点からは冗長性が重要視されることは少なく,それゆえに中立突然変異の影響についてはほとんど検討されていない.著者らはこの点に着目し,入力情報の順列を置換する梯子型ネットワークの形成問題を例にその検討を進めてきた.本論文ではこれまでに明らかとなった内容と結果について報告する.


■ 冗長個体表現を用いた進化戦略による工学的実関数最適化

神戸大・大倉和博,松村嘉之,上田完次

 進化戦略を工学的実関数最適化問題に対して適用する場合,往々にして戦略パラメータが極端に小さくなり,集団が実質的に動けない状態になりやすいことを示し,進化戦略において従来いわれてきた戦略パラメータの自己適応性は頑健な探索の観点から不十分であると指摘した.そして,その一解決法として,冗長な個体表現方式とそれに適切な突然変異パターンを定義して,遺伝的浮動を戦略パラメータの変化要素に加えることを提案し,これをRESと呼んだ.さらに,いくつかテスト関数を用いて計算機実験を行い,CES-FES-RESのパフォーマンス比較実験を行い,提案手法の有効性を示した.


■ カオス力学系による自律的記憶形成

東工大・小島一浩,伊藤宏司

 従来のリヤプノフ安定に基づいた緩和型の連想記憶モデルでは,未知パターンが入力された場合,その外部刺激の強さにより,1) 既記憶パターン,2) 未知パターンと1)の混合パターン,3) 外部刺激パターンのいずれかに収束するのみであった.このため,ネットワークが記憶していない新たなパターンを,ネットワークに記憶として定着させる場合,ネットワークの出力を記憶すべき外部入力パターンに固定して,Hebb則などの学習則をシナプス結合に適用する必要があった.このため,必然的にネットワークの動作過程は,外部設計者によって,想起/学習過程に分けられねばならない.

 しかし,実際の脳-神経系はもっと活力に富んだものである.生理学実験では,未知の刺激パターンに対しては,“I don't know”状態を示ことにより既知/未知パターンを判定し,既知パターンを破壊することなくその未知パターンを記憶できることが示されている.

 そこで,本論文ではまず連続時間系のカオスモデルを提案し,“I don't know”状態を実現する.さらに,想起/記憶形成過程の内部状態の変化と出力パターンの変化の関係を調べることにより,内部状態を記憶形成過程の指標とする学習則を提案する.この学習則により,外部設計者による想起/学習過程の分離の必要性はなくなり,ネットワーク自身が想起/学習過程を切り替えることが可能となる.


■ 組織学習に基づく分散分類子システムを用いた創発的問題解決への接近

ATR・煖ハ圭樹,筑波大・寺野隆雄,ATR・下原勝憲,東大・堀 浩一,中須賀真一

 本稿では,社会科学の組織論における組織学習の概念を用いてマルチエージェントの相互作用に埋め込まれた特性を解析し,その特性に基づいた創発的問題解決法の有効性を検証した.具体的な解析結果は次のようにまとめることができる:(1)マルチエージェント環境における学習には組織と個体のレベルが存在し,それぞれシングルとダブルという観点で分類できる.この4つの種類の学習メカニズムの統合は集団全体のパフォーマンスの向上(良い解を短い計算量で見出すこと)に貢献する;(2)マルチエージェントにおける創発的問題解決には(a)異なる次元による学習メカニズムの統合,(b)エージェント間の相互作用に加えたメタレベル相互作用,(c)個体レベルの探検性と組織レベルの利用性の3つの特性が必要である;(3)組織学習における4つの学習メカニズムの統合はマルチエージェント設計における1つの指針になり得る可能性を示した.


■ パイプラインストールを除去した遺伝的アルゴリズム専用ハードウェア

名大・北浦 理,NEC・浅田英昭,名大・松崎元昭,川合隆光,安藤秀樹,島田俊夫

 遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm: GA)は,大規模な最適化問題の有効な解法の1つとして知られている.GAの計算時間を短縮する試みとして,これまでにいくつかのGAエンジンが提案されてきた.しかし,既存のGAエンジンは十分な高速化がなされていない.十分な高速化が実現できていない理由は,全実行時間の大半をパイプラインストールが占めているからである.本稿では,パイプラインストールを除去したGAエンジンであるH3エンジンを提案する.H3エンジンは,Steady State GAの採用と,ルーレット選択を効率良くパイプライン化する手法により,パイプラインストールを除去し,高速化を実現した.われわれはH3エンジンをFPGAに実装し,性能を評価した.H3エンジンは同一の問題を解くソフトウェアに比べて約730倍の速度を得た.また,GAの規模を拡張した場合のH3エンジンのハードウェア構成についての検討を行った.


■ 進化型計算手法による観察からの能動型見習い学習

京大・椹木哲夫,JR西日本・谷 直樹

 自動化の進展やその水準の高度化により,人間とシステムの距離はますます広がりをみせ,これに伴う弊害をいかに解決するかが新たな課題となっている.複雑化するシステムとそのユーザの間に介在してその間のインタラクションを支援する知的人工物にインタフェース・エージェントの概念が提案されているが,その設計には,ゆらぎの大きいユーザ挙動からの状況に則した規則性の抽出と挙動の背後で変動しやすいユーザ概念への適応を同時に達成できるような学習アルゴリズムが求められる.本論文では,機械学習における教師なし学習の1つである概念形成手法による学習を基本ルーチンとして,これに属性の取捨選択と新属性の合成機能を付加し,エージェントが観察事例に能動的に働きかけながら人間の作業を支援するために有効な概念を獲得学習するためのアルゴリズムの提案を行う.提案手法を人工的なデータベースと人間機械系に応用しその有効性を示す.

 


BACK 「論文集」に戻る HOME ホームページトップに戻る

Copyright (C) 2000 (社)計測自動制御学会