SICE 社団法人 計測自動制御学会
Top
新着情報
学会案内
入会案内
部門
支部
学会活動
学科行事
お知らせ
会誌・論文誌・出版物
学会誌
論文集・バックナンバー
英語論文集
産業論文集
学術図書のご案内
残部資料頒布のご案内
リンク
その他
サイトマップ お問い合わせ
 会誌・論文誌・出版物
 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.35 No.2 (1999年2月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


一覧

[論  文]


[論  文]

■ 磁気双極子場のオンオフ符号による存在検出系とその野生小動物行動記録への応用

東京農工大・鈴木岳良,金子弥生,阿刀田央一,丸山直樹,前橋工科大・冨澤眞樹,東京農工大・神崎伸夫

 磁気双極子場を用いて,0.1〜1km2の土地の中に散在する半径4m程度の特定の領域の中に観測対象が存在することを知る,簡便で確実な方法を提案する.これは,野生小動物の行動記録を目的とする.領域の中心に標識として磁場の発生器を置き,この場を各標識に固有のシリアル符号によってオンオフ変調する.この場を磁気センサで検出,2値化し,ビットパターンが符号集合の中の1つに一致したとき,センサ自身が特定の標識の近傍に存在することが検出される.双極子場の逆3乗則により,センサの高さや傾きに対して,検出域の半径の変動は十分小さい.また符号集合内のハミング距離を離し,1の個数の少ないものを除外すれば,符号の誤識別確率は理論上十分小さくなる.実際には,622個の要素をもつ14ビットの符号集合により,パルス雑音やバースト雑音に対する耐性も加えて満足できる確実性を得た.実現した行動記録システムでは,標識は8kHzの低周波交流磁場を用い,観測対象の動物には磁気センサ用の小さなコイル,比較器,メモリ,時計,CPUなどによる電池駆動の行動記録装置を取り付ける.1997年晩春野生のアナグマを対象に観測を行った結果,行動パターンの解析などの動物生態学分野の研究に有用なデータを取得できることが示された.


■ クレーンリフターの振れおよび円柱状搬送物位置の自動計測について

山口大・田中正吾,三菱マテリアル・武内信幸

 大型重量物の搬送に際しては,その使用目的,環境に応じて種々のタイプのクレーンが用いられる.また,その稼働に際しては,稼働率の向上,無人化,リスクの回避などが重要であり,これまでクレーン吊り具の姿勢計測および制御システムが研究,開発されてきた.

 しかしながら,これらのシステムでは,所定の位置に吊り具をスムーズに停止させることに力点がおかれ,搬送物の位置データは正確に与えられているという仮定があった.しかしながら,現実には,これらの登録データは一般には正確でない場合が多い.したがって,トロリーの停止位置で吊り具を降ろし,搬送物をグリップする際,搬送物を損傷することがある.また,損傷のいかんに拘わらず,登録データの間違いのため搬送物がグリップできないときは,吊り具の位置と方向を再操作しなければならないことになる.したがって,品質の保持および稼働率の向上のため,搬送物の態様や位置を正確に認識,計測することが重要である.

 この観点から本論文では,搬送物の形状計測をも長期的視野に入れつつ,リフター形式クレーンに対し,まず自動車用圧延板コイルやペーパーロールのような円筒形状の搬送物の対象に,リフター振れ計測用光ファイバジャイロに光波距離センサを組み合わせることにより,リフター振れに影響されない搬送物自動位置計測システムを提案する.


■ 加速度および大気圧を利用した人間の移動形態の推定

東北大・佐川貢一,伊奈 淳,高橋隆行,石原 正,猪岡 光

 日常生活での軽度の運動で発作が生じる心臓病患者を診断する場合,実験室内での運動負荷試験を行うことは困難である.そのため,日常生活での平地歩行や階段昇降等の運動量を定量的に評価し,心機能との比較を行う必要がある.従来,腰部加速度波形を利用した歩行形態判別法が提案されているが,判別のために膨大な計算量を必要とするため計測装置の小型汎用化は困難であった.

 本論文では,加速度センサと大気圧センサを使用することによって,日常生活で頻繁に行われると考えられる静止状態,平地歩行,階段昇降,エレベータによる昇降,ジョギングを,簡単なアルゴリズムにより推定する方法を提案した.加速度情報より,静止状態,歩行状態,ジョギング状態が判別可能となり,また大気圧の微小な時間変化を計測することにより,階段およびエレベータによる昇降動作を推定することが可能となる.上下方向移動推定のために必要となる大気圧の時間変化は,カルマンフィルタによるシミュレーションの結果を利用して構成した処理回路を使用して計測した.実験の結果,加速度および大気圧情報を組合せることによって,上記の日常生活の移動形態を平均95%以上の精度で推定することが可能であることが確認された.


■ 両眼視差による瞳孔反応のEye-Sensing HMDによる実験研究

松下電工・福島省吾,京大・森川大輔,吉川榮和

 本稿では,瞳孔運動,眼球運動および瞬目活動などの視機能に関連する生理指標の実時間取得が可能な頭部搭載型のディスプレイであるEye-Sensing HMDを用いて,時間的に連続して両眼視差を変化させたときの眼球運動を調べた結果,輻輳運動を行うバーゼンスノーマルの被験者と輻輳運動ではなく共同性運動を行うバーゼンスアノマリーの2つの被験者群に分けられた.バーゼンスノーマルの瞳孔反応は,両眼視差が大きくなるにしたがって縮瞳し,逆に両眼視差が小さくなるにしたがって散瞳することが判明し,縮瞳と散瞳にはヒステリシスの関係があることが示された.またそのときの瞳孔の大きさは両眼視差の大きさと相関があることも示された.一方,バーゼンスアノマリーに関しては,注視対象の周期動作に対応した瞳孔変動は見られなかった.これらの計測結果は,被験者の主観報告による両眼画像の融合の可否とも対応していた.本論文の結果より,両眼視差が周期変動する注視対象を提示し,それに対する瞳孔変動の周期性を調べることにより,両眼立体視環境においてバーゼンスアノマリーの判定が可能であることが示している.これは,一般にバーゼンスアノマリーはステレオアノマリーであることから,ステレオアノマリーの客観判定が可能であることを示している.


■ KDI-Based Robust Fault Detection in Presence of Nonlinear Undermodeling

Kyushu Univ.・Jinglu HU,Kyusyu Inst. of Tech.・Kousuke KUMAMARUand Katsuhiro INOUE, Kyushu Univ.・Kotaro HIRASAWA

 This paper deals with the problems of robust fault detection using Kullback discrimination information (KDI) in presence of nonlinear undermodeling. The systems to be diagnosed are assumed to contain certain unknown nonlinear elements. The fault detection is performed by applying the KDI to a linear ARMAX model with model uncertainty, in which error due to nonlinear undermodeling is described using a group of fuzzy models with adjustable parameters. The estimate of modeling error is considered in the KDI analysis and thresholding decision for robustness realization. The effectiveness of the proposed robust fault detection scheme is examined through numerical simulations.


■ 線形ディスクリプタシステムの二次安定性と二次安定化

和歌山大・安田一則

 本論文では,ディスクリプタ変数の微分の係数行列にも時変の不確かさをもつディスクリプタシステムに対し,二次安定性と二次安定化について考察した.

 まず,不確かさがノルム有界型で1ブロックに集約できる場合には,動的なふるまいを規定する変数が不変であるという仮定のもとで,ディスクリプタ変数の微分の係数行列に不確かさを含まないシステムに等価変換できることを示した.そして,時不変ディスクリプタシステムにおいて解が一意でありかつインパルスフリーであるという性質に対応する概念として,適合性を導入した.これらの準備ののち,適合性をも保証する新たな二次安定性を定義し,これに基づいて二次安定性と線形静的フィードバックによる二次安定化可能性に関する必要十分条件を,一般化リアプノフ定理を用いて与えた.

 ここで導かれた条件は,状態方程式表現に変換することなくディスクリプタシステムの係数行列をそのまま用いて与えられており,しかもシステムに対して適合性を仮定する必要がないという点で従来の結果よりも適用が容易な条件である.


■ 状態空間型モデル集合の安定化状態フィードバックを考慮した同定法

阪大・山本 茂,木村雅孝,長棟亮三

 入出力データからモデル集合を同定することは,ロバスト制御系設計にとって重要である.本稿は伝達関数型モデル集合の既存の同定法を発展させ,入出力データに矛盾することのない状態空間型モデル集合を同定する一手法を提案する.特に,同定すべきモデル集合に対する安定化制御則が存在する条件を同定則に加味し,モデル集合の最小性とロバスト性のトレードオフを考慮した.同定と安定化則の存在条件をそれぞれLMIの形で導き,それらを組み合わせたアルゴリズムを提案している.モデル集合の大きさは,係数行列の変動のフロベニウスノルムあるいはスペクトルノルムで測られる.これら2つのノルムによる異なるモデル集合の表現は,本稿の同定と制御の意味においては,等価であることも示される.


■ 多項式代数法と等価な状態空間法による一般化予測制御系の構成とその等価性の証明

岡山大・増田士朗,矢納 陽,井上 昭,平嶋洋一

 一般化予測制御法(以下,GPC (Generalized Predictive Control)と記す)は,Clarkeらによって提案されたモデル予測制御手法の1つであり,おもに化学プロセス制御の分野で広く普及している.GPCの導出には,元来,CARIMA (Controlled Auto-Regressive Integrated Moving Average)モデルを利用する多項式代数法に基づく手法(以下,GPC/PA (GPC in the polynomial approach)と記す)が用いられていたが,近年,状態空間法による設計法(以下,GPC/SA (GPC in the state space approach)と記す)も提案され,両者の関係について論じられている.しかし,これまでの研究では,GPC/PAとGPC/SAの等価性は示されていなかった.

 そこで,本論文では,GPC/SAとして最小次元オブザーバを併用したGPCを新たに提案し,それらの入出力表現が,Clarkeらが提案したGPC/PAと等価になることを証明する.GPCを状態空間モデルを用いて構成することは,これまでにも提案されてきたが,最小次元オブザーバを利用する手法は提案されていない.したがって,本論文によりはじめて両手法の定量的な関係が与えられたことになる.また,本論文の結果よりGPC/PAとGPC/SAの関係が明確になったので,それぞれのアプローチの特徴を利用して拡張されたGPC/PAやGPC/SAが状態空間法,多項式代数法のアプローチの違いをこえて公平に性能比較でき,また,互いの研究成果を適用することが容易になる.


■ エンジン制御系設計・評価のための排気ガス再循環モデル

日立・高橋信補,渡辺 徹,瀬古沢照治

 地球規模での環境問題を背景に,排気,燃費規制強化の動きが進展している.この規制強化に対応するための新技術として筒内噴射エンジン制御システムが注目を集めている.本システムでは,排ガス中のNOx成分を低減するため排気ガス再循環機構が必要になる.本論文は,筒内噴射エンジンを含むエンジン制御システムにおいて,制御系設計,評価など制御系開発を支援する排ガス再循環モデルを提案するものである.提案モデルは,質量保存則や理想気体状態方程式など物理法則に基づいて構成されており,これにより,広い領域の精度確保を図っている.モデルによるシミュレーション結果と実験結果の比較により,モデルが高い精度をもつことが明らかになる.また,モデルの制御系設計への2,3の適用例が示される.


■ PID制御器を用いた三慣性ベンチマーク問題の解法

電通大・松井義弘,竹内倶佳

 共振機械系の制振制御問題は,産業用位置・速度サーボ系における大きな課題の1つである.近年,共振機械系の第一近似モデルである二慣性系を用いた速度制御器の設計法が多数提案され,その実用性が実証されつつある.しかし,さらに高速かつ高精度な制御を行うためには,より厳密な三慣性系モデルを用いた設計が必要となる.こうした要求から本会より三慣性ベンチマークが作成されている.

 本稿では,まず,本問題の速度制御問題に著者らがすでに提案している二慣性系モデルを用いたPID制御器の設計法を適用した.このとき,三慣性系の二次共振モードを無視した二慣性系モデルを用いた.そして,この制御器がノミナルプラントで設計仕様を満足することを確認した.つぎに,この速度制御系を内部制御ループとして使用した比例制御による位置制御系を構成した.このとき,二慣性系モデルに含まれない二次共振モードの振動が問題となる.この対策として,位相進み補償器を追加し,そのパラメータ調整法を示した.

 提案した方法は,制御器の構成が簡単で,制御ゲインの調整法も明解,かつ,パラメータ変動やトルク制限にも強い.したがって,実際の共振機械系の制振制御において有用な方法であると考えられる.


■ SIRMs動的重視度結合型ファジィ推論モデルによる非線形PID制御

マイコム・湯場崎直養,易 建強,東工大・廣田 薫

 多入力ファジィ制御のための「SIRMs動的重視度結合型ファジィ推論モデル」を提案する.本モデルでは,各入力項目に対してそれぞれ,対応する入力項目のみを前件部変数とする単一入力ルール群(SIRM, Single Input Rule Module)を構成し,動的重視度を導入する.各動的重視度は,基本値と変動値の和として定義される.基本値は入力項目の定常状態時の役割を保証し,変動値は制御状況に応じてダイナミックに変化し,動的重視度の値を実時間で調整する.各サンプリング時刻において,各ルール群の推論結果の動的重視度付き総和をモデルの出力とする.

 つぎに定値制御系に対して,本モデルの具体的な構築手法を説明する.この場合動的重視度の変動値は,対応する入力項目の現在の絶対値を前件部変数とするファジィルールで容易に求められることを示す.また,偏差と偏差の1階差分を入力項目として1次遅れ系を制御するとき,本モデルは非線形PI制御になり,偏差と偏差の1階差分および偏差の2階差分を入力項目として2次遅れ系を制御するとき,本モデルは非線形PID制御になることを証明する.

 さらに,提案手法を典型的な1次遅れ+むだ時間系および2次遅れ+むだ時間系に適用し,従来の線形PID制御に比べて定常誤差なしでオーバーシュートと振動も発生せずに目標到達時間が短縮できることを示す.


■ Adaptive Control of a Planar Gantry Crane by the Switching of Controllers

大同工大・Zibo KANG, Seizo FUJII, Chaojun ZHOU and Kazuya OGATA

 各種産業分野において,クレーンは広く利用されており,作業効率と安全性向上のため,搬送中の振動抑制を考量し,短時間で目的位置に搬送する制御系が要求されている.運転条件によりクレーンのロープ長が変化する場合に,1つの固定したコントローラにより良い制御性能を達成することは難しい.本稿では,クリーンのロープ長に応じた多くの固定コントローラを用意し,その中から最適なコントローラを選択するスーパーバイザリ制御法を提案する.各固定コントローラは状態フィードバック制御法により設計する.クレーンの摩擦の影響を除去するため,システムの状態変数を未知入力オブザーバを用いて推定する.推定誤差に基づくスーパーバイザにより,ロープ長が分からないクレーンに対して,クレーンが荷物を目標位置に運ぶとき生じるロープの揺れを抑制することができる.本制御法の有効性を実機実験により確認する.


■ 生体内免疫系を参考にした自律移動ロボットの行動調停機構の創発的生成に関する一手法

名大・近藤敏之,石黒章夫,内川嘉樹

 近年,人工知能研究の分野では,従来の静的環境における最適性のみを重要視するアプローチの限界が指摘され始め,行動に基づくアプローチの有用性が叫ばれつつある.中でも,MITのR. Brooksはサブサンプションアーキテクチャと呼ばれる行動型人工知能の手法を用いて自律移動ロボット制御を行い,実機によりその有用性を確認している.一方,生体情報処理機構のひとつである免疫系は,近年の免疫学研究の驚異的な進展により,個々の抗体が単独で抗原に反応するのみならず,抗体間にも刺激・抑制の相互作用が存在し,抗体同士がお互いにコミュニケーションをとりながら抗原を認識し排除するという,並列分散的な情報処理機構を有することが明らかになってきた.本研究では,上述の生体内免疫系の並列分散的情報処理機構を工学的にモデル化し,自律移動ロボットの行動調停機構に応用することにより,新しい行動型人工知能の一手法を提案する.また本手法では,抗体間の親和性の程度を強化学習法により適切に調節することで,自律移動ロボットの行動調停機構を環境に対して適切に進化させることも試みた.その結果,自律移動ロボットが評価関数として明示的には与えていないような行動の調停も行える行動調停機構を創発的に獲得できることを確認した.


■ 連続値入出力を扱うファジィ内挿型Q-Learningの提案

阪大・堀内 匡,NTT・藤野昭典,京大・片井 修,椹木哲夫

 近年,未知環境などのモデル化が困難な環境において,試行錯誤的な経験から適切な行動を適応的に獲得する強化学習が自律エージェントの学習法として注目されている.強化学習の代表的なアルゴリズムの1つにQ-Learningがあるが,従来のQ-Learningはおもに離散的な状態・行動を対象としており,現実の複雑な環境に対応するためには,連続値を含めた多様な入出力データを扱う必要がある.

 本研究では,このQ-Learningにおいて連続値の入出力(状態・行動)を扱うことを可能にするために,行動価値関数値の導出にファジィ推論を導入した新しい学習法であるファジィ内挿型Q-Learningを提案する.これはファジィルールを用いてQ関数と呼ばれる行動価値関数を表現するものであり,Q関数をなめらかに近似(内挿)することができ,汎化能力が期待できる.また,Q関数を表現するファジィルールの構造と初期値はあらかじめ与える必要があるが,ファジィルールのパラメータ・チューニングは最急降下法の導入により前件部・後件部ともに学習プログラムが自律的に行うことができる.さらに,行動が離散値の場合には学習の効率化を図る手法として,各行動ごとにファジィ推論システムを用意するアーキテクチャの導入も提案する.これらの提案手法は,倒立振子制御問題と大型船操舵問題の2種類の制御問題への適用を通して,従来手法と比較することにより,特に学習速度の点においてその有効性を明らかにする.


■ 広域水運用計画の対話型多目的計画法の応用

日立・加藤博光,栗栖宏充,瀬古沢照治,舘 仁平

 上水道の普及率向上と近年のあいつぐ渇水・災害の発生に伴い,平常時のみならず緊急時にも有限な水資源を効率よく安全に融通していくことが重要になってきており,さまざまな状況下で柔軟に運用計画を立案する必要性が高まってきた.

 従来,水運用のようなネットワーク運用問題の数理モデル化においては,モデルパラメタをうまく設定することが良い計画を得るための条件であった.しかし,適切なモデルパラメタ設定は試行錯誤に頼りがちになり,またパラメタを固定的に用意しておくだけでは計画立案者の意図に沿った計画を柔軟に立案することが困難であった.

 本稿では,水運用計画立案の際に目的として考える配水池水位の回復を制約化することにより,計画問題を日量を扱う概要レベルと,時間量を扱う詳細レベルに階層化できることを利用する.概要レベルにおいて対話型多目的計画法を応用し,詳細レベルで用いるモデルパラメタを自動生成する手法を提案する.さらに,現実の導送水系のデータを用いて数値シミュレーションを行ってシステムの性能を評価し,実用レベルでの有効性を示す.


■ 階層的因果ネットワークにおける任意ノードの条件付可能性を求める因果推論

長岡技科大・山田耕一

 条件付因果可能性分布を用いて,階層的因果ネットワークにおける一部の事象(ノード)が観測されたときに,任意の未観測事象の条件付可能性を求める推論方法を提案する.本研究は,より一般的な非循環有向グラフで表現される因果ネットワークに対する因果推論を実現するための一歩であるが,可能性理論に基づく因果逆問題を解く従来の推論の拡張でもある.

 まず,本論文は「ある原因がある結果を引き起こす事象」である因果事象を用いて,条件付因果可能性を定義する.従来の条件付可能性や条件付確率が,まったく別の事象を原因として対象結果が起きる場合も含んだ不確実性評価であるのに対し,条件付因果可能性は純粋に因果生起の不確実性のみを評価する.論文は,この条件付因果可能性分布の特徴や従来の条件付可能性分布との関係について議論した後,これを因果分析問題に適用する.そして,階層的因果ネットワークにおいて,複数の任意の事象が観測されたときに,任意の未観測事象の条件付可能性分布を求める方法を議論し,提案する.最後に,簡単な数値例に提案手法を適用し,この推論の妥当性を確認する.


■ 倒立振子システムの非線形H∞状態フィードバック制御

舞鶴高専・川田昌克,立命館大・島津尚充,井上和夫

 近年,非線形H∞制御に関する研究が盛んに行われているが,これまでの研究は,理論的な研究が中心であり,その応用に関しては,まだ十分に検討されていない.非線形H∞制御を実システムへ応用するには,Hamilton-Jacobi方程式(HJE)と呼ばれる偏微分方程式の解を求める必要があるが,HJEの解析解を求めることは困難であり,これまでにいくつかの近似解法が提案されている.

 本稿では,筆者らが先に提案したHJEの近似解法を用いることにより,不安定な非線形システムである倒立振子システムに対して非線形H∞状態フィードバックを設計し,実機実験による比較検討を行った.その結果,線形H∞制御よりも非線形H●∞制御の方が広い動作領域でパラメータ変動に対してロバストであることを確認した.


■ 低次最適予見繰り返し制御系設計

神奈川大・江上 正

 離散時間予見繰り返し制御系がすでにいくつか提案されている.これらは大きく,LQ最適制御理論を基にした最適予見制御の手法を用いたものとモデル予測制御の手法を用いたものに分けられる.しかし,後者はモデル予測制御の欠点をそのまま受け継いでいるため,制御系の安定性を保証する設計ができないという問題点が見られる.一方,前者は制御系の安定性が保証される設計が可能となる反面,拡大系と同次数のRiccati方程式を解かなければならならないという問題点も指摘されている.これに対して,最適性の原理を用いて最適予見繰り返し制御系を構成する方法も提案されており,これによれば両者の問題点はある程度解決されるものの,安定性が予見ステップ数に依存し,目標値の周期と予見ステップ数の関係にも制約を生じる点が見られる.このため本論文ではすでに提案している最適予見繰り返し制御系を基にして,これに状態変数変換と予備状態フィードバックを用いることにより,この制御系と同じ構造を制御対象の係数を用いて実現する方法を提案している.本方法によれば制御系の安定性は常に保証され,制御対象と同次数のRiccati方程式を解けばよく,また繰り返し周期が変更されてもそのまま対応できることになり,上述した問題点は解決されることになる.


■ 連動式状態遷移ニューラルネットワークによるラインバランシング問題の解法

慶大・村中優記緒,相●英太郎

 ホップフィールド型あるいはその改良型の連続的ニューラルネットワークは,その提案以来,数多くの組合せ最適化問題に適用され,その大域的最適解への収束性が議論されてきたが,その性能を本質的に改善するに至っていない.これに対して著者の1人が提案した連動式離散的状態遷移ニューラルネットワークは,ホップフィールド型ニューラルネットワークのこの未解決の課題を克服することが可能である.

 本論文では,ラインバランシング問題に対しても,制約充足型の連動式離散的状態遷移ニューラルネットワークが適用可能であることを示し,単純な制約条件を満たすより数の少ない組合せ状態空間内で,離散的状態遷移則を用いることによって,かなりの高い頻度で大域的収束性能が得られることを確認している.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会