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 論文集抄録

論文集抄録

〈Vol.36 No.8 (2000年8月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


■ 水晶振動子による滑りとその方向のセンシング

阪工大・村岡茂信

 ヒトは滑らないぎりぎりの力で効率的に対象物を把持するとされている.ロボットの把持制御でも滑り情報に基づく把持力調整が有効な手法とされ,多くの滑りセンサが提案されている.しかし,その多くはアナログ出力のため環境ノイズの影響を受けやすく出力レベルも低い.このため,これらのセンサはアンプ,フィルタ,A-D変換器などを要することが多く,フィルタ使用により帯域が制限されることもある.

 水晶振動子の発振周波数が外力により変化することを利用した力センサは,出力が周波数変化量であるため,ノイズに強く信号処理が容易で高感度・高分解能といった特長を有する.さらに水晶振動子の周波数が一般の環境ノイズより高いため,ノイズ除去が容易で広い帯域も確保できる.本論文ではこの力センサにより滑りに伴う摩擦力変化の検出を行う.滑り情報に基づく把持制御では,把持力,把持位置,滑りとその方向に関する情報を必要とすることが多い.水晶振動子はこれらすべての量を検出することができるが,把持力と把持位置の検出については報告済なので,本論文では滑り検出の原理,滑りとその方向の検出結果について報告し,水晶振動子が滑りセンサとして有用であることを示す.


■ シリコン単結晶の異方性エッチングを用いた微小段差基準片

東工大・初澤 毅,井上尚紀,早瀬仁則,小口寿明

 表面形状測定機などでは,センサ出力を実寸法の情報に変換するため,校正作業が必要となる.この際,校正用基準片を用いるが,従来,組み合わせブロックゲージやステンレス鋼またはガラス表面に機械加工を行ったものが用いられてきた.しかし,試料寸法が小さくなると,加工用工具の製作が難しくなるとともに,形状の正確性を期するため量産性が犠牲になる.

 本論文では,シリコンの異方性エッチングにより得られる結晶面を平面基準として用いることにより,多段の段差を小さい寸法領域に集積可能な基準片の製作方法について,実験的に検証している.パターン多重露光法,ストライプパターン変調法,チェッカーパターン変調法の3手法について試料を作製し,それぞれ3段のステップを持つ段差基準片を試作している.

 その結果,数十 μmのステップについて,10数nmから数百nmの表面粗さをもつ基準片が製作できた.多重露光法による方法は現時点では最も良い幾何形状が得られたが,ステップの多重化が難しいことを確認した.また,パターン変調法については,粗さの向上が今後の課題として残った.


■ ディスクリプタ表現を利用した倒立振子システムの非線形H∞制御

舞鶴高専・川田昌克,立命館大・井上和夫

 本論文では,倒立振子システムに対してディスクリプタ表現を利用した非線形H∞状態フィードバックの設計法を提案する.

 まず,倒立振子システムの非線形ディスクリプタモデルにおける係数行列を状態に関して有限次のべき級数と構造的不確かさの和で表わす.このとき,構造的不確かさを考慮したゲインスケジューリングの考え方により非線形H∞制御問題の可解条件を状態に依存した線形行列不等式(sLMI)で表わすことができる.しかしながら,ディスクリプタ変数を状態変数のみとすると,sLMIを有限個のLMIで置き換えたときに生じる保守性,評価出力における構造的不確かさを見積もる際の保守性に対する対処は十分ではない.そこで,つぎに,ディスクリプタ変数を状態変数とその時間微分とすることによって,保守性を軽減することが可能なsLMIを導出する.また,非線形H∞制御問題のみを考えて設計するとゲインが過大になり,実用上好ましくないため,円内への固有値指定問題の可解条件であるsLMIを導出し,複数仕様を満足させるための解の構造についても議論する.最後に,実機実験により提案法とHamilton-Jacobi方程式に基づく設計法の比較検討を行い,提案法の有効性を示す.


■ 視覚サーボにおけるポテンシャル切り替え制御

岡山大・橋本浩一,田中浩平,則次俊郎

 本論文では,視覚サーボにおける大域的な安定化の問題について考察し,ポテンシャル切り替え制御法を提案する.これまでに提案されてきた視覚サーボ制御器では,目標値近傍での安定化のみしか考慮されておらず,目標値から遠く離れた初期値から制御を開始すると目標値とはまったく異なる方向に動いたり,目標値に到達する前に目標値とは異なる値に収束したりする.この問題の原因を解明するために,視覚サーボを特徴量偏差のノルムをポテンシャルとするポテンシャル最小化問題としてとらえ,ポテンシャル関数を特徴量の収束状況に応じて切り替える制御法を提案する.


■ 初期角運動量を有する劣駆動浮遊機械系の最短時間制御解の導出と解析

東工大・美多 勉,玄 相昊,中村文一,南 澤槿

 空中に浮遊中の動物やスラスターをもたない浮遊ロボットの姿勢制御は角運動量保存則から導かれる速度拘束をもつノンホロノミック制御問題として取り扱われる.この中でも高飛び込みや宙返り着地などの運動では空中に飛び出す前に初期角運動量をわざと与え浮遊中に回転力を発生するようにしている.われわれはこのような人間や動物の運動を解析したり,ロングジャンピングを行う走行ロボットを実現することを研究目的としてもっており,本論文ではそのための基本的な制御則を求めることを目的としている.

 この問題が取り扱いにくいのは,初期角運動量を持つ浮遊機械系の状態方程式はドリフト項のある劣駆動非線形系として記述され,しかも,絶対姿勢角に対応する状態変数が平衡点を持たないからである.

 この問題を軌道計画問題として定式化し,数値最適化によってその解を求める研究は従来から知られているが,数値解なので制御則実装時のパラメータ決定に困難を生じ,また,解の性質,たとえば,特異制御問題になっているか否か等がわからなかった.一方,浮遊機械系の姿勢制御問題では,残りの自由度を固定してしまうことを考えれば,初期角運動量が非零の場合には2自由度系が基本問題となる.

 そこで,本論文でも2自由度系を扱い,姿勢制御に関する最短時間制御問題を解析的に解いた.その結果,この問題は初期値によっては随伴変数が恒等的に零となる特異最適制御問題となること,バンバン制御の切り替え回数は特異制御が必要でない場合1回,特異制御が必要な場合2回が最適であること,などをまず示した.また,切り替え条件や最適時間の計算公式を求め,さらに,可制御条件に関しても考察した.最後に簡単な応用として,2リンク系に近似した高飛び込み時の姿勢制御問題のシミュレーションを行った.

 以上のような結果はこの分野の理論的基礎として貢献するものと考えられる.


■ 各レベルに定常環境をもつ可変階層構造学習オートマトンのための離散値型学習アルゴリズム

徳島大・最上義夫,大阪教育大・馬場則夫,徳島大・廣永哲也

 未知環境中において動作する大規模かつ複雑なシステムへの適用を目的とした学習オートマトンとして,学習オートマトンを木構造に組み合わせた階層構造学習オートマトンが注目されている.ある問題に階層構造学習オートマトンを適用するときにその出力となり得るもの,すなわち,問題の解となり得るものを学習目標と呼び,それらの集合を目標集合と呼ぶことにすると,従来行われてきた研究はいずれも,目標集合の要素が学習開始時にすべて与えられて確定しており,それらに対するreward(報酬)を与える確率のみが未知である場合について考察している.

 しかし,実際の問題に階層構造学習オートマトンを適用することを考えるとき,rewardを与える確率のみならず目標集合の要素数および内容もが未知であるような環境中において動作する階層構造学習オートマトンについても考察することが必要である.このような問題に対して最上らは可変階層構造学習オートマトンを提案し,その学習アルゴリズムを構築するとともに学習特性について考察したが,より高い実用性を求めるならば,より学習速度の速い可変階層構造学習アルゴリズムを構築することが重要になる.

 そこで本論文では,各レベルにP-モデル定常環境をもつ可変階層構造学習オートマトンについて考察し,そのときに生じる問題点を指摘する.そしてこの問題点を解決するためにrewardパラメータを導入し,DLR-IAlgorithmの概念に基づいて,このパラメータを組み込んだ可変階層構造学習アルゴリズムを構築するとともに,本可変階層構造学習アルゴリズムによって最良目標パスに到達する確率は1となることを理論的に示す.さらに数値シミュレーションによって,本学習アルゴリズムの有用性を検討する.


■ 車両間通信を用いた車両群の合流制御アルゴリズム

筑波大・宇野篤也,機械技研・阪口 健,加藤 晋,津川定之

 本論文では安全と効率の両立を目的として,車両間通信を用いた高速道路における合流制御アルゴリズムを提案している.合流制御は,他車線上を走行する車両を自車線上に投影して生成した仮想車両に対するロンジチューディナル制御により行われる.仮想車両の概念では合流路における合流と車線変更時の合流を同じアルゴリズムで扱うことが可能である.仮想車両を生成するためには車両間通信で送受したデータが必須で,ここで提案する車両間通信は,車両群間通信と車両群内通信の2種類から構成される.本論文では特にリングネットワークを利用した車両群内通信アルゴリズムについて詳しく考察した.このアルゴリズムは車両群の合流・分離時のネットワークの変化にも対応することができる.それぞれ5台の車両からなる2つの車両群の合流のシミュレーションと,3台の小型自律車両を用いた屋内実験を行った.3台の車両が設定車間距離で追従走行する実験と2台からなる車両群に1台の車両が合流する実験を行い,ここで提案した車両間通信に基づく合流制御アルゴリズムの有効性を確認した.


■ 衝突回避運動における自律移動ロボットによる教示情報の接地に関する一考察

名古屋工業研・井谷久博,名大・古橋 武

 本論文では,教示情報のロボットによる理解過程について言及する.ロボットが人間の教示情報を基にタスク環境内で行動し,ロボット自身が自らのセンサ情報を利用してタスク実行のための行動ルールを獲得することを,ロボットによる教示情報の理解と捉え,人間の教示情報を理解する自律移動ロボットシステムを提案する.本システムでは,遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm: GA)とファジィニューラルネットワーク(Fuzzy Neural Network: FNN)を用いて,教示情報に基づく自律移動ロボットの行動結果から,ロボット自身が自らのセンサ情報の選択を行い,それらの情報に基づいた行動ルールを獲得する.ステレオカメラとIRセンサを装備する自律移動ロボットが,人間から与えられた(ロボットにとっては)間接的な視覚に基づいた教示情報を基に障害物を回避しながら目標地点に到達するタスクを実行し,この結果からGAとFNNによりセンサ情報選択と行動ルールの獲得を行う.シミュレーションにより本手法の有効性を示す.


■ マルチエージェント系のポテンシャル関数による制御と強化学習の適用に関する検討

名古屋産業科学研・安田 真,名大・古橋 武名古屋産業科学研・橋山智訓,名大・大熊 繁

 エージェントの行動を人工的なポテンシャル関数によって制御する手法では,環境に適したポテンシャルの形状をいかに定めるかが問題であり,特に複雑な環境下ではエージェント設計段階での決定には困難が伴う.本論文では,マルチエージェント環境において,エージェント自身をポテンシャル関数で記述することを目標としている.このため,スカラーポテンシャル関数の勾配によりエージェントの行動を束縛し,かつ,同関数を規定するパラメータを強化学習(クラシファイア・システム)を用いて個々のエージェント自身に自律的に獲得させる手法について基礎検討を行った.追跡ゲームを用いた検証実験の結果,獲物を捕獲できるポテンシャルパラメータの獲得が可能なこと,さらに,2体のハンターエージェントが相互に制御し合い,協力して獲物を捕まえられるようなポテンシャル形状も得られることが確認された.


■ 非線形ダイナミクスをもつ部分系における情報の生成と伝達の評価

東工大・野澤孝之,三宅美博

 生物をはじめとする複雑な系を理解するうえで重要な点は,その系を孤立系でなく,相互作用の中の部分系として把えることである.そしてそこには相反する2つの傾向が見出される;1つは他の部分系からの作用に対する適応であり,他方はその作用からの逸脱である.一貫して協調的に振舞うとともに,発達や学習を通して自らを発展させる生物的な系にとって,これら2つの傾向の両立は本質的と考えられる.

 このような2つの相反する側面を特徴づけるものとして,力学系の情報生成および情報流れ率の理論的枠組が挙げられる.しかし,大きな自由度または強い複雑性をもつ系を分析しようとすると,この枠組の限界が明らかになる.情報流れ率の枠組は可能な状態すべてについての統計を同時に必要とし,その量は活性な自由度の数の増加に応じて,実質的に扱える範囲を越えて爆発的に増大するからである.

 この研究では,部分空間における近接発展とその分離という概念を提示し,それに基づいて上の枠組の限界を越える新たな手法を提案する.この手法によって,部分系のダイナミクスが生成する情報は,その部分系に固有な成分と,他の部分系との相互作用による成分とに分解され,ダイナミクスの中での部分系間の機能的結合を議論することが可能となる.


■ 味覚感度の一推定法とその高齢者と若年成人との比較への応用

徳島文理大・田渕敏明,古本奈奈代,清澄良策,小林郁典,森本滋郎

 加齢による老化の程度を,味覚後味の減弱特性(減衰特性)から簡便に定量的に把握する趣旨から,味覚感度を評価する1つの指標が提案される.また,この指標を用いて,酸味,苦味の2種類の基本味質に対して,若年成人と高齢者の味覚感度が推定される.

 技法の概要は,まず,味覚後味の減弱特性が線形2次系の過減衰応答の様相を呈することから,後味強度の時間進化が線形2次系でモデル化される.使用可能なデータ個数はわずか3個であり,このデータからモデルパラメータを推定するための手法が述べられる.つぎに,得られたパラメータ推定値をもとに,味覚感度を評価するための1つの指標が提案される.

 実験は2種類が行われている.1種類目は,年齢間で味覚感度の違いを見るために,若年成人と高齢者の2つのグループについて,苦味に対する味覚感度が計測されている.この結果,高齢者は若年成人の味覚感度に対して60%程度に落ちていることがわかった.2種類目は,味質間での味覚感度を見るために,年齢を若年成人に固定して,苦味,酸味の2種類の味質について味覚感度が計測されている.この結果,苦味の味覚感度は酸味のそれに対して90%程度に落ちることがわかった.


■ Quadratic Stability Conditions of Linear Systems with Frobenius Norm-Bounded Diagonal Perturbations

NAL・Yoshiro HAMADA, Univ. of Tokyo・Seiichi SHINKyushu Inst. of Tech.・Noboru SEBE

 This paper is concerned with quadratic stability of linear systems. The systems considered here have diagonally structured and Frobenius norm-bounded perturbations. An LMI-based quadratic stability condition for the systems is derived and a design method for the state feedback quadratic stabilizer is developed.


■ 最終スライディンクモードによるフレキシブルアームの制振制御

九工大・ウメルジャン サウット,花本剛士,辻 輝生

 産業用ロボットや宇宙空間で作業するマニピュレータや宇宙構造物などにおいて,作業の高速化や省エネルギー化および低コストを実現するためには,軽量化を行う必要があるが,その結果アームまたはビームがフレキシブルとなり,アームの弾性変形や位置制御時の弾性振動が無視できなくなるなどの問題が生じる.これは,位置制御と同時に振動抑制制御問題と考えられる.

 本研究では柔軟構造物のシステムとして,長さLのフレキシブルアームを考える.制御目的はモータによりこのアームの角位置を制御することおよびその際生じる振動の抑制を同時に達成させることである.通常モータ角位置のフィードバック制御だけではアームの振動を抑制できないため,筆者らは非線形オブザーバを用いたスライディングモード制御法を提案し,良好な結果を得た.ところが,制御対象のパラメータによってはスライディングモードにおいてチャタリングが発生したり,ノイズによる振動が無視できなくなる場合がある.さらに,設計パラメータの数が多いため最適な値を決定するのに時間を要した.そこで,本論文では,上述の問題を解決するために平滑関数を用いた最終スライディングモード制御器を設計し,実験にてその有効性を確認する.


■ ラグランジュ方程式の構造に着目したANNを用いたロボットアームの制御

東工大・山北昌毅,佐藤隆志,岩田高明

 ロボットマニピュレータの制御アルゴリズムにANN(人工ニューラルネットワーク)を用いるものがいくつか報告されている.また,そのなかでロボットマニピュレータの物理的構造を用いたものがいくつかある.しかし,本来ならばシステムの自由度の変化に応じてANNの構造も修正されるべきである.本論文ではANNの構造がシステムの自由度に依存しないアルゴリズムを提案し,シミュレーションおよび実験により他のいくつかのアルゴリズムと比較しその有効性を確認した.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会