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 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.36 No.10 (2000年10月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文] [ショート・ペーパー]
■ RBFネットワークを用いた非線形出力レギュレータの近似的設計法

宮崎大・横道政裕,北大・島 公脩

 出力レギュレーション問題はサーボ機構問題とも呼ばれ,外部システムと呼ばれる動的システムによって生成される参照軌道や外乱に対して閉ループ系の安定性を確保しながら出力の漸近的ゼロ化を達成する制御則を導出する問題である.制御対象が非線形システムである場合には,この問題の可解条件は,レギュレータ方程式と呼ばれる偏微分―代数方程式の可解性に帰着されることが知られている.しかし一般に偏微分−代数方程式の厳密解を求めることは容易ではなく,なんらかの近似解法を用いて近似解を求める必要がある.従来提案されてきたTaylor展開を用いた近似解法では動作点近傍では高精度の解を得ることができるが,動作点から離れた点においては近似精度が劣化してしまうという欠点を有している.

 本論文では,関数の近似能力に優れているRBF(動径基底関数)ネットワークを用いて近似解および制御則を導出する方法を提案する.RBFネットワークのパラメータを決定する方法としては,レギュレータ方程式の残差を評価関数として階層型ニューラルネットワークにおける誤差逆伝搬法と同様に確率的最急降下法を用いる.また,残差の計算には中間点則を用いた離散化を行うが,その際に生じる汎化性の低下を防ぐための方法を提案する.本手法を用いることによって,広い領域で一様に良好な近似が可能となることが期待される.

 提案した結果の有効性を確認するために,ball and beam systemの漸近的出力トラッキング制御問題に対して数値実験を行ったところ,近似精度および制御性能両方において良好な結果が得られた.


■ 最小L2感度をもつ線形連続時間システムの合成

広島大・雛元孝夫,井上卓也

 線形連続時間システムに対して最小L2感度を有する状態空間記述の最適合成法が提案されている.まず,L2ノルムのみを用いて線形連続時間システムにおけるL2感度が定義される.つぎに,線形連続時間システムのL2感度を評価するための評価関数が導出される.続いて,この評価関数を最小にする座標変換行列を求めるための逐次推定法が示される.最後に,数値例を通して提案された手法の有用性が検証される.


■ キネマティックGPSとカメラを用いた誘導路上での障害物検知

航技研・張替正敏,辻井利昭,村田正秋

 ヒューマンエラーの入らないタクシーガイダンスを目指して,誘導路上での精密位置決め能力をもった自動誘導システムの開発や,そのための航法精度要件の検討が行われている.しかし,タクシーガイダンスの自動化には自らの位置がわかるだけでは不十分で,衝突回避のための障害物情報も必要である.

 自律移動ロボットや先進安全自動車の分野では,距離画像から3次元情報を抽出することで障害物を認識する手法が一般的に行われている.距離画像を取得する方法としてはレーザレンジファインダとステレオ視が考えられるが,前者は空港でレーザを発射する際の危険性の問題があり,後者は視覚センサにはあらゆる局面に対応するのが困難だという問題がある.

 本研究では,非視覚センサも含めた複数の方式を統合し,場面に柔軟に適応可能な統合化センサシステムの開発が重要だという認識のもと,キネマティックGPSを統合化センサとして用い.その位置・姿勢データをカメラ画像データと情報融合させ,誘導路上の障害物を検知しその相対位置まで推定するアルゴリズムを提案する.これにより,自機の精密な位置を知るだけでなく,障害物検知の両方の能力をあわせもつタクシーガイダンス航法が実現でき,自律的な管制誘導が空港面内でも可能となる.


■ 階層型分類子システムを用いた注視点制御過程の計算論的モデル

日本ヒューレット・パッカード・吉見隆洋,神戸大・田浦俊春

 本研究では,複雑な環境における機械学習システムが,効率良く問題を解くことを目的とする.複雑な環境では,システムへの入力情報の量が多く,また階層化されていない.本研究では,入力情報のすべての特性(入力情報において意味をもつ単位)が常に問題解決に必要なわけではなく,したがって,特性の取捨選択が可能ならば問題解決の効率が上がると考えた.取捨選択を行うために,ある特性に焦点を当てる規則=注視点制御規則の存在を仮定した.分類子システムのDon't Care記号(#)は,この仮説の1つの実現方法であるが,1. 知識獲得のシミュレータとして見たとき特性の取捨選択の過程が明示的に理解されない,2. 異なる種類の入力情報を明示的に取り扱えない,3. 2つの最適化プロセスを同時に扱っているため,効率が悪化している可能性がある,といった問題がある.そこで本研究では,注視点制御規則を通常用いられる問題解決規則と分離し実装することで,これらの問題点の克服を試みた.注視点制御規則を利用した階層型分類子システムを試作し,簡単な経路探索問題を例題として取り上げ適用した.実行結果の定量的および定性的な比較を,標準的な分類子システムと行ったところ,先の問題点の観点から有効な結果を得たので,これを報告する.


■ 各レベルにS-model定常環境をもつ可変階層構造学習オートマトンのためのLR-1型学習アルゴリズム

徳島大・最上義夫,大阪教育大・馬場則夫,徳島大・谷 信広

 未知環境中において動作する大規模かつ複雑なシステムへの適用を目的として,学習オートマトンを木構造に組み合わせた階層構造学習オートマトンが注目されている.ある問題に階層構造学習オートマトンを適用するときにその出力となりうるもの,すなわち,問題の解となりうるものを学習目標と呼び,それらの集合を目標集合と呼ぶことにすると,従来行われてきた研究はいずれも,目標集合の要素が学習開始時にすべて与えられて確定しており,それらに対する報酬を与える確率のみが未知である場合について考察している.

 しかし,より広範囲の問題に階層構造学習オートマトンを適用することを考えるとき,報酬を与える確率のみならず目標集合の要素数および内容もが未知であるような環境中において動作する階層構造学習オートマトンについても考察することが重要である.このような問題に対して最上は全体入出力可変階層構造学習オートマトンを提案し,LR-I型学習アルゴリズムを構築するとともにその学習特性を明らかにしたが,より広範囲の実用性を求めるならば,各レベル入出力可変階層構造学習オートマトンについても考察することが必要である.

 そこで本論文では,各レベルにS-モデル定常環境をもつ可変階層構造学習オートマトンについて考察し,そのときに生じる問題点を指摘する.そしてこの問題点を解決するために報酬パラメータを導入し,SLR-Iアルゴリズムの概念に基づいて,このパラメータを組み込んだ可変階層構造学習アルゴリズムを構築するとともに,本可変階層構造学習アルゴリズムによって最良目標パスに到達する確率は1となることを理論的に示す.さらに数値シミュレーションによって,本学習アルゴリズムの有用性を検討する.


■ 化学振動子―力学結合系としての粘菌の環境適応モデル

東工大・赤羽 崇,三宅美博,東京電機大・山口陽子

 生物は,時間的・空間的に変化する動的な環境下において,一個体としての統合性を維持しつつ,しかも環境変動に柔軟に適応することができる.本研究は,粘菌の環境適応モデルを構築することを通して,このような生物的自律性のメカニズムを明らかにすることをめざしている.特に,粘菌変形体の走性現象に注目し,行動を伴いながら環境に適応することで生じる形態形成プロセスをモデル系として用いた.粘菌変形体は,その外質ゲル領域と,その中を流動する内質ゾル領域の相互作用として捉えることが可能であるが,本モデルでは,それを内質層,外質層,中間層からなる3層モデルとして構成した.特に,外質層は細胞内化学リズムを生じさせる化学系として,内質層は原形質流動を生じさせ形態を変化させる力学系として,そして,それらの間での相互作用を担う領域として中間層を構成した.このような化学振動子−力学結合系としてのダイナミクスを計算機シミュレーションによって調べることによって,それらの間での時間的階層性が明らかになった.化学系は環境変動にすみやかに対応するが,力学系は非常にゆっくりと変化し,このようなタイムスケジュールの違いの中で,環境への柔軟性と個体としての統合性が両立されていることが示唆されたのである.


■ 呼吸不全患者のための人工呼吸自動制御システム

室蘭工大・高原健爾,東医歯大・若松秀俊,宮里逸郎

 本研究の目的は,呼吸不全患者のためのより効果的な人工呼吸自動制御システムを構築することである.制御量として肺胞気炭酸ガス分圧および動脈血酸素飽和度を,制御入力として分時肺胞換気量および吸入気酸素分圧をそれぞれ選んだ.肺胞気炭酸ガス分圧は分時肺胞換気量を入力として,1入力1出力システムとして制御することができる.一方,動脈血酸素飽和度は,分時肺胞換気量と吸入気酸素分圧の積の項を含む2入力1出力非線形システムとして記述されるので,その制御は容易ではない.本研究では,分時肺胞換気量の動脈血酸素飽和度への寄与分をオフセット項としてとらえ,動脈血酸素飽和度の動特性を1入力1出力系と記述できると仮定し,制御系を設計した.肺胞気炭酸ガス分圧および動脈血酸素飽和度の制御系は適応極配置の方法を用いて設計した.安静時および,代謝量の変動時について,シミュレーションを行い,提案した制御系の有効性を確認した.また,得られた制御結果について,本研究者らが以前に提案した人工呼吸自動制御系の結果と比較し,より良好な結果であることを示した.


■ 実数値GAのための正規分布交叉の多数の親を用いた拡張法の提案

大学評価・学位授与機構・喜多 一,徳島大・小野 功,東工大・小林重信

 実数値遺伝的アルゴリズム(Real-coded Genetic Algorithms, RCGA)の交叉として小野らが提案した単峰性正規分布交叉(Unimodal Normal Distribution Crossover, UNDX)は多峰性や非分離性の関数の最適化において優秀な性能を示している.また筆者らはUNDXの理論解析を行い,UNDXが親集団の平均値や分散・共分散行列をよく継承する交叉であることを示し,これに基づき実数値GAにおける交叉について,いくつかの設計指針を提唱している.本論文ではUNDXの探索能力の向上をはかるため,UNDXを先に提唱した設計指針の観点から再検討し,多数の親を用いる交叉へと拡張した.UNDX-mと呼ばれる拡張された交叉は先に提案した設計指針に従ってその交叉則が導出される.数値実験により,UNDX-mとUNDXや既存の交叉手法であるブレンド交叉(BLX-α)などと比較し,その有効性を検討した.実験によりUNDX-mによる探索能力の向上が確認され,とりわけ座標系のスケールへの依存性を低減できることが示された.


■ スライディングモード制御による連続鋳造機の非定常操業時における湯面レベル制御系の改善

神戸製鋼・渡辺俊彦,大村佳也子,古川和寛,渡辺省三岡山大・小西正躬

 連続鋳造プロセスでは,鋳型内湯面レベルを高精度に制御することが鋳造品質向上のために必要である.また,高温の溶鋼を扱うため,トラブル時の損害は甚大であり,操業の安定化も重要な技術課題である.このため,従来から適応制御等のさまざまな制御技術が湯面レベル制御に適用され,実操業での制御性の改善が行われてきた.しかしながら,鋳造開始時等の非定常操業時における制御性改善の報告は少ない.

 本論文では,非定常操業時での制御性をさらに改善するため,スライディングモード制御を用いた湯面レベル制御器の設計と実機への適用結果について述べる.本研究の対象は,ストッパ方式の小断面の連続鋳造機である.ストッパアクチュエータは高内部品質の製品の鋳造に適しているが,流量特性が非線形で,溶損や介在物の付着等で特性が操業によっても変化する.この特性をモデル化し,スライディングモード制御器を設計した.本制御系を実機に適用し,外乱抑制性のテスト結果,連々鋳時の制御精度を示した.実機適用結果から外乱と特性変動に対する高いロバスト性が確認できた.また,特性変動・ばらつきが大きい鋳造開始時の自動制御への適用結果を示す.本制御系によると,安定して鋳造が開始でき,操業安定化の観点でも有効であることがわかった.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会