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 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.36 No.12 (2000年12月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文] [ショート・ペーパー]
■ 運動量保存則に基づく質量測定の研究―衝撃電磁力を利用した質量測定装置―

埼玉大・水野 毅,箕輪 淳

 宇宙空間のような無重力環境下での質量測定を目的として,運動量保存則に基づいた,新しい質量測定方法を提案している.提案する測定方法では,静止させた2物体間に反発力を発生させ,その後の各物体の移動速度を検出する.そして一方の質量を既知とし,運動量保存則を用いて,両者の速度比から未知の質量を推定する.実験では,反発力として,電磁プレス等に応用されている衝撃電磁力を使用した.また,物体を空気浮上させることによって摩擦力を軽減し,物体が等速直線運動できるような装置を試作した.

 そして,製作した装置を用いて実際に質量測定を実施し,提案する質量測定方法の有効性について検証を行った.


■ 遠隔計測画像の自動重ね合わせ手法の改良

法政大・山本貴弘,花泉 弘

 異なるセンサによって観測された遠隔計測画像間には,おのおののセンサがもつ特性が異なることによる空間分解能の違いや観測分光波長の違いなどが含まれている.これまで提案してきた遠隔計測画像の自動重ね合わせ手法(ARTSIM: Automated Registration meThod for Satellite IMages)では,画像間の空間的な相関を指標として対応点対を自動生成しているので,この手法をそのような画像に適用するにはまず分解能の違いを補正しなければならない.

 また,沿岸部など一方,陸域と海域が混在するような領域などで従来の空間的相関に基づく対応点対探索では十分に対応できないことへも対処する必要があった.

 そこで本研究では,画像間の空間分解能の違いの自動検出法,ヒストグラム形状の近さを指標として用いる対応点対探索法,および画像の階層構造を用いる対応点対探索の高速化法を提案し,併せてこれらの改良を行った新しい手法ARTSIM-IIを提案する.


■ 液体用超音波微小流量計のセンサ配置と流量特性

カイジョー・石川博朗,計量研・高本正樹カイジョー・清水和義,筑波大・文字秀明,松井剛一

 本研究は,小型の円板状超音波振動子を内径0.53mmの細管内を流れる微小液体流量の計測に利用し,試作した超音波流量計を用いて,最も重要な課題であるゼロ点の不安定要因および測定分解能(超音波の伝播時間分解能)について実験的に調べるとともに,その解決策を考案することにより,計測可能な流量の下限を求め,所望する液体用超音波微小流量計の実現可能性を調べることを目的として行われた.

 超音波流量計の校正を行うため,微小な基準流量を発生させる基準流量設定装置を製作し,この装置によって設定された基準流量を,電子天秤を用いた衡量法で校正した.超音波流量計の測定可能な下限流量は,ゼロ点の安定性と測定分解能によって決まるため,受信波形を相関法とゼロクロス法によって信号処理し,そのゼロ点の安定性と測定分解能を,比較,評価した.試作した超音波流量計は,再現性を見るため日時を変えて流量測定を行った.その結果,速度分布補正係数は,測定値の標準偏差から推定した範囲内となり,0.2mL/min以上で安定した流量計測が可能であることがわかった.したがって,従来,超音波流量計ではゼロ点の不安定性のため困難であった微小な流量域においても実用に供せる液体用超音波微小流量計が開発可能であることが示された.


■ ドライバの視聴覚認知に伴う負担度評価

豊田中研・大桑政幸,江部和俊,稲垣 大,土居俊一

 近年,カーナビゲーションシステムをはじめとする車載情報機器が普及し,今後ITS(高度道路交通システム)の進展に伴い,ドライバの視聴覚認知に伴う負担は増加の傾向にある.こうしたドライバの認知負担を正しく評価し,安全性を損なわない車載情報機器を開発することが重要な課題となっている.本報告では,ドライバの視聴覚認知に伴う負担度評価について,基本的な考え方を示すと共に,その考えをもとに構築したモデル実験装置による実験の結果を報告する.実験では,心理・行動指標から総合的な評価を行い,ドライバの認知負担度を定量的に捉えうることを明らかにした.


■ 周期性外乱補償のためのロバストプラグイン適応制御器の設計手法

慶大・宮本浩幸,大森浩充,佐野 昭

 産業界に存在する回転動力系の機械システムでは,設定された周波数をもつ周期性外乱が混入する場合が数多くある.そのような周期性外乱の除去を目的とした制御手法には,内部モデル原理に基づく手法と外部モデル原理に基づく手法がすでに提案されている.

 内部モデル原理に基づく手法では,漸近的な外乱除去を達成するためには,コントローラが外乱周波数に相当する複素極を有する必要がある.一方,外部モデル原理に基づく手法では,外乱モデルがもとのフィードバック制御系の外側に置かれるため,外乱除去のための制御器を配置するにあたり既存のフィードバック系を再構成する必要がない.プラグイン適応制御器(Plug-in Adaptive Controller, plug-in AC)は,このような外部モデル原理に基づいた構成になっており,現在その研究が進められている.本論文で述べるplug-in ACは,その設計法が最終的に内部モデル原理に基づいてはいるものの,制御系全体の構造は外部モデル原理による外乱除去アルゴリズムと酷似している.つまり,既存のフィードバック系に対して並列に外乱モデルを内部モデルとして有する補償器を独立に付加して,外乱除去を達成させようという方針である.その新たに付加させる補償器をplug-in ACという形で適応制御の枠組みで設計することにより,制御系の振幅や位相といった情報のオンライン同定を可能にする.

 筆者らは,すでに適応機構の線形時不変(Linear Time Invariant, LTI)表現を用いた構成法を提案しているが,本研究では制御対象にモデル化誤差が存在する場合を考慮し,最終的にロバストサーボ補償器の並列設計問題をplug-in ACの立場で実現する手法を提案する.


■ On the Closed-Loop Structure of H∞ Control Systems

Univ. of Tokyo・Shun USHIDA, Toshitomo OHBA,Hidenori KIMURA and Yasuaki OISHI

 In this paper, we show that the order of the closed-loop H∞ control systems using central controllers is determined by the sum of the numbers of stable invariant zeros of P12(s) and P21(s). This fact gives a sharp contrast with the LQG case where the order of the closed-loop system is always identical to that of the plant. Furthermore, using this result, we derive a new explicit form of the closed-loop transfer function of H∞ control systems based on the chain-scattering approach, which clarifies the fundamental structure of H∞ control systems.


■ 非線形DAE系に対する入出力線形化とオブザーバ

奈良先端大・山下 裕,西谷紘一,北大・島 公脩

 本論文では,微分・代数方程式で表わされた非線形系に対して,動的出力フィードバックを用いた厳密入出力線形化制御則の設計法を提案する.まず最初に,代数方程式を直接解くことなく,状態フィードバック入出力線形化を達成する方法について述べる.つぎに,linear-growth条件などの仮定のもとで,全系が安定であるようなオブザーバの設計法を提案する.そのオブザーバは,微分方程式にしたがう状態変数のほかに代数方程式によって決まる状態変数も同時に求めることができる.


■ 冗長蛇型ロボットの運動学モデルに基づいた制御とユニット設計

東工大・松野文俊,三菱重工・茂木一貴

 本論文では,車輪型蛇ロボットの運動学モデルに基づいた制御系の構成およびユニット設計を考える.初めに,可制御冗長システムを定義し,蛇ロボットシステムが可制御冗長となるための条件を導出する.その結果,蛇ロボットに対して,受動車輪を取り付けないリンクや,蛇のボディの形状を制御できる点(形状可制御点)を導入することにより蛇ロボットシステムが可制御冗長となることがわかる.冗長自由度を利用することで,メインタスクとしての蛇先頭の位置・姿勢制御および蛇のボディの形状制御以外に,サブタスクとして,特異姿勢回避や障害物回避などが可能となる.つぎに,ユニットの概念を導入し,ユニットを結合して構成される全体システムが可制御冗長となるための条件およびアクチュエータの数,冗長度,形状可制御点の数の関係を導く.また,ユニットに基づいたシステム設計法を提案する.

 最後に,シミュレーションによって提案した制御則の有効性を検証する.


■ 勾配法による反復学習制御とStable Inversionとの関連性について

京大・木下浩二,十河拓也,足立紀彦

 反復学習制御では,有限時間区間において試行の反復を行うことで,与えられた目標出力を実現する入力(望ましい入力)を得ている.これまでに数多くの理論的研究が報告されてきたが,本論文では,(a)出力の偏差やその微分等を因果的に処理する方法(以下,一般化PID型と呼ぶ),(b)出力の偏差を逆時間処理する方法(以下,共役型と呼ぶ),の2手法を扱う.

 一般化PID型学習制御では,試行の反復により望ましい入力を得ていることから,逆システムと密接な関係にある.したがって,非最小位相系に対しては不安定な零点の影響を受け,望ましい入力の大きさが時間の発展とともに増大してしまう.共役型学習制御においても,同様の現象が予測される.しかし,共役型学習制御により得られる望ましい入力は,従来型の逆システムで得られる望ましい入力とはまったく異なったものであり,むしろStable Inversionと密接な関係にあることが,シミュレーションを通して判明した.ここで,Stable Inversion とは因果的な逆と非因果的な逆を組み合わせることで,不安定な零点の影響を解消し,有界な望ましい入力を得るアルゴリズムである.

 そこで,本論文では,始めに学習制御とStable Inversionについて簡単に述べた後,共役型学習制御とStable Inversionとの関連性について理論的に考察する.両者の関連性を示すためには,試行時間区間を無限にとる必要がある.したがって,実際には試行を有限時間区間に打切る必要があるが,その打切りによる影響についても考察する.


■ 1入力1出力連続時間サーボ系における 諮∞/Deadbeat混合問題の一般化

東工大・田中 聡,東京電機大・古田勝久,東工大・三平満司

 近年,有限時間整定制御の設計法が延山らによって確立された.この制御器は,1つの制御対象に対して複数存在する.また,有限整定制御系はモデル化誤差がある場合,不安定になることがよくある.そこで,ロバスト性を向上させるために 諮∞ノルム制約条件を設定し,それを満たす制御器を設計する 諮∞/deadbeat混合問題の解法が延山や津村らによって提案されている.両者の方法はそれぞれ別のアプローチであり,有限時間整定する信号の構造も異なっている.

 本研究では,前者の2つの方法とは別のアプローチで 諮∞/deadbeat混合問題の制御器を求める手法を提案する.この制御法では,扱える有限時間整定信号の構造が前者の異なる2つの信号の構造を含んでいることが大きな特徴である.

 制御対象は1入力1出力系を考え,まず最初にステップ信号に対しての追従誤差を望みの時間内に整定させ,かつ,閉ループ系を内部安定とするために制御器が満たすべき拘束条件を考える.つぎに,この拘束条件をみたす制御器の中から与えられた 諮∞ノルム拘束条件をみたす制御器を設計する方法を示す.


■ 機能的電気刺激を用いた遠隔操縦システム

横河電機・村上龍太,TCM・長谷川清泰木更津高専・大橋太郎,東急建設・柳原好孝秋田大・大日方五郎,中山 淳,永作 清,島田洋一

 現在のバイラテラル制御では,遠隔操縦される機構またはロボットが対象物から受ける反力を,ロボットマニピュレータのようなアクチュエータを有する機構を介してオペレータに提示する方法が用いられているが,この方法では操作部の機構が大きく複雑になり,オペレータに拘束されている不快感を与えるなどの問題がある.

 本論文ではこの問題に対処するために,神経麻痺者の筋肉運動再建に用いられている機能的電気刺激の技術をバイラテラル制御に応用した新しい方法を提案する.この方法では,オペレータの操作部は,通常のジョイスティックと筋肉を電気刺激するための皮膚表面に接触させた小さく柔軟な電極だけで構成され,いままでのバイラテラル制御における操作部の問題点は解決されている.新しい方法を用いるには電気刺激によって人工的に発生させた筋力をオペレータが反力として認識するかを検証する必要があるが,本論文では実験によりこの点を実証している.

 電気刺激された手で操作するジョイスティックをマスタとし,ミニパワーショベルをスレーブとする遠隔操縦システムを開発し,提案した新しい方法を適用した実験結果についても述べ,提案した方法の有効性を示している.本システムの使用によって,特に有用と考えられる主な点は,拘束感が少なく長時間使用が可能となることや反力提示部が比較的簡単で携帯性に適していることなどが上げられる.


■ 自動化システムに対する信頼感の推移:誤動作発生パターンへの依存性

自動車研・安部原也,電通大・伊藤 誠,田中健次

 本論文では,自動化システムに対する人間の信頼感(trust)に影響を及ぼす要因が,システムの信頼度だけではなく,そのシステムにおける誤動作の発生パターンにもあることを明らかにしている.これまでも,システムの誤動作の発生がtrustを低下させることや,自動化システムの信頼性によってtrustのレベルが異なることは示されてきた.これに対し本論文では,trustの推移への影響が,同じ故障率のシステムに対しても故障のパターンによって異なると考え,trustの推移の違いを解析し,つぎの2点を得た.(1)自動化システムの誤動作が,間隔を空けて離散的に発生する場合にはtrustに大きな影響を与えないが,連続的に発生する場合にはtrustを大きく低下させる.さらに,(2)同じ回数の連続誤動作であっても,システムに対するオペレーション経験の浅いオペレータは,連続誤動作によってtrustのゆらぎが大きく回復に時間がかかる.一方,経験が豊富なオペレータの場合trustへの影響が一時的であり長引かない.これらの結果は,高度な信頼性を有するシステムでも故障の発生状況によってはtrustが損なわれる可能性があることを指摘している.


■ パーソナルコンピュータ上での読唇システムの実時間実現

鳥取大・菅原一孔,ミノルタ・新地俊幹鳥取大・岸野 誠,小西亮介

 高雑音下での音声認識の1つの手段として,人がもつ読唇の能力を汎用のパーソナルコンピュータ上で実時間実現するシステムを提案した.実時間で動作する読唇システムを実現するためには,動画像から高速で唇形状の動きを抽出する必要がある.提案システムではこの問題を,振動項をもつ動的輪郭モデルを利用することで解決した.振動項をもつ動的輪郭モデルは,先に筆者らが提案したものであるが,本システムではそのさらなる高速化を行うことで,読唇システムを実現できた.また単語発話区間の自動抽出も,画像データのみに基づいて行う手法を提案した.最後に,抽出された唇形状の動きを表わす認識用パラメータを提案し,これに基づきHMMにより認識実験を行った.実験では高雑音環境の例として駅の構内を設定し,10の駅名について認識実験を行い,良好な認識結果を得ることができた.


■ 自律分散型超高層ビル内搬送システムのためのエージェント間協調手法の検討

東工大・小森谷良明,NIAD・喜多 一フジテック・マルコン シャンドル,阪工大・西川●一

 ビル内の垂直方向の交通にはもっぱらエレベータが用いられているが,超高層ビルではエレベータがビルの床面積の大きな部分を占めることや,交通に要する時間のために労働力が消費されることなどから輸送費用が大きなものとなっている.筆者らはビル内の輸送費用の削減のため,人の輸送と物品の搬送の分離を提案し,AGV と専用エレベータからなる物品の自動搬送システムを提案している.本論文ではこの搬送システムの制御戦略について検討した.制御戦略として自律分散システムの概念を導入し,マルチエージェント型の制御を適用した.その際,最も重要であるエージェント間の協調手法として契約ネットプロトコルを適用し,ニューラルネットワークによる搬送時間の予測と遺伝的アルゴリズムによる契約ネットプロトコルにおける入札評価基準の最適化によりシステムの運用の効率化を実現した.


■ 交叉の設計指針に基づくUNDXの拡張: ENDXの提案と評価

東工大・木村周平,徳島大・小野 功NIAD・喜多 一,東工大・小林重信

 実数値GAの交叉オペレータであるUNDX(単峰性正規分布交叉)は,多峰性関数最適化や変数間の依存関係が非常に強い関数最適化において良好な探索性能を示す.しかしUNDXの探索性能は変数ごとにスケールが悪い関数では悪化する.喜多らは交叉を設計するための指針を提案した.UNDX-mやSPXはその交叉の設計指針に基づいて設計された交叉オペレータである.これらは変数間の依存関係が強い関数や変数ごとにスケールが悪い関数において良好な探索性能を示す.しかし多峰性関数での性能はUNDXに劣る.本論文では交叉の設計指針に基づいてUNDXを拡張した交叉:ENDXを提案する.実験結果はENDXが多峰性関数,変数間の依存関係が強い関数,変数ごとのスケールが悪い関数において良好な探索性能をもつことを示している.考察において交叉の設計指針の必要性を検証する.ENDXに対しては,子個体の多様性と,親個体から子個体への形質遺伝性との間のトレードオフが必要である.


■ PHSホームアンテナの活用による痴呆症老人の徘徊初期段階検知システム

湘南工科大・保坂良資

 PHSは,わが国における利便性が高い移動通信メディアである.しかしその端末装置の出力は10mWと小さいため,屋内では使用できない.家屋内では,この通信状況を保持するため,リピータとしてホームアンテナが利用されている.その出力も10mW以下と小さいため,運用範囲は家屋の周囲にとどまる.もしもPHS端末装置を用いた小型マーカを携帯した徘徊老人が屋外に進出すれば,ホームアンテナの運用範囲からも進出する.PHS通信網は常に各端末装置を認識している.もしも端末装置が運用範囲から進出すると,通信網はそれを見失う.これの検知からまもなく通常回線を通じて警告を与えることができれば,老人の家族は家屋の周辺でその老人を確保できる.本論文では,ホームアンテナの運用範囲が計測された.ここでは,2種類の計測実験を行った.最初の実験はPHS端末装置を地上高2cmに置いたものである.後者はそれを100cmに置いたものである.前者は履き物の踵部へ小型マーカを実装する場合を想定したものである.後者は,同マーカを腰ベルト部へ実装することを想定したものである.実験結果より,この徘徊老人向け検知システムの有用性が示された.双方の結果において,ホームアンテナの運用範囲は50mに満たないため,老人の徘徊の初期段階で,警告により家族は老人の徘徊を検知できる.


■ 確率Riccati代数方程式の数値解法

宮崎大・河野通夫,中井政樹,横道政裕

 確率Riccati代数方程式は,状態依存性ノイズのある確率的最適制御や線形上界に基づくギャランティードコスト制御において現れる方程式である.本稿では,Kleinmanのアルゴリズムを確率Riccati代数方程式の場合に拡張したアルゴリズムを提案している.初期値に一般化Lyapunov方程式の解を用いれば,このアルゴリズムが収束することを証明し,数値例によってその有用性を示している.


■ 低域通過逆システムの一設計法―H∞ノルムの観点から―

航技研・佐藤昌之

 微分器を必要としない低域通過逆システムは,現実的な逆システムであると考えられ,従来から研究されている.また,以前は設計できなかった,開右半平面に不変零点が存在するシステムに対する設計法も提案されるなど,より広い範囲の問題にも適用できるようになっているが,虚軸上に不変零点を有するシステムに対しては,適用できなかった.

 本稿は,H∞ノルムを用いて,従来の低域通過逆システムを包含する低域通過型の逆システムを提案する.また,この逆システムの設計問題では,実用上問題ない程度の非干渉化が可能であり,その存在条件がLinear Matrix Inequalities(LMIs)によって表わされることを示す.最後に,従来では設計できなかった,虚軸上に不変零点を有するシステムに対しても適用可能であることを,例題にて確認する.


■ 変圧・貫流ボイラの多変数制御シミュレーション

バブコック日立・田沼正也,沖村仁志,芝田健二,川瀬隆世

 火力発電プラントの中間負荷運用に伴い,電力需要の日間変動つまり負荷変化への良好な追従特性が発電用ボイラに要求され,多方面から研究が行われている.それらの多くは,ボイラの遅い応答特性を補償するFFC(Feed Forward Control)と外乱やFFC誤差を補正するFBC(Feed Back Control)とからなるFFC/FBCを基本的な制御系の構成としているが,電力需要や周波数制御による複雑な負荷指令に対応するためのFFCの設計や調整に工夫を要している.一方,最近のPC(Personal Computer)の飛躍的な性能向上により複雑な非線形ボイラモデルの実時間解析が可能になり,ボイラ数式モデルを用いて内部状態を推定し等価的に状態フィードバック制御を行う多変数制御系もその実現性が高まってきた.本論文では,負荷に対する非線形性が大きい変圧・貫流ボイラの多変数フィードバック制御系を提案し,その負荷追従制御性能を準状態変数法をベースにしたブロック線図シミュレータXsimを用いて検証した.まず,線形フィードバック制御系の頑健性を制御系内部のボイラ数式モデルに誤差がなく内部状態が正確に推定できると仮定したシミュレーションにより確認した.つぎに,制御に用いる実用的なボイラ数式モデルとして非線形性を保持しかつチューニングが容易な部分モデルを提案し,シミュレーションによりその妥当性を検証した.


■ 空気圧シリコーンゴムシートを用いた触覚情報呈示装置の開発

岡山大・則次俊郎,筒井慎吾

 人工現実感を実現する1つの方法として触覚ディスプレイが注目され,触感を呈示するための種々のデバイスが開発されている.しかし,従来の研究では対象物表面の接触感覚の呈示に主眼が置かれ,言語情報や幾何学情報の呈示を目的とした触覚呈示装置の研究は少ない.本研究では,定量的な情報を呈示でき,また,人間に対する安全性を確保するため柔軟な呈示装置を開発する.そのための1つの方法として,シリコーンゴムを素材とし,空気圧で駆動される触覚情報呈示装置を提案する.

 触覚情報呈示において呈示情報と認知情報との間に大きな誤差が存在し,誤差の程度には個人差が存在する.この問題を解決するためにニューラルネットワークを用いた触覚情報呈示システムを構築し,呈示情報と認知情報の二乗誤差を減少させることを試みる.このシステムを用いて線分の中点位置,長さ,傾き角度の情報呈示を行い,システムの有効性を検証する.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会