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論文集コーナー


論文集抄録

〈Vol.34 No.8 (1998年8月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


一覧


[論  文]

■ 小麦粉中間製品の粒子アスペクト比同定に基づく累積重量50パーセント粒子径簡易計測法

広島工大・北山正文,佐竹製作所・保坂幸男,広島工大・廻田恵司

 筆者らが現在までに提案してきた微粉体粒度分布簡易計測法は,小麦の破砕粉体である微粉体の粒度分布を人間が手にとって視覚的,経験的に行っている計測を,高速にオンラインで計測することを目標としている.したがって,粉体の大きさを,流れ方向長さのみから推計している.本論文では,この流れ方向長さが,粒子の形状に大きく関係していることを予想し,微粉体投影像を,いくつかの基本的モデルに近似できるかどうかということに着目し,評価した.さらに,今回,実験に用いた小麦の破砕粉体では,最適な投影粉体モデルは,楕円モデルに近いことが確認できた.また,流れ方向長さと微粉体投影像の形状との関係を,定量的に関係つけることもできた.以上の結果を受け,流れ方向長さと粉体投影像の等価円直径を結びつけるための重み係数を,適当な長径短径比の楕円モデルを用いることにより決定して,累積重量50%粒子径計測する方法を提案することにした.


■ 学習ベクトル量子化を用いた水晶発振子式化学センサ応答のパターン認識

NTT・中村雅之,杉本岩雄,桑野博喜

 本稿では水晶発振子式化学センサの応答モデルについて考察し,学習ベクトル量子化によって化学センサの応答パターンを認識しガス判別するシステムについて報告する.水晶発振子の表面に感応膜をコーティングしたものは,感応膜に化合物分子が吸着するとその質量変化により発振周波数が減少するため,化学センサとして機能する.このセンサの過渡応答には感応膜への化合物分子の吸着・拡散過程を反映した情報が含まれている.このセンサの応答モデルを構築できればそのパラメータを引き出すことによって化合物の判別を行う化学センシングシステムが可能になる.ここでは化学センサ応答の特徴抽出として逐次センサ応答モデルのパラメータを推定することによってパターンベクトルを形成し,学習ベクトル量子化によってリアルタイムでパターンベクトルのマッチングを行うシステムについて述べる.学習ベクトル量子化の高速な学習,判別による高精度なガス化合物判別結果を示す.


■ 距離計測システムにおける,大深度測定化と高分解能化の両立

松下電器・伊藤正弥,砂川義隆,西井完治,濱野誠司,野村 剛

 クレイモデルや金型等の大きな被測定物を,非接触・高速・高精度に計測したいという要望が増えている.これまで,このような計測には,三角測量法が多く用いられてきた.しかし,従来の三角測量法には,以下のような欠点があった.

1) 大深度測定化と高分解能化の両立が困難.

2) 被測定物の位置と撮像素子により検出されるビーム位置との関係は双曲線で表わされる非線形性を有しているため高精度化が困難.

 そこで,本論文では,上記欠点を克服し,大きな被測定物を精度良く,距離計測することを目指し以下の結論を得た.

1) 円錐レンズを用いることにより,250mmにわたって,ビーム径15 μm以下の照明光を実現した.

2) 微分処理を用いた画像処理により,測定深度100mmにわたって,分解能7 μm以下を実現した.

3) 分割領域ごとの双曲線を用いたカーブフィティングにより,測定深度100mm,測定幅60mmにわたって,平板計測精度21 μm以下,絶対精度5 μm以下を実現した.


■ 隠れマルコフモデルに基づく人間の技能の獲得

名大・板橋界児,大宇高等技術研究院・Sehoon Yea,名大・鈴木達也,大熊 繁

 インピーダンス制御をある作業に適用する場合,その作業を実現するために与えるべき,適切なインピーダンスパラメータを決定することは非常に重要である.ここで,インピーダンス制御と人間の手先の制御の類似性から,もし人間の教示データをもとに人間の技能の特徴としてインピーダンスパラメータを抽出できるならば,それらを用いることは妥当である.しかし,人間から得られるデータにはどうしても時間的あるいは空間的なばらつきが存在する.これらのばらつきを吸収し本質的なモデルを構築する手法として,隠れマルコフモデル(HMM)によるモデル化が挙げられる.HMMは状態遷移と出力がそれぞれ確率で記述される二重の確率モデルであり,人間に起因するような時間的あるいは空間的なばらつきを含む時系列データの確率的な表現が可能である.本論文では,人間が実際に作業を行った際に観測されたデータをもとに人間の用いたインピーダンスパラメータ系列を同定しHMMでモデル化することによって,人間の作業技能を表現する本質的な離散モデルを構築することを目的とする.さらに,得られたモデルをロボット制御と技能の評価に応用する手法について提案する.


■ 3次元形状測定高速化のための「領域分割式マルチスリット光符号化法」の提案

岡山大・馬場 充,小西忠孝,三井造船・小川慎太郎,パイオニア・岩井美貴子

 本研究では,3次元形状を高速に測定するために「領域分割式マルチスリット光符号化法」と名付けた新しいマルチスリット光の符号化法を提案した.提案した方法の原理はレンズにより測定空間を直接符号化して高速化を図った点に点に特徴がある.具体的には,複数のレンズを用いて測定対象をスリット光の本数に等しい数の測定領域に分割し,各領域でスリット光と画像センサを1対1に対応させることでこの原理を実現した.この方法の利点は,スリット光そのものに識別情報を埋め込まなくともそれぞれのスリット光が判別できるので,復号処理が原理的に不要になり,高速測定が可能になることにある.さらに本研究では,光線追跡法を用いた幾何光学解析により,提案した領域分割式マルチスリット光投光法を実現するために絞りと遮光マスクを用いた光学的手段を提案した.また,奥行き方向の測定範囲を拡大するために補助スリット光の考え方を導入した.この方法は,主スリット光と投光角度を変えた補助スリット光を投光し,両者の組合せから主スリット光の奥行き方向での存在範囲を限定することで,高速性を維持しながら奥行き方向の測定可能範囲を拡大することが可能になる.そして,提案した符号化法を実験により確認した.領域分割によることの符号化の有効性と補助スリット光投光による測定可能範囲の拡大効果をそれぞれ実験的に実証した.さらに,本提案原理に基づき3次元形状測定実験を行い,測定に際してなんら本質的な問題のないことを確認した.


■ 収束発散光2光束レーザ干渉計を用いた粒子径測定

兵庫県立工業技術センター・北川洋一,松本哲也,神戸市立高専・林 昭博

 収束光と発散光により構成した2光束レーザー干渉計を用いた粒子径測定法を提案する.2つのレーザービームを交差させた領域に粒子が存在する場合,散乱光が干渉することにより干渉縞が生じる.この干渉縞は,粒子の移動に伴って移動する.照射光に収束光と発散光を用いる場合,粒子の位置によって入射する波面の曲率半径が変わる.このため,干渉縞は粒子の移動に伴って縞間隔すなわち空間周波数も変化する.ここで提案する測定方法は,粒子の移動に伴う干渉縞の空間周波数の変化率が粒子径に依存していることを利用して粒子径を求める方法であり,照射光の強度,偏光などの影響を受けない,測定範囲の設定が容易であるという特徴を有している.測定原理を示すとともに,本測定法の動作を確認するためにガラス球を用いて行った粒子径測定の実験結果を示す.また,粒子の通過位置により生じる測定誤差について検討した結果を示す.


■ マルチガスセンサとプロダクションシステムを用いた室内空気汚染ガスの検知システム

金沢大・広林茂樹,木村春彦,南保英孝,坂森 智,大藪多可志

 室内環境汚染度を定量的に計測するため,6つのガスセンサから各出力信号を観測し,単一ガス(7種),複合ガス(1種)計8種類の認知実験を試みた.本論文では,各ガスごとに独立した認知ルールを設けた.反応媒質に対し6つのセンサ出力値をベクトル化し,6次元ベクトル空間でガスごとに判定領域を定め入力信号に対しガスごとの認知と簡易的な濃度指標値を算出した.その結果,6次元ベクトル空間では8つの判定領域はほぼ独立して存在することがわかった.また,判定実験では定常出力に近い低濃度域でわずかな判定ミスが確認されるものの,濃度指標値から判定を補える情報が得られることがわかった.濃度補正を与えない認知率は99.9%であり,濃度補正を考慮するとほぼ100%の認知率が得られる可能性を示した.


■ 非線形H∞出力フィードバックを用いたロボット系の制御

東工大・能方研爾,古田勝久

 本研究ではロボットシステムにおける非線形H∞制御問題を扱う.ロボットシステムにおける非線形H∞状態フィードバック解はすでにB.S. Chenらによって導出されており,この中でChenらはロボットの物理的構造を利用しハミルトン・ヤコビ不等式の非線形解を導出している.

 本研究ではこの結果を踏襲し,さらに速度情報が得られない場合の出力フィードバック問題への拡張を行う.まず本論文では,Chenらのロボット系に対する非線形H∞状態フィードバック解をIsidoriらの提案する微分ゲーム的手法を用いて導出し,Chenらに比べより簡潔な導出を提案する.さらに,同様の手法を位置情報のみの出力フィードバック問題に拡張し,その局所解を求める.

 最後に,2リンクマニピュレータのシミュレーションモデルを用いて計算機シミュレーションを行う.この中では,本論文で提案する位置情報のみの出力フィードバック解が適当な外乱低減化レベルγの設定によってChenらの状態フィードバックと同等の性能を発揮することを示す.


■ 電力系統におけるスライディングモード制御の到達条件

新潟大・横山和哉,新潟工科大・貝津弘幸,新潟大・菊池久和

 本論文は,電力系統における移相器のスライディングモード制御法を提案し,スライディングモードの発生する存在条件および切換え線への到達条件を与えた.まず,線形化モデルに基づいて非線形特性を考慮する一方法を与えた.電力系統における非線形特性は,おもに発電機の相差角と電気出力の関係を表わし,系統に擾乱が生じた場合発電機の相差角が変動する.よって,その特性を非線形関数を直線近似したときの傾きに関する係数のパラメータ変動として表わし,このモデルを用いて存在条件を導出した.つぎに,到達条件については制御開始時の系統状態(初期値)をリアプノフ関数により評価し,その評価が漸近安定性定理を満足するように制御利得を選定することで到達条件を与えた.このとき,初期値が安定限界に直接関わる領域に存在する場合と,それ以外の領域に存在する場合とに分け,より効率的に到達条件を導出した.本文では,一機無限大母線系統の事故時を例に数値シミュレーションを行い,本移相器制御を行わない場合不安定となるケースに対して本制御の有効性について考察した.その結果,到達条件を満たすように本移相器制御を開始すれば,系の解軌道は切換え線に到達しスライディングモードが発生することを確認した.


■ 2台のマニピュレータの協調動作経路計画

九大・毛利 彰,平野 剛,山本元司

 複数台マニピュレータの動作計画に関する従来の研究には,複数台マニピュレータの最適力分配問題や,複数台のマニピュレータが共通の物体を把持し与えられた経路に沿って動かす場合の軌道計画問題などがある.これらの研究では経路があらかじめ指定されることが多いが,作業を効率良く行わせるためにはそれぞれに適した経路を考える必要がある.

 本論文では一方のマニピュレータが対象物をしっかりと把持し,他方のマニピュレータが手先上のツールで対象物に対して与えられた作業を行う場合について述べる.ここではマニピュレータ手先の拘束条件として対象物上でのツールの動きのみを与え,各マニピュレータは任意の位置姿勢を取り得るものとする.この場合マニピュレータの作業空間が重複することになるので,環境との衝突だけでなくマニピュレータ同士の衝突も考慮しなければならない.そこで,2台のマニピュレータの協調的な動きに加えて衝突回避をも考慮に入れた動作を計画する方法について述べる.


■ 入出力雑音を受ける場合のMSEに基づくモデル次数の決定法

慶大・辛 景民,大森浩充,佐野 昭

 入出力観測信号に観測雑音が存在する場合,真の次数よりも大きな次数の過決定モデルを利用した修正最小二乗(CLS)推定では,得られたモデルは真の極の推定値のほかに零点でキャンセルされるべき外来の極をもつことになり,これが不安定なモデルが得られる原因の1つとなる.また次数が正しく判定されない場合には数値的にも不安定となりやすい.本論文では,入出力雑音の存在下における伝達関数モデルの同定において,2つの雑音分散が未知のとき,モデル次数をパラメータのCLS推定値の平均二乗誤差(MSE)最小化の立場から決定するための新しいアプローチを提案する.特に,過決定モデルを利用したCLS推定に複数個の正則化定数を導入し,正則化CLS推定値のMSEを最小にする入出力データの共分散行列の固有値の打ち切り問題と伝達関数モデルの次数判定との関係を明らかにする.しかし,本論文の場合には,入出力観測信号に雑音が存在するため,入出力雑音の4次モーメントまで考慮に入れて,正則化CLS推定値の漸近的なMSEを評価しなければならない.さらに,このMSEを最小にする最適な正則化定数が解析的に求められ,これより対応する分散行列の固有値との大小関係によってモデル次数を決定できるという原理を明らかにする.最後に,正則化定数と2つ雑音分散の決定が互いに関連することから,真値を使用せず入出力データのみを用いてモデル次数と雑音分散を同時に求める反復的な計算法を与え,その有効性を検討する.


■ On Quadratic Hurwitz Stability of Interval Polynomials

京都工芸大・Takehiro Mori,Hideki Kokame

 本論文は,区間多項式の二次安定性について考察したものである.まず,区間多項式のHurwitz 安定性に関するKharitonovの(弱)定理との類推により,多項式係数空間における二次安定性に関連した2つの推測を提示した.つぎに,二次の区間多項式を対象にして二次安定性とHurwitz安定性の相互関係に関する結果を導き,これらの推測の当否を明らかにした.得られた結果は,多項式係数空間における二次Hurwitz安定性の基本的性質を暗示している.同空間において得られた結果がもたらす意味を,すでに知られている諸事実との対比で詳しく議論した.


■ 有界な観測外乱を伴う系に対する多変数EMM系の一構成法

大阪工大・加瀬 渡,上智大・武藤康彦

 一入出力系において,オブザーバ多項式の次数を上げることによって制御系の自由度を増し,これを利用した観測ノイズを低減化する手法が著者の1人によって発表されている.この方法は,制御対象のマルコフパラメータを利用したEMM系の構成法を発展させたものであり,これをそのまま MIMO 系に応用することも可能である.しかしながら,若干遠回りな議論が必要となる.一方で,Diophantine方程式の解の自由度を比較的簡単な形で与えた研究がもう1人の著者によってなされている.この方法は,制御対象の状態空間表現を利用したものであり,マルコフパラメータを利用したEMM系の構成法と密接に関係している.本研究では,これら2つの研究を組み合わせた方法を考える.ここで,ノイズが出力に与える影響を再検討することにより,本手法が観測ノイズの影響ばかりでなく,有界外乱であってもこれを低減化するEMM系が設計できることを示す.


■ 天井走行クレーンのモデリングと最適制御

近畿大・坂和愛幸

 3次元運動をする天井走行クレーンの運動方程式からその非線形状態方程式モデルをまず導いた.それに基づいて,負荷の移行中の荷振れを最小にしかつ指定された終端条件を満足するような最適制御を計算している.最適制御の計算には坂和-新藤アルゴリズムを用いた.このアルゴリズムはポントリャーギンの最大原理に依拠して導かれ,繰返し計算ごとにコスト関数の値が単調に減少することが保証されている.

 クレーンの最適制御は特異制御となるが,コスト関数の値は急速に減少し,かつ与えられた終端条件を満足するようになる.計算の繰返しごとのコスト関数の値とパラメータの変動を示し,最適制御および最適軌道のパターンを示している.


■ 一般的な非線形系に対するモデル追従形制御系の一設計法

山形大・田中正行,大久保重範

 本稿では,内部状態および制御入力について非線形であるような一般的な非線形制御対象に対して,内部状態が有界なモデル追従形制御系を設計する.本設計法のポイントは,内部状態と制御入力を含んだ新たな状態を定義することにより,新たな制御入力に対して形式的に線形とすることである.さらに,設計関数を定義し,制御系全体の非線形関数の内積条件およびノルム条件を満足するように決める.これにより,本設計法に適用可能な制御対象は大幅に拡張させる.内部状態の有界性は,制御則を構成するのに必要な状態変数フィルタを含めた全状態方程式を求め,これの2次形式の微分を調べることにより示される.つぎの5つの条件が満たされれば,内部状態は有界になる.1. 制御対象の非線形関数を入力で偏微分し,入出力行列をかけると定数行列になる.2. 形式的に誘導した線形部の不変零点多項式は安定である.3. 制御系全体の伝達関数は正実である.4. 制御系全体の非線形関数は内積条件を満足する.5. 制御系全体の非線形関数はノルム条件を満足する.遺伝的アルゴリズムを使い,1から5の条件を満足するように設計パラメータを探索し,また4,5の条件を満足するように設計関数を決める.


■ A Hybrid Quasi-ARMAX Modeling Scheme for Identification of Nonlinear Systems

九大・Jinglu Hu,九工大・Kousuke Kumamaru,Katsuhiro Inoue,九大・Kotaro Hirasawa

   This paper proposes a hybrid quasi-ARMAX modeling and identification scheme for nonlinear systems. The idea is to incorporate a group of certain nonlinear nonparametric models (NNMs) into a linear ARMAX structure. Particular effort is made to find a better compromise to the trade-off between the model flexibility and the model simplicity by using knowledge information efficiently. As the result, we obtain a model equipped with a linear ARMAX structure, flexibility and simplicity. The effectiveness and usefulness of the proposed hybrid model are examined by applying it to identification of a variety of nonlinear systems.


■ テイラー展開を利用した非最小位相系に対するモデル追従制御系

大阪工大・加瀬 渡

 本論文では,閉ループ系の安定性は極配置に基づいて保証し,前置補償部分で追従特性を向上させるモデル追従制御系を考える.完全な追従を達成するためには,伝達関数の分子多項式の逆数を前置補償器とすればよいのであるが,分子多項式が不安定零点を有する場合には前置補償器自身が不安定となる.そこで,本論文ではこの逆数を適当な次数の多項式を利用して近似する.これは,基本的には最小2乗近似を利用する方法と同様の補償法であるが,本論文では近似のために,解析関数のテイラー展開を利用する.この方法は展開する点を適当に選ぶことにより連続時間系に対しても適用できる.特に,原点での展開は先に報告した結果と一致する.


■ パラメトリックな不確かさをもつ伝達関数型最小モデル集合の同定と検証・更新

阪大・長棟亮三,山本 茂,東大・木村英紀

 制御系設計においてロバスト制御理論を用いる場合,実プラントの特性を十分に反映した数式モデルの集合(モデル集合)が不可欠となる.ロバスト制御理論の発展により,「モデル集合を実プラントからいかに作るか」という問題が,近年注目を集めている.本論文の目的は,そのモデル集合を求めるための同定法と,モデル集合の信頼性を向上させるための検証・更新法を提案することである.扱うモデル集合は,パラメータに∞-ノルム有界な時変な不確かさをもつ単一入出力・離散時間系伝達関数型最小モデル集合である.すべての問題は,パラメータ空間内の距離の概念を用いて定式化される.同定問題と更新問題は,数値的に可解な凸最適化問題に帰着できることを示し,検証問題は,パラメータ空間内の距離の比較問題になることを示す.また,特別な場合には,モデル集合の更新問題の解が,陽に与えられることも示す.これらの結果を用いて,モデル集合の検証・更新アルゴリズムを,オフライン・オンラインのそれぞれの場合に対して提案する.


■ 入力ノイズを伴う系に対する極配置制御系の一構成法

大阪工大・加瀬 渡

 最近,オブザーバの特性多項式の次数を低次元オブザーバの次元よりも大きくとることで制御器の自由度を増し,それを利用して観測ノイズの影響を小さくする設計手法が提案されている.ノイズを考慮した設計法には,カルマンフィルタやノイズを外乱ととらえた場合のH∞制御がある.これらの方法では,オンライン処理を考えたとき,Riccati方程式の求解に繰返し計算が必要であるのに対し,制御器の自由度を増す方法は演算量の少ない計算で実行できる.つまり,オンラインで制御器を計算する必要のある適応制御に特に有効であると思われる.しかしながら,この方法は入力ノイズを伴う系や非最小位相系に対しては適用することができないので,より一般的な方法を開発する必要がある.

 本論文では,非最小位相系に対しても適用できる入力ノイズを考慮した極配置制御系の構成法を提案する.方法としては,従来法と同様にオブザーバの特性多項式の次数を大きくとることによって制御器の自由度を増し,それを入力ノイズ対策に用いる.最小位相系の場合にはDiophantine方程式の各項に伝達関数の分母または分子多項式が含まれているため,マルコフパラメータを利用した設計が可能である.しかしながら,本論文で考える非最小位相系の場合,Diophantine方程式が特殊な構造をしていないため,なんらかの工夫が必要となる.そこで本論文では,拡張割算アルゴリズムを利用してオブザーバ多項式の次数を高く選んだ場合のDiophantine方程式の解をパラメトライズする.そして,入力ノイズによる出力の分散の上限値が最小となるように制御器を決定する.


■ モデル集合の同定法と直径に基づくその性能解析

東大・伊藤秀昭,興野大介,大石泰章,木村英紀

 この論文では,ロバスト制御のためのシステム同定について考え,同定対象の伝達関数として排除できないようなすべての伝達関数を含むモデル集合の同定法について研究する.このような同定法の性能は同定されるモデル集合の直径によって評価できるので,直径の性質について調べる.その結果,以前に提案されている Zhou and Kimura の同定法によって同定されるモデル集合の直径は入出力データ数を増やしても減少しないという問題が明らかになる.この問題を解決するために,Zhou and Kimura の同定法を拡張した新しい同定法を提案する.さらに,雑音がある場合には入出力データ数を増すことが必ずしも直径の小さなモデル集合を同定することにつながらないことが示される.直径の最も小さなモデル集合を同定するために最適な入出力データ数は,直径の上界から得ることができる.


■ ディスクリプタシステムに対するH∞制御問題のLMIによる解法

名大・宮崎 孝,武田秀徳,細江繁幸

 本研究では,ディスクリプタシステムで表現されたシステムに対するH∞制御問題の線形行列不等式(LMI)による解法を考える.従来の状態空間表現での結果を指数安定かつインパルスモードをもたないという安定性のもとで拡張する.ディスクリプタシステムの安定条件,有界実条件をLMIの可解条件により与え,これを利用しH∞制御問題の可解条件を求める.また,これらのLMIの解を用いた制御器の構成法を示す.

 ディスクリプタシステムに対する従来研究では,制御器の次数が制御対象の次数と同じ場合をあつかっていた.これに対し本研究では,状態空間表現と同様にLMIの解を用いたランク条件で低次元制御器が存在する条件を示す.また,従来あった等式の拘束条件をLMIの解の構造に置換え,より計算上扱いやすい可解条件の表現を与える.


■ ゲイン自動調整による非線形制御系の適応制御と磁気浮上系への適用

兵庫県立工業技術センター・安東隆志,神戸大・岩壺卓三

 本研究では,非線形性な運動系を制御系内部モデルとして獲得し,同時に制御する手法を提案する.この手法では,1) 電磁力などの非線形性を有する不安定な運動系に対して,安定化するためのフィードバック系を構成し,そのフィードバックゲインを制御系内部に獲得した非線形モデル用いて調整することにより線形化する.2) 線形化された運動系に対して,その逆動力学を構成することにより入力信号を生成し,運動軌道を目標軌道に一致させる.3) フィードバック系と非線形モデルを獲得する学習系を別々の処理装置に分散して構成することができるので,運動系の自由度が増しても,自由度に応じてフィードバック系を構成することにより,制御性能を劣化させることなく処理装置の負担を分散することが可能である.非線形モデルはネットワークに獲得され,ユニット間の結合荷重の学習則はPopovの超安定論に基づいて容易に導くことができる.さらに,提案する手法を未知の非線形性をもつ磁気浮上系に適用し,運動軌道を目標軌道に一致させる実験を行う.この実験結果により,高速かつ高精度に運動軌道が目標軌道に一致することを確認し,提案する手法の有効性を示す.


■ 事前データを利用した可変不感帯幅適応則

ダイキン工業・小坂 学,木村文孝,阪府大・柴田 浩

 適応制御特有の適応則の初期パラメータ調整の困難さは,現場が適応制御に対して抱く不安要因の1つとなっているため,それらを事前データから機械的に決定することが望ましい.

 スケーリング型適応則における可変ゲイン方式は,固定ゲイン方式に比して収束性に優れている.それに不感帯を挿入する場合も制御対象の特性変動に対する感度を向上するためには,固定不感帯幅よりも外乱に対して不感となる領域をできるだけ狭めた可変不感帯幅を挿入することが望ましい.

 本論文では事前データを利用した可変不感帯幅をもつ適応則を提案する.この適応則の収束性と収束後の性質を定理として与え,その証明を行い,可変不感帯幅を事前データと各時刻ごとに得られるデータからいかに決定するかを述べる.従来の適応則と異なる特徴は,従来のスケーリング型適応則を工夫して,それに可変不感帯幅を挿入できるようにしたことである.可変不感帯幅はαd0(k)で与えられるが,この定数αとd0(k)の係数は事前データから決定され,それらに各時刻ごとに取得されるデータを用いてd0(k)を決定する.

 さらに本方式を電気油圧システムに適用してその有効性が検証される.


■ 初期値補償を伴うモード切り換え型制御系の切り換え条件の設計と磁気ディスク装置ヘッド位置決め制御系への適用

日立・山口高司,沼里英彦,平井洋武

 磁気ディスク装置のヘッド位置決めサーボ系では通常,構造の異なる複数の制御系を順次切り換えて1つの制御動作を行うモード切り換え型制御系が用いられており,これにより高速アクセスと高精度追従を達成している.この方式の課題は,モード切り換え後の過渡応答の整形である.筆者らは,従来よりモード切り換え時にコントローラの状態変数に初期値を与えたり,コントローラに付加入力を与える初期値補償の考え方を適用する方法を提案し,その有効性を明らかにした.

 本論文では,モード切り換え条件の設計手法を提案する.制御対象の状態量の組み合わせについて,過渡応答時の制御量または操作量のH2ノルムを評価関数として,これを最小化するという意味で最適な条件を導出した.磁気ディスク装置ヘッド位置決めサーボ系に本方式を適用し,高速移動後の整定性能を改善できることを実験により示した.


■ プリフィルタによる舶用慣性航法装置の初期アライメントに関する短時間静定

横河電子機器・森本 隆

 従来の舶用慣性航法装置の動揺環境下における初期アライメントは,整定するまでに約4時間を要していた.これは運用上大きな問題となっている.本論文では,3個の機械式サーボ加速度計と3個の光ファイバジャイロを用いたストラップダウン方式舶用慣性航法装置の短時間初期アライメントに有効な手法を提案している.本手法は,初期アライメントの整定時間と精度を改善するために,船体動揺外乱により攪乱された観測データのプリフィルタとして区間移動方式のバッチ型最小2乗法を用いている.本論文では,初期アライメントへの動揺外乱の影響について検討し,この動揺外乱を除去すべきプリフィルタの設計手法について述べるとともに提案した本手法が有効であることをシミュレーションにより示す.


■ 連続火炎画像のカオス・フラクタル解析

九工大・関本勝也,緒方純俊

 本論文は,高速イメージセンサ(500フレーム/秒)とNTSCビデオカメラを用いて計測された炎の動画像にカオス・フラクタル解析を適用したものである.解析方法は,2次元および3次元に拡張したもので,本手法によって細かい時間間隔での火炎の動きがカオス的であること,また,粗い時間間隔では,エイリアシングの結果としてf-1またはf0となることがわかった.


■ DSPを利用した家庭用ガス識別システムの実用化について

鳥取大・菅原一孔,牛尾晃造,Byeongdeok Yea,尾崎知幸,小西亮介

 本論文では一般家庭用ガス漏れ警報器としての利用を念頭におき,これまでわれわれが提案してきたガス種識別手法を実用化するためのシステムについて報告する.識別対象のガスとしては都市ガスの主成分である水素と,調理時に発生するアルコール蒸気そして煙草の煙を考えた.また,実用化という観点から,小型のシステムとすることも開発目標の1つととらえた.

 ガス種の識別は各ガス雰囲気中で市販センサの応答が温度に依存することを利用している.そのため提案システムではセンサのヒータ温度をDSPで制御しながら,センサの過渡的な応答を取り込んでいる.ガス種の識別は取り込まれたデータをDSP上にプログラムしたニューラルネットワークを用いて行った.識別実験を行った結果,ガス種の識別については100%の識別率が確認できた.また,実験で開発したプログラムは7.5Kword程度であり,DSPのONChipメモリだけでもプログラムを実装することが可能であることがわかった.このような構成では外部にメモリを実装する必要がなく,小型なシステムを実現できる.


■ 決定論的変異を含むランダム探索法により構造化されたニューラルネットワークからのルール抽出

徳島大・福見 稔,赤松則男

 本論文では,決定論的な変異を含むランダム探索法により構造を最適化されたニューラルネットワークからデータに内在するルール(規則性)を抽出する方法を提案している.決定論的変異はニューラルネットワークの構造化学習の結果により,決定論的に解候補の値を変更する手法である.この決定論的変異を含むランダム探索法を用いて菖蒲データに対するネットワークの構造を縮小化する.学習後に残されたネットワーク構造がパターン識別のためのルールを表現していると考えられ,その構造からルール抽出を行う.ネットワーク中間層のユニットには,2値出力を生成するニューロンを採用することにより,学習後の論理関数抽出を容易にしている.菖蒲データの識別を行うニューラルパターン認識システムに対する計算機シミュレーションの結果から,本論文で提案される方法が,従来の方法に比べて,より簡単なルールを抽出可能であることが示されている.


■ カルマンフィルタを用いたCMACの一学習法

岡山大・平嶋洋一,京大・飯国洋二,足立紀彦

 Albusによって提案されたCMAC(Cerebellar Model Arithmetic Computer)は,分散共有メモリ構造をもつ表参照方式による非線形関数学習法である.CMACは教師信号を与える入力点(学習点)の周辺の入力に対しても学習効果を波及させることができる.この働きを汎化作用という.

 従来のCMACの学習アルゴリズムはLMS(Least Mean Square)法に基づいて導出されているため,学習の反復回数が非常に多くなってしまう.また,たとえ1つの入力に対して学習を行った場合でも,汎化作用によってその周辺部の出力値も変化するため,その近似精度が逆に低下する場合がある.これは,汎化作用が強く,しかもある程度の近似精度が得られている場合に,特に顕著となる.

 そこで本論文では,CMACのシステム方程式を導出し,カルマンフィルタをCMACの学習アルゴリズムに適用する方法を示す.この方法では,最小二乗規範に基づいて荷重を更新するので,従来のLMS法に基づく学習アルゴリズムに比べて少ない反復回数で同程度の近似精度が得られる.また,荷重の推定誤差共分散行列を使って更新するため,汎化作用の強さを考慮した学習が行える.これにより,ある程度の近似精度が得られている場合は,学習の影響が広範囲に伝播しなくなるので,学習点周辺の近似精度の低下を阪ぐことができる.

 ところで,一般にカルマンフィルタは,LMS法と比較して1反復当たりの計算量が大幅に増えるという欠点がある.しかし,いまの場合,CMACの1つの入力が指定する荷重の数は全荷重数に比べ非常に少ないので,システム方程式の係数行列が疎行列となる.さらに,互いに遠い位置にある荷重値はほとんど相関がないと考えられるので,実際に学習時に更新する荷重の数は非常に少なくなる.そこで,これらの性質を利用して,学習アルゴリズムの計算量を削減する方法を示す.


■ An Approximate Solution Method for a Section Mill Finishing Facility Line Scheduling Problem which is a Flow Shop Problem with Interference Among Products

川崎重工・Y. Miyamoto,M. Hayashi,K. Kato,S. Ihara

   This paper proposes a constraint oriented approach to solve practical multipurpose machine (MPM) flow shop problems with changeover time and limited transportation capacity. In practical MPM flow shop problems, the transportation capacity is limited. Owing to this limitation, interference phenomena peculiar to complex production lines occur, thus decreasing production capacity. The algorithm proposed in this paper solves practical MPM flow shop problems by explicitly using constraints to avoid interference. The validity of this method is confirmed by discrete simulations of a section mill finishing facility line. Furthermore, the method is applied to an actual section mill finishing facility line.


■ 遺伝的アルゴリズムによる階層型ネットワークの構造選択

神戸大・芝 直樹,小谷 学,赤澤堅造

 ノイズを含むような大規模で複雑なパターンの分類に階層型ネットワークを適用する際には,ネットワークの構造をどのように決定するのかが大きな問題となる.本論文では遺伝的アルゴリズムによる階層型ネットワークの効率的な構造選択方法を検討する.このために,中間ユニットの有無にもとづく新たなコーディング方法とネットワーク構造の複雑さを考慮した適応度関数を提案する.種々の論理問題や大規模で複雑な問題として,コンプレッサの音響診断に適用した.その結果,提案手法の有効性が得られた.


■ ニューラルネットワークの適応的ランダム探索最適化手法―RasID―

九大・平澤宏太郎,東郷和幸,胡 敬炉,大林正直,邵  寧,村田純一

 本論文では,パラメータ探索の成功・不成功情報を活用し,探索の集中化・多様化を統一した枠組で実現する新しい最適化手法であるRandom Search with Intensification and Diversification(RasID)を提案する.この手法は,勾配情報を用いないので,学習主体が微分不可能あるいは困難な場合にも適用可能である.また,RasIDはRandom Search Method(RSM)の一種であるので,ローカルミニマムからの脱出が可能である.

 シミュレーションでは,RasIDの集中化と多様化による探索プロセスを検証するために(1) 階層型ニューラルネットワークを用いた非線形関数近似問題と,RasIDの実際問題への適用の有効性を検証するために(2) 非線形クレーンシステム最適制御問題を検討した.

 その結果,RasIDは集中化・多様化を統一した枠組の中でシステマティクに実現することにより,バックプロパゲーションと同等,もしくはそれ以上の良好な結果が得られることを確認し,さらに学習速度についても約17〜25%の時間に短縮できることを示した.


■ 観測ノイズを考慮した多峰性未知関数最適化問題への可変階層構造学習オートマトンの適用

徳島大・最上義夫,大阪教育大・馬場則夫,ジャストシステム・古澤伸介

 多峰性未知関数のより一般的な最適化問題を考えるとき,関数の値が正確には得られない場合,すなわち,関数の値を観測するときなんらかの観測ノイズが含まれる場合も考慮することが必要であろうと考えられる.この問題は,観測ノイズが存在する場合の多峰性未知関数の最適化問題となるわけであるが,この場合,従来の最小点探索手法を用いることは基本的に不可能である.

 そこで,本論文においては,不確実な情報のもとで学習に基づいて徐々に最適解を見い出していくという特性をもつ可変階層構造学習オートマトンに着目し,これを用いることによって観測ノイズが存在する場合に多峰性未知関数の大域的最小点を見い出すような探索アルゴリズムを構築する.そして,2次元および4次元多峰性未知関数の大域的最小点の探索に本探索アルゴリズムを適用した数値シミュレーションによって,本探索アルゴリズムがノイズを含む観測値しか得られないような場合に大域的最小点を見い出すことを示す.


■ 指数重み付き最小2乗法によるEBP学習アルゴリズム

鳥取大・山本祥弘,坂本和洋

 階層型ニューラルネットワーク(NN)に対する教師付き学習アルゴリズムとして,有名なBP法およびその改良型などで用いられている勾配法から脱却した新しい誤差逆伝搬法であるEBP学習アルゴリズムを,著者の1人がすでに提案している.その方法は

A) 誤差逆伝搬法(EBP):各中間層への仮の教師信号を,NNの出力誤差から順に決定する.

B) 重み決定法:与えられた仮の教師信号との誤差を最小とするように重みパラメータを決定する.

の2つから構成される.ここで,B) の重み決定法には種々の方法が考えられるが,本論文では,線形パラメータ推定でよく知られている指数重み付き最小2乗法(EWLS)を用いることを提案している.このEBP-EWLS学習アルゴリズムを正弦関数の学習に応用し,その有効性を検討している.提案する学習アルゴリズムは,学習回数の改良と,重みの初期値に対する収束割合の向上を目的としており,例題においてはそのいずれに対しても満足できる結果が得られた.特に,初期値に対しては100%の収束率を得ることができた.


■ 黄信号時のドライバ挙動のばらつきとその定量化

機械技研・重田清子,津川定之

 この研究は,信号交差点流入部を走行中に黄信号に遭遇した個々の車両の位置と速さの測定データに基づいてドライバの挙動にばらつきが存在することを明らかにし,そのばらつきの定量化を試みたものである.マシンビジョンを用いたセンサで黄信号を中心に計測した個々の車両データから,まず通過車両群と停止車両群が混在することを明らかにし,つぎにその領域を車両の位置と速さから統計的に同定し,この混在領域は従来のジレンマゾーンと密接な関係があることを示した.さらにこの研究腕は,個々の車両の走行特性のばらつきは交通流の安全性や円滑性に大きな影響を与えるという観点から,混在領域のばらつきをエントロピを用いて定量化することを提案している.ドライバ挙動のばらつきを,交差点通過と停止のばらつきおよび車両の速さのばらつきに分けて定量化し,エントロピの大小と危険について考察を行った.


[ショート・ペーパー]

■ ハフ交換による1画像からの円柱の位置検出

宇部高専・松井稜治,山根彌生,落合 積

 水平面に直立する円柱の背景との境界である垂直エッジのカメラ画像を画像処理すれば2本の直線となる.この画像をハフ変換(ρ,θ)するとこの垂直エッジのカメラからの平面方向はρの値のみから検出できる.これらの直線に最小2乗法を適用することによりさらに詳細なρの値を検出することができる.さらにエッジ画像の最下端部の座標を求めることにより,この垂直エッジのカメラからの方向と距離の平面的値を得ることができる.

 そこであらかじめ測定領域をいくつかに分割してその各分割境界点でのρやエッジ画像最下端部座標を求めておいて表にしておき,各点のカメラからの方向や距離を近似的に検出する.ロボット中心から距離500mm程度の各種方向に円柱をおいて,検出実験を行ってみたところ,誤差1〜2mm内で検出することができた.


■ 時変な不確かさを含む線形システムに対するロバストサーボ問題の一考察

阪府大・伊藤 章,小亀英己,小西啓治

 一定目標値信号に追従するロバストサーボ系設計に関する研究は従来から行われており,多くの成果が得られている.特に,時不変な不確かさを含む線形システムを対象とした設計法では,不確かさを陽に考慮しない設計法に見られるような拡大偏差系を構成し,サーボ問題をその二次安定化問題に帰着させている.しかし,不確かさが時変である場合,定常状態を事前に仮定できないため,拡大偏差系を使用した時不変系に対する設計法を単純に適用することは困難である.

 そこで本論文では,時変な構造的不確かさのもとで一定目標値への漸近追従性を達成するために,プラントの状態と制御入力の原信号に目標値入力を加えた拡大系を構成し,出力偏差を含む二次評価関数を有限にするコスト保証制御を求めるというアプローチについて検討する.このため,コスト保証制御に関する既知の結果を一拡張したうえで,前述の拡大系に適用した.その結果,プラントに対する可観測性等の付帯条件のもとで,あるRiccati不等式が半正定解をもてば,ロバストサーボ系が構成可能であることを導出した.


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