特別講演

甘利 俊一 氏(帝京大学 先端総合研究機構 特任教授,東京大学名誉教授,理化学研究所栄誉研究員)
講演タイトル:
AIの歴史、現状そして未来文明の展望

講演概要:
 AIの発展には驚くべきものがある。しかも、現在も急速に進展中であり、学術のみならず社会と文明に大きな影響を与えるであろう。本稿では、人間の脳と対比しながらAIの歴史を展望する。さらに、その現状を概観する。
 大きな問題点は理論の遅れである。規模が拡大するにつれて明らかになるスケーリング則や、創発などに対する理論が出来ていない。私は、これがパラメータ空間の特異性に関係するかもしれないと夢想している。多層神経回路網では、パラメータ数を増やすと特異点の網の目が密にパラメータ空間を覆う。このような空間上での最適化問題はこれまでにあまり議論されていない。特異構造は、制御では有理型遷移関数の空間でも現れる。
 AIは極めて有用ではあるし、これを活用しないわけにはいかない。一方それは人間の思考力を奪い、文明に大きな影響を与えるかもしれない。AIの危険性について考え、それと対処することは大変重要な課題である。


山本 英明 氏(東北大学 電気通信研究所 准教授)
講演タイトル:
学際融合による神経回路機能の探求と「バイオ超越」への挑戦

講演概要:
脳神経回路の数理モデルである人工ニューラルネットワーク(ANN)は、機械学習・人工知能の基盤技術として社会に大きなインパクトをもたらしている。ANNでは通常、数学的に抽象化されたニューロンモデルが用いられるが、神経発火を直接扱うスパイキングニューラルネットワーク(SNN)も、ニューラルネットワークの計算を少ない電力でハードウェア実装する方法として注目されている。一方、生物のニューラルネットワーク(BNN)は、化学エネルギーを活用し、極めて効率的な情報処理や学習を実現している。本講演では、自発活動や可塑性などのBNNの特徴の理解を目指した人工神経細胞回路の応用研究、および生命科学・情報科学・電子工学の専門家と立ち上げた学術変革(A)「脳神経マルチセルラバイオ計算の理解とバイオ超越への挑戦」の取り組みについて紹介する。